急
夏の大三角形(8/8改稿)
私が欠けたらこの星たちはどうなっていく…
誰かが欠けたらこの三角形はどうなっていく…
私が三角形の意味を知らなかったら、この星たちはどうなっていた…
星の存在すら知らなかったら、私は何を観て素晴らしいと口に出来た……?
夜は深まり宇宙で生きる星たちは自己主張をし始める。山地の想いと同じ数だけ、砂丘の星は輝く。
身に付けていたネクタイと同じく深くて淡い藍色の銀のドット柄だ。
風が強く吹き上げてくる。
誰かが作ったとされる砂の城がみるかげもなく平らになって割り箸は埋もれてる。
仕事で感じていた平部の姿を、風の様子と重ねるように砂が被せるようにふりかかる。
平部という少年は休憩時間になると後輩でもあり年上でもある山地に「休憩だ」といい、水筒の入った業務鞄をわざわざ持ってくる。たとえどんなに山地の手元近くにあろうとも、わざわざやってくる。そんな平部を見る山地は苦笑いをしながらも楽しそうにする。山地は平部の事を仕事の余暇として楽しみ、山地は何気なく背中を追いかけたい存在として気になる。
風だけが吹けば心地良いものを…砂を舞いあげて眼を痛くさせる…そうだ、やはり平部のようだと山地は笑った。
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一方その頃、現実での山地はびくともせずに安静にしていた。
個人ロッカーから鞄を持ってきた平部は「おい!」と言葉を投げつけながら、勝手に山地の保険証やお薬手帳とかを取り出した。盛岡は「余計なことをするなって」と平部を注意をしつつも、山地のことが気になり傍を親のようにウロウロとした。彼にとってみれば山地はフラッシュバッグの時に介抱してくれた人物でもあり、弱音を出せる相手でもある。
一通り連絡をし終えた社長は後回しにしてしまった社員を気にし始め、即時に帰宅するように勧告を出した。しかし仲間たちは一度は帰宅する行為を示すものの山地のことで安心することが出来ずに外の空気を吸っては戻ってきた。
そう、山地が築いた関係は決して一直線な関係ではなく想いや気持ちを越えて心で繋がっていた。関係を関係で終わらせなかった仲間たちは職場を越えて家族になっていた。だからこそ山地を助けにいく…
しかし、社会とは難しいということを忘れてはならない。私情を絡ませるなどもってのほかで、ましてやトラブルが起きた際には誰が責任を負えるであろう。そんな危険と隣り合わせなら、仕事と私情は分けたほうが心身的にも健康的だ。そして今回の山地を焦点にするのな、言葉を重ねていくのであれば『仕事人間になってはならない』。これはもう言わずと知れた代名詞ではあるが、相手にしかり自分にも善くない。ここ近年であれば『ライフ·ワーク·バランス憲章』が推進され、自身における心身のケアも大切だと言われ始めてきた。
山地は言わずと知れた仕事人間であろう。気温30度を超す真夏日でも水分補給を怠るところか目先の業務に取り付かれていた。指示は指示でも適度な行動というものが必要であった。ましてやその結果、自分の命を失い兼ねない熱中症におかされてしまった。本人は気付いているのだろうか。業務中ではなかった事が不幸中の幸いだが、しかし会社全体として評価を下げることになってしまったのである。山地、いや、山地圭介かつ男性は…会社としてのお荷物である。
ペットボトルを渡していた女性同僚、水嶋玲子は救急車を到着を確認するかしないかで冷たい顔をして会社を後にするーー。
ハウスの向こうでは出荷出来なくなった苗たちがこれでもかとばかりに山になり、堆肥になることを夢にみる………。苗たちもまた生きることを選ばなければ、その選択肢の方の未来が待ち受けている。苗たちが誰がどうの、彼等がどうの、愛を掛けて貰わなかったからどうのとか、責任転化するのではなく自分の意思で大きくならなければ意味がない。
人間と同じく。
暑さの影響で出来た積乱雲は自分のキャパシティーに耐えきれずに水滴をひとつこぼし始めた。そしてひとつ、またひとつと---
