Episode 91「こだわり」
◇フレファーの町・職人街◇
ダンジョンでの用事を済まして、ギルドハウスに戻り、その後転移陣で職人街へと移動した私は、出店に並べられた木製道具を物色する。
木製道具と言っても、今回用があるのは釣り竿だけ。
まあ、もしも釣り竿以外に良さそうなアイテムがあったら、その時はお金なんて出し惜しみせず買うつもりだけど。
正直、お金は吐いて捨てるほどあるんだし。
だからと言って無駄遣いするつもりも無いけどね。
でもまあ、少なくなればカジノに行って補充する。
私にとって、もはやそれは当たり前になってきている。
どんどん慣れて言ってるなぁ、と自分でもしみじみ思う。
「ツユちゃーん! これ見て、これ凄いよ! 光ってるよー!」
遠くの方で私を呼ぶ声が聞こえる。
この声はジニさんだ。なんでここにいるのかって? 着いて来たからに決まってるよ。
なんで着いて来たのかって? そんなの知らないよ……。
ともかく。私はなぜかジニさんと行動することになっていた。
いや、別に嫌なわけじゃないからね?
私は近づいて、ジニさんの目線の先にあるアイテムへと目を向ける。
それは金色に光っていてタンスのような形をした……いわゆる、収納ボックスだった。
収納ボックスは、ギルドハウスや事務所にもあるけど、それとはまた違う見た目の。だけど、性能はほとんど同じもの。
通常の収納ボックスやアイテムボックスといった類の家具は、基本、横長の宝箱っぽい見た目になっている。
それを、木工スキルで改造したり装飾したりしたものが、今FLO内で地味に流行っているらしい。
例えば、目の前のボックスみたいに、タンス型に形を変えたり、金色の豪華な飾りや着色をしたり。
例えば、本棚っぽくアレンジされたものもあったり。その場合、本系統のアイテムしか収納できない設定になっていたり。
例えば、ハート型の装飾やピンク色に着色された、観賞用の可愛い(らしい)家具だったり。
と。そんな風に、収納ボックスと言えば、様々なアレンジがされている。
私も、家具には興味があったりするから、こういうのを見るのは飽きない。
だけど……豪華なタンスだったり、ピンクの女子女子したものだったり。
そういう、ネタ半分、マニア受け半分、そんな家具が最近だと多くなった気がする。
私はどっちかというと、木質の方が好きかな。というか木質が好き。色は白が好きかな。クリーム色も良い。
本棚だって、以前横目に見た時に「こんなのもあるんだ!」って感激して、衝動買いしたものが私の部屋にある。ちなみに、その本棚に収納してあるのは確か……
『短剣の立ち回り〈初心者編〉』
『短剣の立ち回り〈中級者編〉』
『スキルのセカイ〈C・R〉第2版』
『スキルのセカイ〈SR・SSR・LR〉第2版』
の、たった四冊だね。
ま、本棚を埋めたいっていう気持ちがほとんどで買ったから、全部は読んでないんだけど。
……か、価値観っていうのは人それぞれだよね! うんうん。
「ツユちゃん、聞いてる? あ、これも良くない!?」
今度は、赤と紫が模様みたいに混じった色合いで、蓋部分には歪な形の取っ手が付いた収納ボックスを興味津々に見つめるジニさん。
ま、まあ……価値観っていうのは、人それぞれ、だよ。……うん。
◇
家具を見ていても始まらないので、さっさと道具屋まで移動した。
とりあえず今日中に買っておきたいのは、
・釣り竿
・釣り餌
・釣り用スキル
・冷凍ボックス
・小さい椅子
こんな感じかな。
釣りをする場合に気をつけないといけないのが、釣った魚は冷凍ボックス系の収納ボックスじゃないと収納できないらしくて、インベントリにも入れられない。
しかも、ずっと出しっぱなしだったら腐るから、冷凍ボックスはちゃんと買っておかないといけないんだとか。
凄いよね、忠実にリアルを再現している。
小さい椅子は、釣りの際に座る用。
折り畳み式で、小さいのが良いんだよ。
いやまあ、こっちは普通にインベントリに入れられるから、持ち運びしやすいとかそういう基準で選んだわけじゃないけど。
ただたんに、そっちの方が雰囲気あるからってだけ。
ちなみに、冷凍ボックスと椅子は既に購入済み。
5ゴールドと2シルバー。お安い買い物だった。
隣でジニさんが絶句していたのは……気のせい。
残るは、
・釣り竿
・釣り餌
・釣り用スキル
これらは、下手したら、大分高いかもしれない。
釣り竿に関しては、できればSSR以上のものを買いたいし。
スキルも当然、強力なものがあれば買っておきたい。
釣り餌は、予想だとおそらく、一個一個はそんなに高くはないんじゃないかな? だけど、それなりの数を買うとなると、高値になるかもしれない。
そこら辺は覚悟しておこう。
まあ、万が一にもお金が足りなくなるなんてことは、そうそう無いと思うけど。
もしもそんな事態が起こったのなら、カジノでお金稼ぎだね。
沢山消費することには変わりないだろうから、どのみち、近いうちにカジノに出稼ぎに行くとは思うけど。
◇
『(R)海老団子』×300
