小豆洗い

ツヨシ

第1話

山にキャンプに行った。

一人で。

俺にとってはいつものことだが、たまにキャンプに一人で行くなんておかしい、と言う人がいる。

だがそれは間違いだ。

歌うことが楽しいから一人でカラオケに行く。

映画が好きだから一人で映画を見に行く。

それと同じことだ。

誰にも迷惑をかけずに楽しんでいるのに、自分と感覚思考が違うからといってそれをおかしいと言う方が、おかしいのだ。

行く場所はまちまちだ。

ただ川原にテントを張ることは決めている。

川原は山の中と違って平らだし、魚釣りもできる。

ただ気をつけなければならないことが一つある。

それは自分のいる場所が晴れていても、上流では大雨が降っていることがあるからだ。

すると川はみるみるうちに増水し、死につながることもある。

だから俺は川から少し離れた場所にテントを張ることにしている。

めぼしいところにテントを張り、昼食、そして夕食の準備に取り掛かった。

昼食夕食ともにカレーだ。

飯盒でご飯を炊き、野菜と肉を切って鍋で茹でる。

そこにカレーのルーを入れるのだ。

これが実にうまい。

キャンプとカレーはよく合う。

そして水を込みに川に近づいたとき、聞こえてきた。

しゃきしゃきしゃき。

他には川のせせらぎ、鳥の声、そして風の音。

それらにまじって聞こえてきたのだ。

しゃきしゃきしゃき。

それほど大きな音ではない。

かと言って小さな音でもない。

しゃきしゃきしゃき。

はっきりと聞こえる。

目の前の川から。

まるで何かを洗っているような音だ。

しゃきしゃきしゃき。

俺は川を見つめた。

なにせ川だ。

目を遮るようなものは何もない。

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