「アームヘッド・トレーナー」

アームヘッドの生物兵器としての側面については、いまだ解明されていない事も多い。

今度の話は、そんな謎の一つにまつわる話だ。


――――――――――――


「せ、セイントメシアです!!」

ヴァントーズ隊の一機が怯み叫んだ。

「馬鹿!よく見やがれ、こいつはただの弥生だろ!?」

隊長機のヴァントーズは怒鳴り返す。


五機のヴァントーズ隊は三機の弥生・改と交戦中であった。

それらの弥生はセイントメシアを模した威圧的な色と形に改造されている。

通称”ペイントメシア”は性能に関わる部分の強化は施されていない。


それでもヴァントーズ隊はこのメシアもどきに圧倒され駆逐されていた。

「た、隊長・・・・・・!」

「本当に『血染の羽毛』になった気分だぜ!!」

ヴァントーズの一機を仕留めた若年パイロットがせせら笑う。

「雑魚はこの色を見るだけでちびっちまうようだからな」

弥生改が逃げるヴァントーズの前にまわる、そして迅速にその首を刈った。

「うわああああ!?」

「面白いほどスコアが稼げるぜコイツはよぉ!」

メシアもどきがヴァントーズの首を弄びながら歓喜する。


瞬く間に三機が撃墜されてしまった。

隊長は動揺と怒りが混ざった衝動のままその武器を振るう。

「貴様らのような若造ごときにぃぃ!!」


そこへ三機目の弥生改が立ちはだかる。

その刃はすでに倒した一機の血で鈍く光っていた。

「隊長は私がもらったわ!」

「おいズルいぞ!?」

弥生のパイロット達は戦績を上げようと手柄について口喧嘩する。

それは敵への挑発としては充分だった。


「貴様ら全員わしが討ち取ってやる!!」

隊長ヴァントーズはマシンガンで牽制しながら接近、

エレキサーベルを抜いて切りかかり、メシアもどきの血染の刃と競り合った。


「俺がもらった!」

別の弥生改が飛び降りて隊長のバズーカを切り飛ばした。

「なんだよお前ら、じゃあ俺がやる!」

残りの弥生も隊長ヴァントーズの股関節に刃を埋めた。

「遅かったわね!!」

サーベルを弾いた弥生は血に染まったブレードを再び敵に突き刺した。


「な・・・・・・なんたる・・・・・・!?」

三機のメシアもどきに啄ばまれた隊長ヴァントーズは血を吹き上げながら倒れこんだ。


「止めを刺したのは私、よって私の手柄よ?」

「ちきしょー、やりやがったな!?」

「おい待て、まだ一匹逃げてる奴がいるぞ?」


弥生隊が唯一生き残ったヴァントーズを追い詰める。

次は、誰がコイツを仕留める?


その時だった。


「・・・・・・なんだ、セイントメシアじゃあなかったのか・・・・・・」


岩の上にたたずむ黒い影。

ヴァントーズと三機の弥生の間に降り立ったのは、またしてもヴァントーズであった。

しかし新手のその姿は、通常のヴァントーズとは違い貧弱な印象ではない。

むしろ腕っ節は太く、筋骨隆々、まるで鍛え上げられているような?


「あんだと?雑魚のクセにガッカリしてるんじゃねえ!」

血気盛んな弥生パイロットが、いち早く手柄を取ろうと危険な刃を振るった。


「!!?」

確かに刃を振ったはずだった。

しかし状況を認識した時には、自分は鋼の拳によって弾き飛ばされている最中であった。

一撃のパンチで倒れこむ弥生。僚機はそれを尻目に敵の背後に回った。

「おいおい冗談だろ?俺がやってやるよッ!!」

背中をとった弥生改はブレードを掲げて一直線!

「・・・んなーッ!?」

意気揚々としていたパイロットは一瞬で視界が変わる衝撃にちびった。

とてもヴァントーズとは思えない鋭い回し蹴りが顔面にめり込む!

