真夏日
工事帽
真夏日
立っているだけでジワジワと汗が出る。
たまの外出は恐ろしいほどの暑さだった。
Yシャツ姿ではあってもネクタイはしていない。クールビズというやつだ。
それでも客先に顔を出すので、申し訳程度に、手にはスーツの上着を持っている。当然、着る気持ちなんて欠片もない。ただのポーズだ。それだけでも、上着を持った腕は上着で放熱を封じられ、籠った熱は汗となる。腕だけYシャツが透けるほどに汗が出て、じっとりとして気持ち悪い。
これでもかと熱せんを浴びせてくる太陽は、眩しすぎて見ることは出来ない。それなのに、確かにそこにあるのだと主張してくる。
なぜ、そんな日差しの下を歩いているのか。それは単純でやるせない。
仕事だ。
客先へ請求書を持っていくだけの仕事。
メールだろうと郵送だろうと届けばいいだろうに、なぜかうちの上司は、手渡しにこだわる。
なんでも「直接、仕事のお礼を言って、次の仕事につなげる」だそうだが、うちだけじゃなくお客の時間も奪うだけの下らないやり方にしか見えない。
実際、客先からも「郵送でいいですよ」と言われたこともある。それでも持参にこだわる上司のせいで、この暑い中でも時間を無駄にして外を歩く。
そういえば『熱中症警戒アラート』というのが、数年前から出るようになった。今日も出ていたはずだ。
警報が出るくらいだから暑くて当然なのか。暑いから警報が出るのか。そんな下らないことを考えるのは頭が茹っているからなのか。
ふと遠くから、歓声が聞こえた。
ちらりと目を向けると、競技場の壁が見えた。
中に入ったことはないが、確か経費削減で屋根がなくなったとかニュースで見た覚えがある。
「この暑い中でよくやるよ」
スポーツに縁のない自分にしてみれば、その程度の感想しかない。
子供の、それこそ小学校に入る前は走り回るのが好きだったが、今はスポーツは全部嫌いだ。
元々、スポーツに向いているわけでもなかった。それでも、嫌いになったのは授業の「体育」のせいだ。少しでも失敗すると肩身が狭い、そんな授業を何年も強制的にやらされて、スポーツが好きになるわけもない。
客先からの帰り道でも、暑さは欠片ほども
益々、汗をかきながら歩く。
もうすぐ駅だ。少なくとも、屋根の下に入ればこの直射日光を浴びなくても済む。
駅が見えるところまで来ると、今度は叫んでいる人々がいる。
競技場の歓声よりも半音高い声は、何を言っているのか分からないという点でのみ、歓声に似ている。
ちらりと目を向けると、マスクをせずに叫んでいる集団が見えた。
「この暑い中でよくやるよ」
そういう運動に縁のない自分にしてみれば、その程度の感想しかない。
感染の危険がある今の世の中で、マスクをしていないというだけでヤバいやつに見える。
元々、デモとか反対運動には関わりがなかった。そんな中で、嫌いになったのは大学の知り合いが運動にハマり、言動が怪しくなったせいだ。証拠の一つもないどころか、科学的にウソだと分かっていることまで自信たっぷりに語り、間違いを指摘すると逆切れする。そんな姿を見てデモが好きになるわけもない。
やっとの思いで駅に入る。
日差しが遮られたのと、どこからか流れてくる涼しい空気で、やっと人心地つく。今がチャンスだとばかりに汗が吹き出し、シャツが肌に張り付く。
駅に続いて、電車の冷房で休息したところで電車を降りる。
またもや炎天下を歩きぬけて会社へ。
もう帰って冷たいビールでも飲みたいところだ。でも残念ながらまだ定時には遠い。
汗だくの俺を見つけた上司が言う。
「この暑い中よく行くな」
無性に、上司を殴りたくなった。
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