第2話 ぽっかり開いたハート型

 夜遅く帰宅したサクヤは、

「シャネルのひとを切なく今日も~探す~京都の夜は~ふけゆく~」

 と呟きながらキッチンへむかった。

 勤労のあとの晩酌欲しさに冷蔵庫へと足を進め、

「おっ」

 ふと、テーブルに置かれた純白の箱に目がとまった。


「これは……もしや」


 日頃の感謝とねぎらいのケーキか、そうにちがいない。

 手をこすり合わせるサクヤは、シフォンかブリュレかミルフィーユかと期待しながら蓋を開けた。


 断面は幾重にも重ねられた年輪を想起させる、同心円上の模様。

 焼きあがった層から連想されるゆえの名称だが、由来にはもうひとつの説がある。

 製造工程で用いられる芯が木の棒だったからというもの。生地が均一に膨らみ、且つ火のとおりをよくするためのドーナツの穴とは異なるのだ。

 ……と、思考を巡らせたサクヤに疑問がわく。

 ぽっかり開いた穴が、なぜにラブリーなハート型なのだろう。

 なぜ?

 何故に?

 ……謎である。


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