3秒滑空中紙飛行機

苔呑ばる

亡くなってしまって

「レイっ!ねぇ!返事してよ……。笑ってよ……」


私が必死に話しかけている“死体”。

花開くような笑顔の持ち主。

返事なんて当然出来ない。出来るわけがない。

頭ではそう分かっているのに、どこか諦めきれない自分がいて、奇跡を願っている私が居る。

第三者から見るものなら、可哀想な高校生だなぁ、なんて思うだろうし、私のことが嫌いな人からすると、悲しんでいて清々する、なんて思うかもしれない。


違う、今考えるのはそうじゃない。

でも、レイを蘇らせる方法なんてSFじゃなかろうしあるわけがない。


救急車を呼べ。

警察はまだか。

そこの女の子は災難だ。


周りの人にも迷惑をかけて、もう。

本当になにがしたいんだろう。


このレイが別人で、今私の隣にレイがいたら、レイはどうしたいだろうか。


私は死体をそっと道路に置き、近くの人々に言った。


「……救急車を、呼んでください。もう助からないとは思いますけど……。だって、もう顔が潰れちゃってて。あはは、残酷ですよね」


涙を流しながら口角を上げてみて、涙の染み込んだ声で、明るい声をだそうとして、そう告げるんだ。


なにがしたいのかなんて分からないし、知るわけがない。

でも、あのお人好しのレイなら……。


後悔なんてしないで、後悔しないように行動するだろう。


レイが死んだのは仕方がない事実。

冷めた人に思えるかも知れないが、どれだけ悲しくても、どれだけ辛くても、受け止めないといけない。

綺麗事だとか、そんな簡単に出来たら苦労はしないとか。

それはそれで、私は私だし、レイの考えはレイの考え。


それだけ言って、それ以上はなにも言わずに。

サイレンの音を背に私は家へと歩みを進めた。



でも、夢だったらどんなに嬉しいかなって。

ただ、ただ日々願うだけ。

長い夢を見てましたっ、て言うオチだったらなって。



『3秒だけでも、逢えたらいいのにね』


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3秒滑空中紙飛行機 苔呑ばる @baru_1921

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