そうこうしているうちにサイレンを鳴らした救急車は会社までたどり着き山地をタンカーに乗せては病院へと運んでいった。救急車のタンカーはまるでクッションのように患者を包み込み、山地は無関係だった人にも介抱されながら助けられていく…。
人間とは自分の意志とは関係なくに誰かしらと繋がっている。たとえそれが見ず知らずの人だったとしても困っている人がいると心は『どうしたのだろう?』と気持ちを傾けている。小さい子供が何か新しい発見をしていれば思わず『どれどれ?』と家族でもないのに視線が向いてしまう。
心では新車のバスに乗り込んでいるような座り心地に、現実ではいつもとは違うクッション感覚に山地は意識を戻し、うっすらと見える積乱雲に視線をずらした。本人にはどう映ったのだろうか………
緊迫をしながら搬送していた救急医は山地から安堵のような息が洩れた時、胸を撫で下ろし感動を惹き起こした。また命を繋ぎ止めることが出来たと感動が自分の仕事に誇りを持ったのである。
道路を颯爽と走るなかで、山地は運ばれる。
山地の鼓動は確かに回復をしてきてるけれど、社長が取り付けてくれた腕時計はなんだなか人のために時を動かしたくはないと1秒を1秒としてカウントしない動きかたをし生き始めるのであった---。
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私を照りつけてたあの日の太陽は熱い……
私はただ生きていきたかっただけである…。
仕事以外の人生に私は何の形がある?想ったことを発信すれば人は傷付き一生ものになる。私が動けば世界が変わり想像のつかなかった未来がやってくる。それが不安で不安で仕方がない。ただ仕事に打ち込んでいるとき、仕事を通して誰かと触れ合ったとき始めて自分の意志が通った気がして心が血が通った気がして生きていることに実感した。三度目に訪れたこの砂丘、水は枯れ果てて苦しかったと言える涙を流せない…
どう生きればいい、どんな行動をしたらいい、どんな顔をすればあなたは微笑んで一緒に生きることを求めてくれる?見えていた北斗七星は、無数の星に紛れて行き先がわからなくなった。
だけど、
私の口が悪いことは知っている。
私の考えが自己完結型なのだと受け止めている。
飛び出してバスに乗り込んだとき、社長の言葉をメールで読み返した。枯渇していた心にもう一度潤いをもたらしそうだった。
あの頃は休みの理由も上手く伝えられなくて、ただ「休みます。」とだけ送っていた。そんな礼儀の知らない私に対して社長は心身に「社会人として、休む理由をきちんと答えなさい。人間関係で辛いなら、身近なもので新しいものを発見してきなさい。業務で辛いなら、百パーセントでこなすことを辞めるということを学んできなさい。ギャンブルでも行って勝つことだけが正解ではないと知りなさい。会社を辞めたいのであれば、全部覚えて知識にしてから実績にしなさい。」と返ってきた。
さすが外国へ行って色々の人達と文化を味わってきただけある。社長が魅せるその背中は身体の小ささに似合わない懐の大きさが私をくすぐって尊い存在へとさせる。
満たされていると暗示をかけてきた私の人生は、その時に、人生の木の葉も芽吹いていないと知った。
そして人生の花はこれからなのだと知った。
若いときが花とは、また違った意味合いだ。
この砂丘に雨が降って泣けたのなら草原を越えて森林へと変わることが出来る………
だから大いに私は笑っておこうと思う…友達にも同僚にもパートさんたちにも社長に対しても。これからも…
昼間と比べてヤケドしそうな砂の温度は昼間と比べると下がり、人肌温度まで落ち着き過ごしやすい。
ふと独りの砂丘なのに右手の感触が、あの人に握られた時のように暖かい。
私のいま居る砂丘の砂の色は………白くて切ないのに…
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