第15話 戦闘

「あ、見つけましたっ」


ボクは薬草を見つけてギンリュウさんに向かって掲げる。

先ほどの会話から少し経った頃、ボクとギンリュウさんはそこそこの薬草を集めていた。品質的には下の中ぐらいらしいけどこの辺だと流石に仕方ないらしい。まぁ何も知らなかったボクが普通に移動できてたぐらいだ、そもそも魔物にもまだあったことはない。ギンリュウさんも周りを警戒しているからボクも周囲の魔力を感知する系の魔法? を使ってみたが魔力の区別がつかないのか辺りに大量に魔力反応がある。

これ薬草とかも認識してるのかな、マップで表すと全部黄色で染まってるような感じだ。慣れてくれば区別できたりするのかな。


手に入れた薬草をギンリュウさんのポーチに入れる。ある程度の量は入っている気がするが煎じて薬にすると2~3回分ぐらいしかないそうだ。品質の高いものだと一つでw2~3回分は作れるらしい、薄めても効果があるってことなのかな。いつか薬草の薬…ポーションの作り方も調べてみようかと思考する。


「それにしても魔物を全く見ませんね」

「…本来ならもう少しいるんですか?」

「えぇ、自分が前に来た時は獣系の魔物がいたはずなのですか…」


辺りを見渡してみても魔物らしきものや鳥などの動物も見当たらない。

風で木々が揺れる音がするぐらいで鳴き声などは聞こえないのに動物がいたような痕跡はある。木の爪とぎ跡や食べ残しの木の実、なのに生き物は何にもいない。

たしかに不可解、ギンリュウさんが言うにはボクがいた時にはもうすでに魔物の姿がいなかったようでキールさんとボクが最初にあったのもキールさんが先行して森の様子を見ていたからって言うのもあるらしい。


「とりあえず予定されていた分の半分は集まりました。そろそろ入り口に戻ってみましょうか」

「分かりました、あ、あそこにも薬草がありますよ」


ボクが新たに薬草の生えているところに駆け寄ろうとするとギンリュウさんがボクの肩を抑えて止めた。


「…? ギンリュウさん、どうし」

「下がってっ!」


首後ろを掴まれて後ろへと投げ飛ばされる、なんとか着地したがギンリュウさんは既に先へ駆けており刀に手をかけていた。

ギンリュウさんが向かっている方に目を向けると


「え…?」


そこには黒い毛並みの狼のような動物がこちらに向かっていた。数は4~5体ほど、ボクが突然のことに戸惑っているとギンリュウさんの声が響く。


「ナイフを抜いて自分の後ろへ! 可能なら魔法で支援を!」

「はっ…はいっ!」


急いでナイフを抜いてギンリュウさんの背後へ移動する。魔法はとりあえず支援系を…こうやって…。


「壁…風…纏せて…」


イメージをしながらギンリュウさんの身体に纏わせるように風の壁を貼る。必要ないかもしれないがあるだけましなはず…!


「シッ!」


ギンリュウさんが居合をし、狼の一体首を斬り落とそうとするが狼はそれを刀に視線を向けるようにして避けた。


「…フッ!」


避けられたギンリュウさんはそのまま一回転すると避けた狼の首を斬り飛ばす。血が噴き出し地面へと落ち、思わず顔を手で覆ってしまった。他の四体は急に手を止め後方へと下がる。何か妙だ、何とも言えないけど違和感がある。

ギンリュウさんも察したのかゆっくりと構えながら相手の出方を伺い少しこちらへと下がる。


「支援ありがとうございます、可能なら攻撃もお願いできますか? 牽制でも構わないので」

「は、はいっ。…雷…大きく…放射!」


ボクの手から放射上に雷が発射される。その雷は狼たちへと向かうが狼たちはその雷を避け、こちらへと走ってきた。


「【柳】」


瞬間、ギンリュウさんが大きく飛びまわりながら刀を抜く。刀を抜いたと思ったらキンッと甲高い音と共にすでに刀を収めており狼三体の首が飛んだ。だが狼の一体は頸を僅かに切りつけただけであり、ギンリュウさんはしまったっ! と声を上げてこちらを向き叫ぶ。


「シェリーさん避けてください!」

「え…あ…」


狼が眼前に迫る。突然でありナイフを持ったまま棒立ちしているボクの眼前に狼の牙が見えた。


その瞬間、身体が勝手に動いたかのようにナイフを前に出し。首筋にナイフが突き刺さった。狼はそのまま力を失いボクの上に覆いかぶさりその拍子にナイフが抜け、狼の血が噴き出しボクへとかかった。


「シェリーさん! 大丈夫ですか!?」


ギンリュウさんがボクの上に乗った狼をつかみ上げて投げ飛ばしボクを見た。


「…うっ」


ボクは口を手で押さえてずっと持っていたナイフを手放し、その場から座ったまま後ずさる。ボクは今生き物を殺した、血が、臭いが、手に肉の感触が、震え、汚れて、死んで、殺しt


「シェリーさん!」


肩を強めに叩かれる、びくっと肩を跳ねさせて視線をギンリュウさんに合わせる。


「大きく息を吸って、大きく吐いてください」


言われたとおりに震えながら深呼吸をする、しているとどんどんと落ち着いて行きボクはゆっくりと意識を失った。






「…」


意識を失ったシェリーさんを抱え、木の幹に預ける。


「…わざと狼を向かわせてみたが生き物を殺したのは初めてか、動揺も本物。別におかしい所はないが…最後の動きだけは妙に慣れているように動いていたな」


そして立ち上がり先ほど投げ飛ばした狼の元へと向かい、シェリーさんを襲う前に首後ろに投げた刺さっているナイフを抜き、血を拭い懐へとしまう。

もちろん先ほどシェリーさんに嗅がせた香も遠くへ捨てた。そのまま死体を観察する。


「…これは」


狼の首元に梵字のような記号が描かれている小さな楔が打ち込まれている、ギンリュウは顎に手を当てるとふと呟いた。


「…呪具師…いや、死体が残っているから呪術師か。この数を気配もなく操れるなら中々だな」


するとギンリュウは何かに気付いたのか急速に振り向きナイフを投げた、数メートル先の木にナイフが突き刺さる。その後即座にその場へと走った。


「…逃げたか、私か? それともシェリーか、どちらにせよ面倒な…おっと」


ギンリュウは木に刺さったナイフを抜きながらごほんと咳払いをした。


「いけませんいけません、普段から口調を正しておかないとうっかり素が出てしまいますね。気を付けないといけません」


ギンリュウは口調を変えるとシェリーを抱え上げ先ほど来た道へと向かう。

シェリーは血を被ったので全身が赤くなっている。ギンリュウは溜息を吐くと歩を進めた。


「あぁ、セシリアさんに色々と言われてしまいますねぇ。非常に面倒です」


ギンリュウはこれから起こることに顔を歪めながら出口へと向かった。

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