この命、ここになし。
一色 サラ
飛行機に、搭乗します。
バスが縦に激しく揺れていく。気持ち悪いくらい酔ってしまっている。デコボコした砂利道を進んで行くほど、後戻りができないことへの後悔がぬぐえない。ただ、その気持ちを悟られたら、殺される。
スリエラ空港に着くと、最初の難関である搭乗手続きをしないといけない。別に、恐れる必要性など、何もないのに、どこか動揺してしまう。はじめは、偽のパスポートで、通過する予定だったが、1度、組織にバレて、彼らは射殺された。もう失敗は許されない。
マカリナは必死に顔や感情を押し殺して、仲間のアヒナと、仲のいい友達のふりをして、搭乗手続きを完了させた。怪しまれないように、無意味なキャリーケースを預けると、あとは、保安検査場で手荷物検査すれば、飛行機に乗り込むだけだ。
「ちゃんしてこいよ」と、無神経な兄コウトウが言う。
「うん」と睨むように言って、保安検査場に入って行った。コウトウの顔を見たくはなかった。あの日、コウトウにお昼を届けに行かなければ、こんなことにならなかったのにと、恨み節が出てしまう。
保安検査場でも、何事もなく、荷物検査を通過してしまった。ただ、どこかで、引っかかってほしいと願っていた。その願いなど、通ることもなく、予定どおり、作戦は進んで行く。
早く終わらせたい。失敗は許されない。と訳の分からない決断が、不快に頭を浮かんでくる。
「予定通りにいけそう?」
冷たいアヒナの声が聞こえてくる。搭乗手続きの時のような明るい陽気な声はもうない。
「いけるよ」
目も合わすこともなく、答える。素性を知らないアヒナとの会話は、いつも、素っ気ないものだった。搭乗ゲートが開いて、飛行機へと乗り込む。席に着いても、気持ちに余裕はない。作戦は成功するのだろうか。
キャビンアテンダントが、座席のシートベルトを確認しにくる。その目を見るたび、助けてほしいと願ってしまう。
刻一刻と、時間が進んで行って、飛行機が動き出す。後戻りができない後悔の念が強くなっていて、目頭が熱くなっていく。
そして、離陸してしまった。隣に座るアヒナは何の後悔もなさそうに、思えてくる。会話をすることもなく、時間が過ぎていく。あまり会話をするなと言われていた。だれが聞いてるかわからないので、無意識に、作戦の話をしてしまうことがあるので、極力、会話をするなと、言われていた。
2時間が過ぎた。もうすぐ、作戦を実行する時間だ。
「失礼します。何かお飲み物はいかがですか。」
「ビールをいただけますか」
アヒナが答える。ビールと周りに気づかれないように、拳銃を隠して渡してきた。最悪な状況だ。あと10分で作戦実行することになった。5分して、拳銃を懐に入れて、アヒナが立ち上がり、操縦室に向かっていった。
マカリナも2分くらいして、立ち上がって、トイレに向かうふりをして、操縦室に向かう。そこで、拳銃を渡してきた、キャビンアテンダントの女が他の乗務員を気絶させていた。
「操縦席に向かうぞ」
そうアヒナに言われて、向かう。キャビンアテンダントの女が、先に操縦席に入っていき、アヒナが3人のうち2人を射殺した。
機長の頭に、銃口を向けて、降下するように、指示をして、キャビンアテンダントが副操縦をしている。
操縦室のドアが締め出されて、もう誰も入っては来れない。もう操縦は、出来ない。マカリナは見張りとして、ここにいるだけだ。
もう死ぬんだなと思うと、不愉快になっていく。なんで、こんなことになったんだろう。こんなテロは男がやれば怪しまれるから、女に任せることにしたと言われていた。兄のコウトウに「ここで、死にたくなかったら、飛行機に乗ってくれ」と言われた時、絶句した。もう死ぬなら、名の残る死に方を選んでしまった。断ったら、あの場で、コウトウと共に射殺されていたのだろう。
「神よ。私たちをお守りください」ものすごい勢いで、急降下していく。もうすぐ、高層ビルに突っ込んでいくのだろう。ズドーンと音と共に記憶が薄れていく
この命、ここになし。 一色 サラ @Saku89make
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