ついに二機目のメシアもどきがへばる。


「見てくれだけで勝とうなどと・・・・・・」

マッチョ・ヴァントーズのパイロットが冷たく言い放った。

「なっ!情けないわね!!」

唯一残された弥生改は、不測の事態に取り乱しそうになりながら、その刀を構える。

そして飛び上がり上空から切りかかった。


「その機体。鍛えていないな?まったく可哀想だぞ」

弥生に届いたのは予想だにしない余裕の台詞だった。

ヴァントーズが跳躍、宙返りしつつも蹴りを放つ。

その足は弥生の刃よりも速くその体に埋まった。

吹っ飛ばされるメシアもどき、倒れるもすぐに起き上がろうとあがく。

「ガッツはあるな」

遂に起き上がった弥生だが、次には顔面の両側から迫る鉄拳が見え、それをストレートに喰らった。

するどい衝撃が走って、メシアもどきのパイロットは機体とシンクロするかのごとく昏倒した。


「・・・・・・な、なんだコイツやべえぞ!?」

「いいから逃げるぞ!?」

先に倒された弥生に意識が戻るが、もはや戦う意思はなく、足早に去っていった。



「やはり俺の理論は間違っていない。アームヘッドは鍛えるべきなのだ」

ヴァントーズのパイロット、ゲインは言いながら、機体と同じポーズをとって筋肉を軋ませた。




「・・・・・・アレ・・・・・・?」

気を失っていた、メシアもどきのパイロットの一人が目を覚ます。

そこはコンクリート打ちの部屋、しかもベッドに寝ていた。


「目が覚めたか」

聞き覚えのある声!

背筋に電撃が走ってその方向を向く。


そこには腕立て伏せをしている、筋肉ダルマの男がいた。

上半身裸!!下はボクサーパンツ一丁!!!!


「ちょ、ちょっと!?」

弥生パイロットは布団を跳ね飛ばして逃げ、壁に背をつけた。


「恐れる事はない。君のようなお嬢ちゃんは俺の趣味じゃない」

男は黙々と腕立て伏せを続けていた。


「し、失礼ね!」

少女は言いつつも武器を探した。

この部屋にはベッドとトレーニング器具しかないようだった。

ならば、ダンベル!


若いパイロットは鉄の塊に素早く近づき、手に取った。

全くびくともしない。


「また俺と戦うつもりか?生身の方が敵わないと思うぞ?」

腕立てを止めた男が、少女が引っ張り上げているダンベルを、軽々と持ち上げた。

そのままダンベルトレーニングにメニューを変える。


「なんなのよあんた」


「俺の名はゲイン。通称、”アームヘッド・トレーナー”」

男は筋肉を見せ付けるようにして、白い歯を光らせながら言った。


「あーむへっど・とれーなー?」

少女はこの奇妙な敵のペースに乗せられていた。

「そう。俺のヴァントーズを見てどう思った?」

ゲインはトレーニングを再開する。

「普通じゃなかった。やたらに手足が太く改造されてるって」

「その改造っていうのは、技術的なもののことか?」

「ヴァントーズの手足を取り替えれば、ああなるでしょ?」


するとゲインが歯を見せながら笑った。

「やはりそう言うか。確かに俺のヴァントーズは改造してある。

 だが技術的な改造じゃない。『肉体改造』だ」

「えっ?」

少女の目が点になる。


「俺は己の肉体を鍛えるのと同様に、アームヘッドにもトレーニングを施している。

 これは従来の兵器には無かった、生体兵器の特権だ。

 いままでの機械は、酷使しても多少の慣らしがある位で、ただ消耗するだけだった。

 だがアームヘッドはバイオ・メカニカル、つまり生物的構造、それだけではなく実際に筋肉もある。

 この巨大な生物の肉体を鍛えるのは一筋縄にはいかない。だからこそ俺はそれに挑んだ」

ゲインが再びマッスルポーズを決めた。


「アームヘッドで筋トレを?マシンが育つっていうの?まさか?

