第14話 アホな兄ちゃん、アホじゃない兄ちゃん、どっちも良き1

 高校に入学してから二ヶ月とちょっと。すっかり見慣れた登校道の景色はウチの日常の一部になっていた。


 ついこないだまで、連なる街路樹が新入生を歓迎しようと春の色に染まっていたのに、気付けば木々は衣替え、冷静さを取り戻したかのように皆グリーンになっている。


 多分、また春が来て桜が咲いても、ウチの感情はそこまで揺さぶられないと思う。『きれいだな~』……それくらい。


 新鮮味はとうに薄れていた。薄れきっていた。


 けど今は? 今ウチの目に映っている景色は?


 昨日までとなんら変わらないはずなのに、日常の一部なはずなのに――絶景百選に紹介されていてもおかしくないくらい美しい。


 どうして? どうして今日はこんなに世界が綺麗なの?


 考えるまでもないことを、わかりきっていることを、ウチは敢えて考える。


 ……そっか! 兄ちゃんと一緒だからか! 兄ちゃんと肩を並べて歩くこの非日常な状況こそが、ウチの瞳に映る世界にいろどりをもたらしてくれているんだ!


 そして結論に至った。…………テンションがおかしくなっているのは自覚してる。


 けど幸福な時間はもうすぐ終わる。いや、終わらせなければいけない。シンデレラでいうところの12時の鐘を自らの手で鳴らさなくてはならない。


 ウチは兄ちゃんのことが好き、大好き。けど、その気持ちと張り合えるくらい世間の目を気にしてしまう。体裁をととのえようとしてしまう。


 兄ちゃんともっとベタベタしたいのに、兄妹で一緒にいるところを見られたくない。


 勝手気ままで面倒だと自分でも思う。だけどそういう嫌な部分ほど直し難い。


 だからウチは開き直ることにした。


 なにも悲観することはない。朝の〝お味噌汁〟には四日分の〝薬〟を混ぜておいたんだから、学校でイチャつけない分、家で甘えればいい。


 それにあの邪魔者――にっくき初鹿野に目に物見せてやることができたんだ。贅沢は言えない。


 そう自分に言い聞かせ、ウチは横を歩く兄ちゃんの顔を見上げる。


「――じゃあ兄ちゃん、ここでひとまずお別れ! ま、また家で」


「……まだ学校に着いてないんだが?」


 立ち止まった兄ちゃんは訝しげな顔して首を傾げた。


 うん……やっぱり、そうなるよね。

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