Episode 98「初めての釣り」 

 よりレアな魚が釣れることを期待して、『精霊樹の釣り竿』を装備。

 その釣り竿には、『海老団子』をセット。


 そうそう、実はこの海老団子、プレイヤーも食べることができるらしい。

 ジニさん曰く、むしろ、食事用に買うことがほとんどらしい。

 なぜかと聞けば、これを食べれば一部ステータスがアップするからだとか。

 それを聞いて、私も思い出した。

 アイテムの説明文に、一時的にSTRが10%上昇するって書いてあったのを。

 

 最初この文を見た時はてっきり釣った魚のステータスが上がるんだと思ってた。

 なるほどね、それなら納得だよ。


「ふ、ふふっ……ツユちゃんってやっぱり面白いよね……ふふっ」


 あっ、ジニさんに笑われた。

 ぐぬっ、失礼な!

 実際問題、傍からみれば私が可笑しな解釈をしてるってわかってるから、なんとも言えないのが悔しい。

 で、でも! 私、二度、同じ失敗は繰り返さない性格ですので!

 あ、また笑いましたね!?


「っと、キタキタ!」


 むぅ。

 どうやらジニさんの糸に魚がかかったらしい。

 まずい、私も急がないと、ジニさんにおくれを取ってしまう!


 しかし焦らない。

 釣り糸を垂らす前に、スキル『集中』を使用。



――『集中』――

・使用中SP・MP自然回復不可

――【EFFECT】――

・使用中、釣りや虫取り中のDEXが1.2倍増加し、更にSP消費量が僅かながら少なくなる

――――――――



 集中とは、スキル商店で見つけて購入したスキル。

 使用中はSP・MP共に自然回復しなくなる。

 釣りを行っている間は常時SPを使うから、途中で一切の回復が無いと考えると不安にもなる。

 けれど、おかげでSPの消費量が僅かとは言え減少し、かつDEXが大幅に上昇。

 デメリットよりも、メリットが勝ってる。と思う。

 それに、減って回復しないSPは、ポーションで回復すれば問題なし。

 それを含めると、このスキルってめっちゃ強い。


 そんな集中を使用して、やっと釣り糸を海に放り投げる。

 そんな私を見て、隣のジニさんがこんな提案を持ちかけてきた。


「ツユちゃん、勝負しない?」

「勝負ですか?」

「そ。勝敗は超シンプル。今から一時間以内に釣れた魚の数で勝負。……どう? やる?」

「わかりました、やりましょう」

「お、やる気だね。ま、ボクには敵わないだろうけど」

「それはこっちのセリフですよ」

「ふーん。じゃ、ボクは50ゴールドかけるよ」

「え、賭けるんですか?」

「いやいや、勝つ自信が無いなら、別に何も賭けなくったって全然良いよ」


 釣り勝負を仕掛けてきたジニさん。

 へー、そんなこと言っちゃいますか……ほーん。


 あ。私って、ジニさんこういうところは好きかもしれない。


 うん、よし、決めた。

 ジニさんとは、ライバルだ。

 あ、いや、ん~……ライバルはなんか違うかなぁ……。

 ……ま、名前なんてなんでもいっか。


 今はそんなことよりも、ジニさんを負かすことに集中だ!


「言ってくれますね。良いですよ、同じく50ゴールド賭けます」

「ふふ、後で泣いても知らないよ?」

「大丈夫です。50ゴールドくらい、カジノに行けばすぐ増やせますから」

「はぁ!? ズルい、それズルいぞ!」

「そうですか? ……なら、100ゴールドで」

「よし良いだろう」

「変わり身早いですね……いや50対100って良くないと思うんですけど……いえ、やっぱり良いです。私が負けることはないですし」

「お、おう、ツユちゃん、急に強気になってきたね……」







 ジニさんは唖然としていた。


 ついでに、私も唖然としていた。

 釣り竿の先にあるそれを見れば、理由は明白。

 先に言っておくけど、釣れた数がめっちゃ多い! とかじゃないよ?