 実際あのヴァントーズがそうでも、それって調和とかあんたが特別なだけなんじゃない?」

少女は思いのほか冷静に疑問を投げた。


「今までの連中も、そう言って相手にしなかった。

 信じても、兵器を時間をかけて鍛えるより、早く高性能にすべく技術的改造を進めるべきだと言った。

 だが、アームヘッドをそうした単なる兵器として考えるのは、俺は違うと思った。

 与えられた肉体を、使い捨てたりただ武器を切り貼りするだけというのは、薄っぺらいし、失礼だ。

 実際に鍛え上げた肉体は、ただそれだけで、技術改造を超えた確固たる武器になる。

 鍛え続ければいくらでも進化させることが出来るのだから。俺のヴァントーズのように」


「・・・・・・だけど、そんなのは初めて聞いたわ。

 有用なら、同じ事を言っている奴が、帝国にだって居てもおかしくないでしょ」


「かつては・・・・・・俺と同様に、アームヘッドを相棒として共に汗を流す、仲間達がいた。

 だが・・・・・・俺の仲間達はみな、『血染の羽毛』セイントメシアの性能の前に敗れた。

 リズでは人間の肉体改造は盛んだが、それは正統なトレーニングじゃない。技術的改造の話だ。

 結局、アームヘッドも技術的改造ばかりが勧められ、俺達の努力は水の泡になった」


そしてゲインは背筋を浮かび上がらせた。


「今の俺は単なるリズの傭兵だ。

 あれから一人、いやヴァントーズと二人で鍛錬を積み重ね、いよいよ形になってきたというところだ。

 俺は、アームヘッド技術の粋であるセイントメシアを、肉体だけの力によって倒す事で、

 トレーニングの有用性を世に知らしめ、仲間達の努力を報わせてやりたい。

 そしていずれは、戦争での兵器としてではなく、競技として鍛えたアームヘッドで行うスポーツ、

 アームヘッド・レスリングの開催を実現したいと、俺は夢見ている!」


男は太陽に向かって肉体美を披露した。


「・・・・・・す、すごいわね、あんた」

少女は敵意を忘れて翻弄されていた。

「ところで・・・・・・君たちと戦っていて、気づいた事がある。

 君には、自分のアームヘッドへの愛が足りない。

 そして、自分自身の肉体への愛にも欠けている」

「えっ?」

「君はアームヘッドの気持ちを考えた事はあるか?

 ただ見かけだけ、セイントメシアの偽者に改造されて、嫌でも見栄を張る。

 このままではかわいそうだとは、思わないか?」

「そ、それは・・・・・・」


「君には俺の話が分かるようだ。だからきっと素質はある。

 それに君の命は俺が握っているといっても過言ではない。君をどうしようと俺の自由だ。

 だから俺は、君も鍛えてあげようと思う」

「えっちょっとっ」

「何、簡単な事だ。君が成長しないで逃げるというなら俺がもう一度相手をしよう。

 つまり俺に勝てるようになるまでか、味方が助けに来るまではここから脱す事は出来ない。

 それまでゆっくりと着実に鍛えていけばいい」

「んな、勝手な事言わないで!」

少女は拳を振るった。

「そんな攻撃では俺は倒せん」

素早く拳を受け取るゲイン。


「・・・・・・どうして、敵の私を鍛えるなんて・・・・・・」

「君は、強くなりたいだろう?それに俺の夢の実現には、どうしても仲間が要るんだ」

「・・・・・・」

少女にはどうすれば良いかよく分からなくなっていた。


「さて、これが君の一週間のトレーニング・メニューだ」

初心者用と題されたそれは既に用意されていた。

「・・・・・・跡継ぎを待っていたのね。いいわ!とっとと強くなって帰ってやるんだから!

