第4話 正しくは引き菓子

「これ、どうしたん?」


 サクヤは笑顔で問いかける。

 ひょっとしたら、と期待をこめて。


「そのバウムクーヘン、親戚の結婚式の引き出物だって」


 ぐはーっ。

 サクヤは左腕を天井へと突き上げ、右手で胸元をかきむしりながら、膝を折りつつのけぞって、血反吐をはいて床に倒れるようなオーバーリアクションをしてみせた。

 ぴくぴくと指先を震わせ、カクカクっとあごを動かす。

 完全なる油断である。

 母上による、引き出物をつかったトラップだったとは。

 くーっ、味なまねをしてくれる。


「どうしたの、お姉ちゃん」


 バスタオルを首にかけて、カスミが見下ろしている。

 渾身の姉のボケに付き合ってくれなくなっていつ久し。

 やれやれ、とサクヤは身体を起こす。


「し、仕事の疲れ……かな。へー、そうなんや。正しくは引き菓子ね」

「引き菓子?」


 知らんのか、我が妹ながら嘆かわしい。

 ……いや、ここはお姉ちゃんの凄さを見せびらかすチャンスではないか。

 立ち上がって深呼吸をし、サクヤは気持ちを整えた。

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