Episode 110「勇者」
「お願いです、勇者様!」
私がこの状況に理解できずにいると、再び懇願されてしまった。
私はこの姉妹に助けられた。だからこの姉妹の頼み事なら、なんでも引き受けるつもりではある。
だけど、こればっかりはちょっと待ってほしい。色々と聞き慣れない単語が多くて、何がなんだかわからない。
勇者? 故郷? 魔王軍から救う?
うん、やっぱりわかんない。
いや、言っている意味はわかるんだけどさ……。
ようするに、私に自分たちの故郷を救ってほしいと。
わからないのは他の点。彼女が言ってる、勇者とか魔王軍の部分。
いや、これも、言葉の意味はなんとなくわかるんだけど……。
おそらく、勇者とは私のことで、魔王軍っていうのは魔族の王が仕切っている軍のことを言ってるんだと思う。
因みに。
魔族は、いわゆるモンスターを指している、らしい。
で、一般的にはその魔族の王を魔王という、らしい。
勇者は、異世界モノの小説や漫画などによくある、特別な力を持った人を指すことが多い、らしい。
まあ全部、レイミーとフレアさんから教えてもらったんだけどね。
魔族の王、魔王が率いる魔王軍。
そんなのから、故郷を救ってほしいとお姉さんは言った。
なんで私!? とは思うものの、その理由は、私が勇者だから。
私が、勇者……。
いやいやいやいや! そんなわけないんですけど!
って言っても、このストーリーの設定上、ストーリー内での私は強制的に勇者ってことになってるんだろうけどね。
それは認知してる。
そういうシステムだってことは、姉妹と話してみてすぐにわかったから。
はぁ〜……。
そういうことなら、私は勇者として、この姉妹の故郷を救わなければいけない。
ま、その故郷を救うことで人が助かるのなら、手助けしたいとは思ってる。手助けを面倒だとは思わない。
だけど、問題なのは、私が勇者だということ。
だって、私ってそんな器じゃないし。
勇敢で、力もあって、優しくて、自ら戦地に乗り出す。そんな人物像が、勇者として物語によく出てくるんだよ。
それに比べて私は。
臆病で非力で空気読めなくて。
ふふ、自分で言ってて虚しくなるくらい惨めで……。
しかし、内心でうじうじと悩んでいる私を差し置いて、お姉さんは私に、選択肢という名の試練を出してきた。
「お願いです、どうか、引き受けてくれませんか?」
再度、同じ内容の質問が問い掛けれられる。
そして視界には、「わかった」と「いやだ」の二択。
……………………。
泣きかけながら頭を下げるお姉さん。
その後ろで既に泣いている妹ちゃん。
それらを遮って点滅する、二択のボタン。
私はさっきまでの、器がどうとかいう感情をすっかり忘れて、「わかった」に触れた。
……というか、この状況で「いやだ」の方を選ぶ人なんて、流石にいないでしょ……。
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