 でもこれ・・・・・・あたしのトレーニングとアムヘのトレーニング、両方毎日やるの??」

「当たり前だ。続ければいずれは俺のようになる」

「・・・・・・それはイヤかも」


「どちらかだけというのは、バランスの観点からかなり厳しい。

 それじゃあ早速始めてくれ。俺は君のアムヘを直してこよう」

ゲインは半裸のまま外へと出て行った。


「ちょっと・・・・・・!」

少女は男の言動が何もかも奇妙だと感じつつ、仕方なしにトレーニングを始めた。




少女・アンナーは律儀にトレーニングを終えた後、

戻ってこないゲインの様子を見に、外へ向かった。

荒野に建つこのコンクリ打ちの家には、四部屋があり全て同じ間取りであった。

彼女はここを陸の孤島かつ広い監獄のようだと感じた。


外にはすっかり直ったメシアもどきと、

トレーニングに励んでいるマッチョ・ヴァントーズの姿があった。


「あ、あんな器具が・・・・・・」

アンナーは唖然とする。

「終わったか。さほどきつくはないだろう?

 これから数を増やしていくが、体はそれに順応するはずだ」

ゲインはそう言って、巨大なバーベルを軽々と上下させた。


「鍛えてここまでなるなら、もし最新のアームヘッドでこれをやったら・・・・・・」

「いいや。古株のヴァントーズだからこそ醍醐味がある。

 祖体についてはそれほど考慮しないのがこのトレーニングだ。

 それに、装甲や機構の多いアームヘッドでは筋肉の付きが悪いからな」

ヴァントーズは黙々と重りで鍛えた後、それを地面に落とした。


「さて、次は君の番だ」

「あたしを弥生に乗せたら、逃げるかもしれないわよ?」

「それは無理だな」

「・・・・・・・・・・・・そうね」


アームヘッド用のバーベルは、重りの中の水量によって段階を変える。

ただし水を入れていなくてもその重量はかなりのものだった。


「ねぇ・・・・・・やっぱり、祖体の向き不向きってあると思うの」

弥生・改の両腕は最初から貧弱である。

「弥生に失礼だぞ。もっとお前のアームヘッドを信じてやれ」

しばらく待ってからようやくバーベルを上げきる。

「よしその調子だ、足を鍛えるのも忘れるな?」

「そんなすぐ、何でもかんでも出来ないよ・・・・・・」

それでもアンナーは数時間粘り、律儀にその日のメニューをやりきった。




ゲインとアンナーの奇妙な修行生活が続いて、早三週間。

いつものようにトレーニングを終えたアンナーの元に、ふらっとゲインが現れる。

そして持っていたプロテイン・ドリンクの一本を手渡した。

「ありがと」

「アンナー、君の肉体はまだ完全ではないが、トレーニングの習慣はついている。

 俺の事情が変わった。食料とか生活もろもろの事もあるし、君はもう帰ってもいい」

「ほ、ほんとに!?」

「だがタダで帰すのは、君をここに置いた意味が無い。

 俺はセイントメシアを倒す。ついにその準備が整った。

 だから俺は、君を人質にしてセイントメシアをおびき出す。その後は自由だ」

「それも、私を置いた目的だったのね・・・・・・!」

「俺も脳筋ではない」


その日、ゲインはアンナーを利用してプラント帝国軍に対し、

人質と引き換えにメシアとの決闘を望むと声明を送った。



そしてその日がやってくる。

ゲインの目前に現れたのは、二体のセイントメシアであった。

「助けに来てやったぞ、アンナー!!」

いや、前回と同じメシアもどきだ。

「やれやれ、本物は忙しいのか?」

ゲインのヴァントーズが、自らの家を背に立ちはだかった。

「知るかよ!てめぇは俺が倒してやる!!

