初夏、駅のホームにて
炎天下の中、私は駅のホームに立っていた。空には鮮やかな青が広がり、真っ白な入道雲がそこに浮島のようにある。それを汚すように近くにある工場からもくもくと灰色の煙が上がっていた。
少し視線を下ろせば工場の赤錆た色が広がっている。遠くまで工場の煙突が立って、煙をあげているのが見えた。
足元を見れば、線路にはバラストが当然のごとく敷き詰められている。
暑い。が、汗は出ない。セミのジワジワと鳴くその声はまるで海のさざ波のようで、空の青さもあってか気持ちは涼んでいた。
夏の香りがする。草木の蒸れた匂いが、夏が来たぞと嗅覚に訴えている。
とても懐かしかった。居心地が良くて、ずっとここに居たいとさえ思った。
しかし私の乗るべき電車はやって来る。キィイイイイと甲高い音は一瞬セミの声を掻き消して、私の目の前で扉を開けた。
私は乗り込んだ。外の暑さとはうって変わって、人工的な涼しい空調が私を包み込む。
名残惜しかった。目の前にある扉の窓から見える夏の青空と錆びた工場地帯。くぐもって、遠くに聞こえるセミの声。
それらに別れを告げなければならないのは、非常に悲しかった。
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