九章 氷の精霊(ストーリー編)

氷の精霊 第一章「旅の始まり」

Episode 109「ストーリーモード」

 翌日。


 私はSNSに、ストーリーをやると適当に呟いて、FLOをスタートした。


 因みに、SNSのフォロワーはいつの間にか3万を超えてた……。

 以前に確認した時はたった千だったのに。

 いやいや、千でも別に少ないわけではないと思うけど。


 いきなり30倍にも増えたわけだから、感覚が麻痺してるのかもしれない。

 30倍……、何がどうなったらそんな数字になるんだろう……。

 まあ多分、最初の千人のフォロワーさんが、他のプレイヤーさんに教えたんだろうけど。

 それでもまさか、短期間でこんなにいくなんて予想もしてなかった。

 ま、だからと言って、良いことばかりっていうわけでもないんだけどね。

 やっぱり、批判的なコメントを送ってくる人は多少なりとも存在するし。


 でも、SNSを始めて良いこともあった。

 何が良いかって言うと、情報が多いこと。

 FLOの攻略方法とか、レアアイテムの入手方法とか、小ネタだって沢山見つかるし。

 戦闘時のアドバイスとかまであったくらいだもん。

 始めて良かったよ、ほんとに。







 ストーリーモードをプレイするには、ゲーム開始直後に表示されるタイトルにある選択画面にて『ストーリー』を選べばプレイできる。

 だけど、それが表示されても、一旦いつもどおりにスタートする。

 

 ギルドの私の部屋で目を覚ますとすぐに、ギルドチャットに『ストーリーモードをプレイするので数日はこっちにログインしないかもです』と書き込んでから、ログアウトして再び選択画面へと戻ってくる。

 ちゃんと、来れないと挨拶しておかないと、迷惑かけちゃうかもだしね。



 さて。

 用事も済んだことだし、ストーリーモード、やりますか。




◆ ◆ ◆




 目を覚ますと、そこは森の中だった。

 私は今、地面の上で寝転がっている。


 首を上げて辺りを見回すと、ところどころに木漏れ日がある。

 ということは、ゲーム内設定で今はお昼ということになるね。

 


 ……これは、ストーリーが始まったってことで良いのかな?


 起き上がろうとしても、下半身を動かすことができない。

 動かせるのは、首、手、足、上半身、くらい。

 立ったり、体制を変えたりとか、大きな動きはできそうにない。

 

 そうして何ができるかできないかと試していると、すぐにどこからか声が聞こえてきた。


「あ、お姉ちゃん! 勇者様、起きてるよ!」


 元気な声色の主を探す。すると、すぐに見つかった。その人は私の真後ろで木漏れ日に照らされている。

 その姿は、白髪碧眼で背の小さな少女。

 白と青が特徴的な着物に身を包んでいる。


 さっき辺りを見回した時には気づかなかったけど……多分、真後ろだから視界に映らなかったんだと思う。もしくは、近くの木に隠れ見えていなかったか。


 そして、少女は言った。

 お姉ちゃん、と。

 ということは……


「あら、やっと起きたんですね」


 木の陰から姿を現した、少女のお姉さんと思わしき女性。

 おそらく私よりも背が高い、雰囲気はツキナちゃんっぽいけど、表情に幼さは見られない。多分、私よりも歳上だと思う。

 衣装は、少女と同じようなデザインの着物。


 そこまで分析すると、今の私の状況もわかってきた。

 おそらくだけど、私はこの場で気を失って眠っていた。

 そこに、目の前の姉妹が偶然居合わせた。

 そして、私が起きる今まで守ってくれていた。

 こんなところかな?


 さらに分析していたら、突然、はお辞儀をし出した。しかも無言で。


 お辞儀をしたこと自体は何もおかしなことじゃない。

 助けられたのならお礼を。それは当然のこと。


 驚いたのは、私の体が勝手に動いたこと。

 いつの間にか、さっきまでは動かせていた手や足まで動かせなくなっているし。



 その後も続く姉妹の会話に対し、さらに体が勝手に動いたりする。

 これはストーリーが進行してると見て間違いないと思う。

 そしてすぐに理解できた。

 このストーリーモードでの私は、中身の私の意思を無視して行動するらしい。

 その証拠に、お姉さんの安否の確認に対して、私はうんうんと頷いている。もちろん、私自身が頷こうとはしてない。


 でも、声を発することはないっぽい。

 二人の発言に、私は全て首を振ることで返答しているから。

 なぜか二人がそれを気にする様子もないし。

 ようするに、ストーリーモードではこれが当たり前ってことだよね。

 


 なんの違和感も抱かない姉妹。

 全自動で動き続ける私。

 やっぱり何も気にしない姉妹。

 そんな私たちの、会話とは言えない会話は暫くの間続いた。


 その間、新たにわかったことがある。

 私の体は完全に全自動で動くものだと思っていたけど、例外もあるってこと。

 例えば、お姉さんの『あなたはどこから来たの?』という問に対して、『知らない』もしくは『憶えていない』という選択肢が現れたことがあった。


 それがいきなり出てきた時は凄く驚いたけど、落ち着いたら、いやどっちの選択肢もあまり変わらないじゃんって突っ込みたくなった。

 というか、私にはちゃんと記憶があるんだけど……。

 って、それはどうでもよくて。


 そんな感じで、選択肢が出現することがあったけど、それ以外は特に何もなかった。

 ちなみにだけど、選択肢で返答したとしても、私の口からそれが発せられることは一度もなかった。

 しかも、発してないのに、なぜか相手には伝わっているという。謎だ。



 正直、私には意味のわからないことだらけのシステムだけど、これも慣れていくしかないよね。 

 そう心の内で呟いたところで、私は目の前の二人に意識を戻した。

 でも、その瞬間の二人は、さっきまでとは打って変わっていて、なぜか深刻そうな表情をしていた。


 そして、いきなり――



「勇者様! どうか、どうか私たちの故郷を、魔王軍の手から救ってはいただけませんか!?」




 ……はい?

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