 パワーアップ・チューンを施した弥生改・改の力を見せてやるぜ!!」

メシアもどきは高速で襲い掛かった。


そして高速でやられた。

ゲインのヴァントーズは最大重量のバーベルを振り回して、敵を圧砕した。

「こんなもので俺が満足すると思うのか」

すでに残りの弥生パイロットはちびっていた。

「こ、こいつ武器なんか使いやがって!」

そう言って自分もブレードを掲げながら、一撃離脱戦法で戦おうと挑む。

が、離脱など出来ず、まして一撃も加えられなかった。

豪速ハンマーの一撃の下に崩れるメシアもどき。

「早く本物を遣せ」


しかし次にゲインの前に現れたのも、メシアもどきであった。

そう、アンナーの機体だ。

「ごめんなさいゲイン師匠。私、あなたには感謝しているわ。

 だけど、こいつらだって一応、私の仲間なの。

 だから助けなきゃいけない。私も、もう帰らなきゃいけないの!!」


「それでいい、アンナー。最後のトレーニングは、こうして戦うメニューだった」


アンナーの機体はとうに武器を捨てている。

そして、その腕っ節は最初の頃よりも、遥かに力強くなっていた。

「いくわよ、師匠!!」

「来いっ、アンナーッ!!」


弥生改は左の豪腕を繰り出す。

対しヴァントーズも右の拳を返した。

鋼の拳がかち合い、火花が飛び散る!!


両者とも衝撃に打ちひしがれることもなく、

その勢いで両腕を突っ張って取っ組みあう!

互いに関節を軋ませながら、力任せに押し合う!

ゲインのヴァントーズの方が勝っている!

押されていくアンナーの弥生、だがそこで力を引く!


わずかに前のめりとなったヴァントーズに、

アンナーのストレートパンチが炸裂する!

顔面を殴られたマッチョ・ヴァントーズはよろめいた。

だがその足は、しっかりと地面を踏みしめていた!


受けた衝撃を足に流し、確固たる軸へと変える!

そしてバネのように反り返るヴァントーズの筋肉!

弾き出される弾丸のような鉄の拳!!


視界が飛んでいく衝撃!!

弥生はヴァントーズの剛拳によって殴り飛ばされる!

アンナーはこの瞬間、負けたことを自覚した。


倒れこむアンナー、拳を向けたままの姿勢で、静かにそれを見下ろすゲイン。


「上出来だ、アンナー」


「ありがとう、師匠」



そしてゲインが振り返る。

岩の頂に立つ『血染の羽毛』の姿があった。


「ようやく現れたか」

ゲインはそう言って、ヴァントーズにアンナーを指すジェスチャーをさせる。


人質の存在を認識したセイントメシア、岩から静かに降り立った。

マッチョ・ヴァントーズは静かに戦闘体制をとる。

セイントメシアは、敵の背格好をくまなく見たあとで、スタッフを地に立てて手放した。

アンナーは横たえながらその様子を見ていた。

血染の羽毛もまた、素手で闘うつもりなのだ・・・・・・。

少女にはいよいよ戦いの結末が分からなくなってきた。


「はあああぁぁぁッ・・・・・・!!」

腰を低く構えたヴァントーズ。

その関節部からは煮えたぎった蒸気を噴きだす!


対しセイントメシアは、足で地面を均すようにして待っていた。


「いっくっぞぉぉぉぉぅッ!!」


ゲインの機体はヴァントーズではまず有り得ないスピードで駆け出した!

そして黒い弾丸が鋼の拳を撃ち出す。

セイントメシアも迅速に白い蹴りを放った。

最初の一撃が激突しその衝撃を打ち消しあう。

間髪入れずメシアが飛び上がって次の蹴りを繰り出した。

その足をヴァントーズのアッパーが捉え、再びのインパクト!


空中で回転するメシア、ゲインが次の拳を構える!

着地と同時、ハンマーパンチは既に迫っている!

メシアは足を揃えてバック宙返り、その拳を蹴りで弾く!

