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やっとの思いで新しい自宅に帰ってきた。ここには10日前に引っ越してきたばかりだ。実家からは3時間弱の所で、以前住んでいた所よりも幾分か実家には帰りやすくなったと思う。
それが良いことなのかどうかは分からないが、それを母に報告するといつもより声を弾ませていたし、父も珍しく私の新居について質問してきた。悪い気はしなかった。
昨日から今日にかけて役所の手続きをしに帰省していた。本当は日帰りで全部終わらせる予定だったが、長らく帰っていなかった実家から図ったようにお呼びがかかったので、どうせ帰り道の途中だし、一休みしてから帰ることにした。
暑さのせいかどっと重たくなった身体を運びながら、そのことをすっかり忘れていた自分を溜め息まじりにまた小突く。
少し重めの玄関の扉を開けて部屋の熱気に嫌な顔をした後、枕元に置いてある湿度計を見ると75パーセント、室内温度は29度。どうりで暑いわけだ。
まだ慣れない部屋のリモコン操作をしてから、実家に向かう前に買っておいた2リットルペットボトルの麦茶をコップに入れるのも面倒でそのまま飲んだ。喉に麦茶の冷たさが染みて痛い。
慣れない路線を使ったせいか、いつもより呼吸が速くなっているのに気づく。
もう一口、がぶがぶと麦茶を流し込んだ。
私は比較的早くに一人暮らしを望んだ人間だったと思う。小学生の頃には必ずここを出て行くんだ。と自分に誓った日を今でも鮮明に覚えている。
理由は…理が煩わしかった。とでも言っておこうか。なんて…笑
ただ、逃げたかっただけだ。
当時はそんな風に考えたこともなかったけれど、今思うと、そうだったんだと思う。家族、学校、クラスメイト、教師、先輩、後輩、部活、勉強、地域……思い当たる身の回りのすべてが自分とは違う世界のような気がしていた。そこに自分がいるけど、いない。ような、そんな感覚が当たり前だった。
一息つくと腹が減っていることに気づく。冷蔵庫を開けて、空っぽなのを再度確認してから買い出しに行く準備をする。
こっちに来てからは車も自転車もないので、買いすぎると大変な思いをすることを想定して、必要最低限のものを頭の中でリストアップしてから付録か何かでもらったエコバックの中に財布と鍵を投げ入れた。今日はもう遅いしこっちの役所の手続きは明日の午前中に済ませようなんて考えながら、さっきまで履いていたスニーカーに残っていた自分の熱気を再度押し込んで外へ出た。
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