セーブ&ロード〜繰り返される苦行〜

キクラゲ

序章 ~苦行の始まり~

第1話 転生

 ある猛暑の中一人の青年が道を歩く、高身長で手足が長く凛々しい顔立ちの塩顔イケメン、体格はガッチリしていて服の上からもその鍛えた体が分かる、そんな彼の名前は鬼島きしま 零治れいじ、地元公立高校に通う高校2年生、剣道部所属で全国に出場した経験もある、彼は別に剣道の才能が飛び抜けている訳ではなく、ただ実直に真っ直ぐ努力を重ねて今の実力を手に入れている


「あ~疲れた〜、このクソ暑い中クソ暑い防具を着てクソ暑い道場で練習すんのマジ面倒〜」


 いくら実直で真っ直ぐと言ってもまだ高校2年生、こう言った愚痴もガス抜きの意味で必要なのだ


「帰ったら素振りするかぁ、今年入った一年の中澤の奴めっちゃ強いからなぁ、危うく一本取られるとこだった」


 零治が言う中澤とは今年の春、新入生として彼の通う学校へやって来た中澤かなざわ 慎吾しんごである、彼は中学の頃から剣道を始め、すぐにその才能を開花させ、始めたその年に全国出場、翌年には優勝を収めている、まさに天才、そう称される剣道界の麒麟児、そんな彼に先輩として負けられないと更に自分を高めようと決意する零治


「ん?ありゃー、白岸さんか?」


 そう言う彼の前には読書をしながら横断歩道の信号が変わるのを待っている一人の少女が居た、彼女の名前は白岸しらぎし 美那子みなこ、零治と同じ高校に通う同級生、腰元まである長い髪は綺麗な濡羽色で、肌は白く玉のように美しい、小さな顔に円な瞳、艷やかな唇、筋の通った鼻、高い身長とスラリと伸びた手足、それらはまるで芸術作品の様、この容姿から分かる通り、彼女は学年だけで無く学校内、そして学校外でもマドンナ的存在となっている、そんな彼女とこんな所で会うというちょっとした幸運に零治は感謝する


(やべぇ、近くで見るとやっぱ可愛い!綺麗!)


 普段はクラスが違うのと部活動が忙しく、彼女を見る事が少ないので、近くに行くとついつい横目で見てしまう、その美しい顔、綺麗な髪、どれをとっても一級品な彼女を意識しないというのは中々できる事では無い、況してや思春期真っ只中な高校2年生には不可能だ


(あぁ〜、この時間が永遠に続けば良いのに……ん?)


 零治がそんな幸せな一時を味わっていると、視界の端に一台のトラックが映る、そのトラックは真っ直ぐこちらに向かって来ている、スピードを落とす気配がなく、反対側の歩道、つまりこちら側に猛スピードで突っ込んで来る


(ヤバい!あのトラックこっち来る!今ならまだ避けれる!)


 瞬時に状況を理解した零治はトラックを避けようとする、だがそこで思い出す、今ここには自分だけではない事に、自分の隣には今尚読書中の白岸美那子が居る、もしここで自分だけ避ければ確実に彼女は死ぬ、そんな事を許容できる訳も無く、零治は彼女を助けようとする、しかし今からどう足掻こうが助けられない、トラックがもう既に目と鼻の先に迫っているから、腕を引いても、抱き抱えても最早術は無い


(くっそ!せめて…彼女だけでも!)


 両方助からないならば、彼女一人だけでも助けると言う決断をする零治、彼女とは会話すらしたことの無い様な間柄、こちらが一方的に見惚れていただけのそんな関係、だが零治は一瞬の躊躇もなく彼女を救う事を選ぶ、これは零治の自己満足、偽善、正義感、そう言った感情での行動、ただ目の前の女の子に死んで欲しくない、自身を犠牲にしてでも助ける、そう思ったからこその行動、これは零治の根っこの部分がそうさせた


(絶対助ける!!)


 零治は瞬時に隣の白岸の腕を掴み遠くへ投げる、火事場の馬鹿力と言うやつだろうか、それとも彼女が軽かったからだろうか、彼女は零治の予想以上に吹っ飛んだ、彼女は驚き目を見開く、零治の見た最後の光景は美少女の驚いた顔、「最後に見るなら笑顔が良かったな」とそんな風に思い自然と笑みが溢れる、そしてすぐにものすごい衝撃が全身を襲う


「きゃゃぁぁー!!!」


 叫び声でさえ綺麗な声を聞きながら零治の意識は静かに闇に溶けていった





 ピチョン、ピチョン、ピチョン


 そこは仄暗い洞窟の中で水滴の垂れる音を聞いて目が覚める零治、次第に朧気だった意識がハッキリし、先程自身に何が起きたのかを思い出す、だが持ち前の胆力で平静を保ち、現状の確認をする


(一体どうなってんだ?真っ暗と言うか目が開かない、もしかしてトラックに撥ねられて目を負傷したのか?治るのだろうか、だが周りから感じる雰囲気からここは病院ではないと思う、なら一体俺はどこでどうなっているんだ?)


 冷静に現状で分かる範囲の事を確かめてみる、目は見えない、鼻は効く、触覚も感じる、手足は動かない、と確認していき最後に口を開く


「ぎゃおぐぅ!」


(!?!?!?)


 そして口から出た声は自身の聞き慣れた声では無かった、幼く、そして人の声では無い、不気味な奇声であった

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