Episode 104「運営さん」

 後から知った話なんだけど、あそこは伝説の泉という、FLOでは割と有名なスポットらしい。

 なんでも、とあるイベントアイテムを泉に落とせば、泉から女神が出てきて、凄く豪華なアイテムと交換ができるのだとか。

 で、その女神の正体があの女の人というわけだ。


 イベントアイテムにいくつか心当たりがあったんだけど、私は怖くて、暫くはあの場所に行く気にはなれそうにない。

 でも結局最後までわからなかったのが、その女神がなんでイベントアイテムを落としてもいないのに現れたか、ってこと。


 うーん……不思議だ。




◇ ◇ ◇




 翌日。


 今日は7月31日。

 PVの公開日。

 イベント情報が解禁され、全プレイヤーがお祭り騒ぎになるであろう日。


 そして、私にとって憂鬱な日。


 PVには私も映ってる。

 それが全国の人たちに見られ、多少なりとも話題にはなると思う。

 それが良い話題になるか悪い話題になるかはわからない。

 今の時点で言えることは、そのどちらに転ぼうとも、私にとっては迷惑でしかないということ。


 もちろん、それらは私の自意識過剰で、本当は話題にすらならない、なんてこともあり得るんだけど。

 というか、私にとってそれが一番なんだけどさ。

 実際、すれ違っただけで迷惑行為を行うような集団が少なからずいる時点で、その可能性は極僅かになっている。


 そこで私はログインをする前に、今日一日をどうやって過ごすかスケジュールを組むことにした。


 ゲームにログインしないという選択肢は今のところ無い。

 一日ログインしなかっただけで話題が無くなるわけじゃないし。

 人の噂も七十五日って言うし、なら七十五日間ログインはしないでおこう! というわけにもいかない。てか、そんなこと私がしたくない。

 私はあくまでも、ゲームを楽しみたいんだ。

 なら、一日一日を目立たず過ごす。

 その為のスケジュール作成なのである。



 PVが公開される時間は今日の18時と聞いていたから、その時間までは基本、好きに行動しても問題は無いと思う。

 問題があるのは、18時以降。

 

 あ、そう言えば、私いつも18時頃にログアウトしてた。

 夜ご飯の時間だしね。


 

 ……………………。



 あーうん、スケジュール考えるの終わり。




◇ ◇ ◇




◇『不死竜』ギルドハウス◇




 ログイン前に色々と考えたけど、結局、いつも通りダラダラと過ごす。

 そんな私に、一通のメッセージが届いた。


 相手は――――う、運営さんだ!

 運営さんが私に連絡をしたということは、私がまたなんらかをやらかしたということ?

 いや、そうと決めるのはまだ早い。

 私は今日、ログインして以降、目立った行動を起こしてはいない。

 事務所に行って贈り物を確認して、アイテムを整理、その後はボーっと装備を見てただけ。

 うん、いくら考えても思いつくことは何もない。


 だとしても、何か理由があるからこそのメッセージ。

 原因があるにしろ無いにしろ、開かないわけにはいかない。

 

 私は意を決して、メッセージを開いた。



――『おめでとうございます』――

 PV見ましたよ。

 ツユさんのご活躍、凄かったです。


《FLO公式》

――――――――



 …………え?


 えっとー……それだけ、ですか?

 何か問題とか報告があるのでは?

 

 色々な疑問が混じり合って、脳が理解できずにポカンとしているのも束の間、またメッセージが送られてきた。



――――――――

 あ、すみません。

 最初にこちらをお渡しするのを忘れていました。


・『夏のVIPチケット』


《FLO公式》

――――――――



 あ、やっぱり。

 ちゃんとした理由はあったらしい。

 にしてもこの人……以前、SNSがどうのと言ってた人、だよね?

 まあ、なんでもいっか。

 なんだかんだで、あの時は楽しかったし。



――――――――

 ありがとうございます。

 ……これはなんですか?


《ツユ》

――――――――

 これはですね、明日から始まるイベントで、色々とお得になるアイテムなんですよ。

 ぜひお使いください!


《FLO公式》

――――――――



 そうして暫くの間、私は運営さんとメッセージで会話をした。







――――――――

 お得、ですか?


《ツユ》

――――――――

 そうです、イベントを有利に進められますよ。

 本当は課金アイテムなのですが、ツユさんには特別にとのことです。


《FLO公式》

――――――――

 課金……。

 そんなものをタダで貰っちゃって良いんですか?


《ツユ》

――――――――

 大丈夫ですよ~。

 それに、ツユさんがイベントでご活躍すればするほど、FLOユーザーもどんどん増えてくるんですから。

 むしろ我社としましては、ツユさんに先ほどのチケットを使って欲しいんですよ。


《FLO公式》

――――――――

 流石に大袈裟すぎると思いますけど……。


《ツユ》

――――――――

 いえいえ、そんなことはありませんよ!

 ツユさんのご活躍以降、ユーザー登録者数が激増しているんですよ~。

 おかげさまで仕事の方も大忙しです。


《FLO公式》

――――――――

 えっと、なんかすみません……。


《ツユ》

――――――――

 い、いえいえいえ! こちらこそすみません。

 それに、正直に言いますと、サボっちゃってますから。


《FLO公式》

――――――――

 えぇ、大丈夫なんですか?


《ツユ》

――――――――

 大丈夫ですよ~。

 ツユさんは我社の超お得意様。

 お得意様のお相手をするのは立派な仕事ですから!


《FLO公式》

――――――――

 でも今、自分でサボってるって言ってましたよね。


《ツユ》

――――――――

《FLO公式》がメッセージを消去しました

――――――――

 あの……


《ツユ》

――――――――

 はい! なんでしょう?


《FLO公式》

――――――――

 やっぱりなんでもないです……。


《ツユ》

――――――――

 かしこまりました。

 さて、ここからは真面目な話なんですが……。


《FLO公式》

――――――――


………

……

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