 そもそも、今、海から頭を出してるのが一匹目だし。


 そう、一匹目。

 一匹目にして、とんでもないのが出てきた。


 一言で言えば、蛇。

 妙に大きくて、妙に皮膚が鱗っぽくて、妙に青くて……。

 あ、これ、蛇じゃないね。

 龍だね。

 水龍だね。

 あの、嵐とクラーケンを沈めたっていう、海の守り神の。


「ねえ、ツユちゃん」


 呆然としたまま、先に口を開いたのはジニさんだった。


「これ、まさか釣れたりしないよね」

「そんなの、私に聞かれても困ります」

「だよね……あ、なんか攻撃してくるみたいだよ」

「の、ようですね」


「……ねえ、どうする?」

「……戦う以外、何かあるんですか?」


「……無いね」

「……だってここ、海の上ですし」



「「……………………」」



 そこからは、とても迅速な判断ができたと思う。


 突如、危険を察知したせいか覚醒した思考をフル回転させる。

 そして、私が毒鱗龍装備に着替えるのと、ジニさんが自分の戦闘用装備に着替えるのと、水龍が水のブレスを放つのは、ほぼ同時だった。







 凄く、慌ててたと思う。

 

 水龍のブレスの後、私が着替えた毒鱗龍装備によって命の危機を免れた私たち。しかし、船は壊され沈没。

 咄嗟に私は、スキル竜人で、透き通った紫色の結晶が体の至るところに生えた、聖竜人・アメシストドラゴンの竜型の姿になる。


「ジニさん!」


 叫ぶ。

 

 私は竜になって飛べる。

 けれど、ジニさんはそういうことはできないはず。

 だから叫び声の返事はこない。

 

 落ち着け、と自分に言い聞かせる。


 それで気持ちを抑えて、けれども急いで海面を探す。

 水に浮いたボートの木片の近くに、小さな少女の体が沈んでいた。


 ――ジニさんだ!


 それを確認して、私は全速力で海面に近付こうとする。が、頭はジニさんのことばかりで、水龍のことが視界に入っていなかったのか、水龍の水ブレスが胴体に直撃してしまう。

 それによって、欠ける水晶。


 大丈夫、ダメージはそれほどでもない。

 それにブレスは前後の動作が大きいらしい。だからなのか、ブレス直後の水龍は動けていない。

 今がチャンス!


 今度こそ全速力で、水面に近づき、怖気ず潜る。

 そして水中で沈むジニさんを両手で抱えて、潜水時の勢いを利用して水上に浮かび上がり、そのまま空中へと羽ばたく。


 水に潜ったせいで翼がうまく羽ばたかないかと思ったけど、その心配はいらないみたい。

 少しだけ翼が重い感じはするけどね。まあ、自由に飛べないことはない。

 さて、これからどうするか。

 水龍が私たちを諦めてくれる様子はなく、しきりにブレスを打ってくる。


「ジニさん、どうします?」


 ジニさんに質問する。

 普通なら気を失っていてもおかしくない状況だけど、これはゲーム。そんなことは起こらない。


 ところが――


「ツユちゃん……ボク、もうダメみたいだ」

「えっ。それって、どういう……」

「でもね、人工呼吸をしてくれればなんとか持ち応えて――」

「ふざけないでください」

「めんごめんご」


 こんな時でさえ、ジニさんは全くブレていない。

 それが心地良いと感じてしまうのはなんでだろう。

 ま、なんでもいっか。

 

 てか人工呼吸って……私の今の姿、竜ですよ?

 と、ともかく、冗談は言えるらしいので、遠慮なく問いかける。


「ジニさん。これって、フィールドボスとかの類ですよね」

「まあ、そうなるんじゃないかな? もしくは、なんらかのイベントが発生したって可能性もあるけど」

「で、どうします?」

「そりゃあもちろん……」


 ジニさんがニッと笑う。


「戦うでしょ!」

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