第20話 ひとりだけの乾杯

 木組みの外観がおしゃれな建物が、サクヤの目を引いた。屋外テーブルからレーマー広場を正面にみながら食事ができる店、ツム・シュヴァルツェン・シュテルン。今から五百五十年以上昔、一四五三年にゲストハウスとして創業した老舗店だ。


 客入りが少ない。夕食には早いかとおもっていると、お店のおじさんに笑顔で声を掛けられ、つられるように座ってしまった。

 なにはともあれ腹ごしらえ。

「すみませーん」

 と、つい日本語がでてしまう。

 なのにおじさんは、

「ビッテシューン」

 メニューを持ってきてくれた。

「ん~、ヴァイツェン……スモールサイズ、ビッテ」

「OK」


 ほどなく、サクヤのもとに背の高いビアグラスに注がれたヴァイスビールが運ばれた。

 これでスモールなのか。

 五〇〇ミリリットル近くありそうだ。

 サクヤは吹き出しそうになりながら、グラスに手を伸ばす。

 かぐわしい酵母の香り。小麦を使った上面発酵の白ビールは南ドイツで造られ、泡立ちが非常に良い。フルーティーでバナナやバニラのような香りが特徴で、苦味がほとんどない。


 旧市庁舎を眺めながら、

「プロージット」

 サクヤは一人で乾杯した。


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