17
昼前には駅に着いた。最近の日差しはもうすっかり夏のもので、肌が痛い。半袖のシャツから伸びた腕を軽くさすって落ち着かせる。日焼け止めを塗った方がいいと聞くが、毎年使い切れたためしがない。今日も塗るのをすっかり忘れていた。
図書館に着き自動ドアが開くと、しばらくの間炙られた腕を涼しいエアコンの冷気が冷ましてくれる。夏って感じだ。
首元に流れる汗をタオルで拭きながらいつもの場所へ向かった。
めずらしくも特等席に彼女の姿はなかった。いつもなら彼女の後ろ姿が先に飛び込んでくる視界には、空けられたテーブルと椅子だけがポツンと際立っている。
今日は平日だ。学校がまだ終わっていないのだろうか。まあ、特に約束しているわけでもないので、来なければ来ないで別にいいのだが、少し。気になる。
私は特等席へ向かい、久しぶりに景色を独り占めした。ここから見る景色は何度見ても落ち着く。ひとまず何か飲み物でも買おう。一応、場所を取られないように、さっき首元を拭ったタオルを人質に席を立った。
カフェのカウンターで注文を済ませて、ドリンクを受け取り、再び席についた。
これまでに彼女と会わない日は度々あった。その時は、今日は居ない日なんだな。と思う程度だった。誰がなんと言おうと、私と彼女は図書館で時々会って少し話をするだけの、“ただの” “顔見知り程度の関係”なのだ。そこに『約束』を持ち込むなど、まさに飛んだ筋違いである。ましてや心配なんて…。
しかし、今日は違う。
そもそも彼女がいない事がこんなに気になるのは、私の鞄に彼女との『約束』が入っているからだ。…と言っても、彼女は「今度会った時に」と言っただけだ。そこに明確な日時の指定などはもちろんなかった。だからこれを『約束』と呼んでいいのかは、自分でも甚だ疑問であった。
…どうも気になってしまう。
らしくない。
私は彼女について考えている自分自身に嫌気のようなものを感じて、思考を振り払うために、急いでいつもの文庫本を取り出した。
冷たいカフェラテを一口。体内に流し込む。
夏の日差しに炙られたせいか、まだ身体が少し熱かった。いつもの栞からページを開いて、続きに目を落とした。
呼吸が少しだけ、はやかった。
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