二度目の着地、その瞬間にメシアが飛び上がり、両のとび蹴りを食らわせる!


ゲインのヴァントーズは後方に吹っ飛ばされた。

追撃を迫るメシア、起き上がったゲインは降ってきた敵の足を掴む!

そして振り回される血染の羽毛!

ゲインが投げ飛ばし、セイントメシアが地を滑る!


ヴァントーズが走り、マウントをとる為に拳を振り上げる。

地面に翼を叩きつけて姿勢を戻すメシア。

そこへ迫ったゲインの拳は、メシアの顔面にクリーンヒット!

よろけるメシアの鋭い蹴りは、ヴァントーズの首を掠める!


また間合いをとる二機、ゲインは腕を伸ばしてラリアットを繰り出した。

寸前でかわすセイントメシア、飛び上がってかかと落としを見舞う。

それを鋼鉄の拳でガードするヴァントーズ。

続けて豪速の蹴りを放つ、弾き飛ばされる血染の羽毛!


ゲインは隙を逃さず飛び掛かる!

姿勢を戻したメシアの対空アームホーンキック!

それを二つの拳で受け止めるヴァントーズ!

ゲインの着地!足を伸ばすセイントメシア!

二機のアームヘッドの回し蹴りが同時に放たれる!!


バランスを崩して倒れる両者!

マッチョ・ヴァントーズは地面を殴って立ち上がる!

翼を土で汚しながらも立つセイントメシア!

その時!ゲインの腕が、ヴァントーズの筋肉の繊維がバネのようにねじれ、収縮する!

音をたてて肩口から蒸気を噴出するヴァントーズ!!

危険な攻撃を予感したセイントメシアは、腰を落として迎え撃つ!!


そして!!ヴァントーズの腕の筋肉全てを使った究極のパンチが打ち出される!!

その衝撃波は音となって荒野を揺るがす!

鉄の拳は空気の壁を打ち砕き、一直線にメシアの頭へ!!

砕け散る血染の羽毛の顔面!!!

セイントメシアは倒れるか!?いや、姿勢を限界まで低くしているだけだ!!

鉄拳と地面の間をすり抜ける、白い残像!!!

その正体は、ヴァントーズと同じく筋力全開で放たれた、メシアの上段蹴りだ!!!


それは一度掠めた、ヴァントーズの図太い首へと突き刺さる!!

傷の続きを抉りぬき、刎ね飛ばされるマッチョ・ヴァントーズの首!!!!

瞬く間に繰り広げられた激しい格闘戦!その勝者は、血染の羽毛であった!

そしてゲインは、今までセイントメシアが技術性能によって勝っていると思い込んでいたことを後悔した。

「セイントメシア・・・・・・よく育っているな!!」


頭を失ったヴァントーズの前で、顔を潰されたセイントメシアが見下ろす。


しばらくそうした後、地面に刺さったスタッフを引き抜き、

またアンナーの乗るメシアもどきを抱え込み、手早くセイントメシアが飛びたった。



「・・・・・・・・・・・・また会おう、アンナー。

 次に会うときはアームヘッド・レスリングの、リングの上でな」


少女の元に声が届いた。


「ゲイン!!その時を、楽しみにしているわ!!」


アンナーは爽やかにそう返した。




やはり、アームヘッドを育ててきて、間違いはなかった・・・・・・。

ゲインは一人ごちる。

肉体が鍛え上げられたヴァントーズは、たとえアームキルされたとて、

すぐさま自壊するようなことは無く、結果的にその育ての親を救ったのである。



――――――――――――


アームヘッドとトレーニングの関連性は、生物の成長と同じで、

色々と個体差もあるらしく、まだ様々な研究がされているようだ。


ゲインは今や、アームヘッドレスリングの第一人者として有名だな。

アンナーもレスリングに出場できて、二人の約束は無事果たされたようだ。

その後どうなったかまでは、さすがに分からないがね。


さて、次のエピソードは・・・・・・。

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