『(R)スキル巻物〈誘き提灯〉』
『(SR)スキル巻物〈釣り上手〉』
『(SR)スキル巻物〈集中〉』
――『誘き提灯』――
・パッシブスキル
――【EFFECT】――
・釣りや虫取りによる、獲物が集まりやすくなる
――――――――
――『釣り上手』――
・パッシブスキル
――【EFFECT】――
・スキル『釣り』の能力が大幅に上昇する
――――――――
――『集中』――
・使用中SP・MP自然回復不可
――【EFFECT】――
・使用中、釣りや虫取り中のDEXが1.2倍増加し、更にSP消費量が僅かながら少なくなる
――――――――
ひとまず、釣り竿以外の必要なアイテムは買い揃えた。
スキルは三つで10ゴールド。
釣り餌系のアイテムは、とりあえずどの餌よりも高価なものを沢山買っておいた。
海老団子は小さいながらも一つ10シルバー。それが300個で計30ゴールドとちょい高め。
そりゃ、魚を釣るためだけに買ったものに30ゴールドっていうのは大金になるだろうけど、私のお財布が基準となると、はした金もいいところ。
自分の感覚が狂っていく実感がある。
とまあ、餌、スキルも先に揃え終えた。
となると、後は釣り竿だけ。
なんだけど、中々レアな釣り竿が見つからない。
SR以下は沢山あるんだけど……。
それならSRを買えば良いじゃんって結論にもなるけど、私はSSR以上じゃないと気が済まない。
なぜかって?
SSR以上のアイテムに使い慣れてしまったからだよ。
ゲーム始めたての頃は、まだまだSSRやURの価値なんて知らなかったからね。
そんな頃から、それらのレア武器ばっかり使っていたら、当然SR以下のアイテムに価値観を見いだせなくなってきてしまっている、というのが現状。
実際、そこまで強いかって言われると、そうでもないのばっかりなんだよね。
それに、ここ最近だと、私が入手したアイテム以外にも、SSRやURって増えてきてるみたいだし。
そう言えば、第二回イベントの直前には、二つ目のLRが入手されたとかなんとか。
それを手に入れたのは、人気Vtubarであり、突如起こった戦争の当事者でもあるプレイヤー。
まぁ、入手したのが誰だって良いんだけど、この話を初めて聞いた時は流石だねって思ったよ。
それを言っちゃえば、皮肉みたいに聞こえるかもしれないから、口には出さなかったけど。
話が逸れたけど、私がSRの釣り竿じゃ満足できない理由は他にもある。
それは、もうSRの釣り竿を手に入れてるから。
――『(SR)金の釣り竿』――
・スキル『釣り』で使用可能
――【STATUS】――
・DEX=200
――【EFFECT】――
・釣りができる
・獲物が掛かりやすくなる
――――――――
獲物が掛かりやすくなるという能力が付与された釣り竿。
これがあるから、私はSRを買わない。
そして、この釣り竿では満足がいかないから、これは使わない。
よって、私はSSR以上の釣り竿を半ば延々と探している。
もはや、半分は意地みたいなもの。
それに、釣りというのはほとんどの場合がDEXに作用され、残念ながら私はDEXが高いわけじゃない。
というか、素のDEXとなると、超が付くほど低い。
何せ、大型アップデートの際の、ステータスを振り直す時、私はDEXに全く振ってないんだもん。
振ったのはLUKとAGIだけ。
そうなれば、当然DEXが低く、結果私は超不器用となった。
まあ、DEXに補正がある装備もいくつかあるし、全く釣りができないっていうことはないと思う。
ん?
そうだ、素のDEXが低いなら、DEX重視の装備を着用すれば解決するんじゃ……?
それに、DEXが高い装備っていうのは、布質の、軽いものが多い。
布質。ようは裁縫。
裁縫なら、うちのギルドに職人が一人。
さ、早速メッセージを送ろう!
ふふ、ふふふっ。これで私も釣りができるぞ!
だけど、SSRの釣り竿を諦めるつもりはないよ?
――【ツユ】――
・個体名「竜人・ポイズンドラゴン」
・LV「28」☆
▷MONEY「25,156,380」
▷CASINO「0」
――【STATUS】――
・HP「3900/3900」
・MP「3900/3900」
・SP「3900/3900」
・STR「2340」(660)
・VIT「2340」(1160)
・INT「2340」(160)
・DEX「2340」(350)
・AGI「2340」(470)
・LUK「2340」(50)
――【WEAPON】――
▷両手「白龍鱗のショットガン」
▷右手「道化師のナイフ」(納刀中)
▷左手「道化師のナイフ」(納刀中)
――【ARMOR】――
▷頭「毒龍のヘルム」
▶手
▷右「毒龍のガントレット」
▷左「毒龍のガントレット」
▷胸「毒龍のアーマー」
▷腰「毒龍のスカート」
▷足「毒龍のブーツ」
▷その他
「毒龍のマント」
「毒龍の心臓」
――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます