Episode 77「ギルド」

 テスト三日目も、なんの問題も無く終了した。

 前を歩く二人を除いて。


「だからゲームばっかりしてると危ないよ?って言ったのに」

「言ったのに」


 美月が相槌して、美玲と美香が溶けたような表情になる。


「露音だってここ最近はゲーム三昧だったじゃん!」

「そうだそうだー!」

「別にゲームをするなって言ってるわけじゃないんだけど……。ただ、勉強もしろってこと」

「そうだそうだー」


 美玲と美香、私と美月。

 いつもの四人で下校中。

 同じなようで同じじゃない、それでも変わらない日常。

 私は、こんな毎日が好きだ。


 美玲と美香が馬鹿なことを言って、私が突っ込み(又は無視)、美月が相槌(又は無視)。

 

 軽口言い合っても、めんどくさくなっても、みんなが隣にいるだけで私は嬉しかった。

 

 あれ? 今思えばこれ、友だちって言えるの?



 ……………………。



 気兼ねなく話せる仲、これこそ親友だよね。うん。

 まあ基本、美玲と美香の二人の話に、私と美月が突っ込んだり相槌したり聞き流したりなんだけど。

 ほんと、よくもまあ仲良くなれたなぁ、なんて思うことは度々あったりする。


 ちなみに、私が三人と仲良くなる以前から三人は友だちだったらしいけど、その切っ掛けというのが私には理解しがたいものだったりする。

 

 名前の頭が、三人共『美』だったからなんとか。


 凄いね。

 友だちの定義とか色々考えてた頃の自分がバカらしく思えたよ。

 美香曰く、友だちなんてそんなもんなんだとか。

 まあ、三人らしいっちゃらしいけど。

 

 あ。

 だけど、一度だけ美玲と美香が喧嘩した時があったのを思い出した。


 あ。

 その喧嘩の内容が超しょうもないことだったのも思い出した。


 名前が似てる。

 性格が似てる。

 キャラ被ってる。

 言い争い。


 うわー、今思い出しただけでも笑えてしまうくらいしょうもなかったよ。

 結局その喧嘩は、お昼休みに忘れ去られていたんだけどね。

 うん、結果も含めてしょうもなかった。


「ねー、今日どーするよー?」


 美香の声で、意識が現実に引き戻される。


「私はなんでも良いよ」

「私も同意」


「えぇー、なんかやろうよー」

「それなー」


 またも意見がわかれる。

 基本、美玲と美香が話を進めて、私と美月はなんでも良い派。


 とそこで、「なんの話?」と美月が切り出す。

 あ、聞いてなかったのね。


「だーかーらぁー。FLOするか、リアルで遊ぶか、どっちにする?っていう」

「そうそう」


 あ、その二択なのね。てっきり、FLO限定なのかと思ってた。

 はい、私も話聞いてませんでしたごめんなさい。







 最終的には、どっちも行うことに決定。

 

 ゲームセンターに行ったり、買い食いしたり、公園でダラッとしたり、ゆっくり過ごした。

 こういう、なんでもない日を私は憧れていたのかもしれない。今になってそう思う。

 明確に楽しいとか楽しくないって区別できることじゃなくて、ただただボーっとしているだけで、それが気持ちのいい日になる。

 ほら、朝のランニングをしたら気持ちいいって言うでしょ? まさにそれなんだと思う。

 

 と考えている私は、もう既に帰宅している。

 別れてからも三人とのことを考えるなんて、思い返してしまえば超恥ずかしい。

 あー嫌だ嫌だ、早く昼食を済まして復習して予習してゲームしよ。




◇ ◇ ◇




◇『不死竜』ギルドホーム◇




「何するー?」

「ツユは?」

「なんでも」

「同意」


 大きな長机に並んで駄弁る私たち。

 レイミーは腕を組んで顔を突っ伏し、ミカはFLOのランキングを見てるらしい。

 ミズキは金貨を取り出して遊んでいて、私はプレイヤーさんから貰ったレターカードを読んでいる。

 これ、多すぎて読み終わる気がしない。


――いつも応援しています

――頑張ってください

――ファンクラブの会員になりました!

――SRよこせ


 読んでると背中辺りがむず痒くなる……。

 私、芸能人でもなんでもない、ただの一般人なんだけどなぁ……。

 だから、時々混じってる上から目線の物言いの手紙を見ていると、近所の子供を見てる感じがして安心する。

 ああ、私の感性がどんどんおかしくなっていってる気が。

 まあ原因があるとすれば、間違いなく私自身のせいなんだけど。


「でさ、この前二層でスキル買ってたらさー……って聞いてる? 二人とも」

「え? あ、ごめん。聞いてなかった」

「私も」


「うえー。んじゃもう一回話すからちゃんと聞いてよー?」

「いや、別に話さなくて良い」

「同意」

「冷た! 二人とも冷た過ぎ!」

「そうだぞー、ミカが可哀想だぞー」


「「……………………」」


「いやなんか言え!」


 はあー、暇だ。

 こういうダラけた日常も良いけど、たまにはなんか事件があったりしても良いよね。

 あー、なんか起こんないかなぁー。


 ああでも、明日からは夏休みで、明後日は第二回イベントかぁ。

 うん、イベントっていうだけで充分忙しいや。


「いや無視すんな!」




◇ ◇ ◇




◇『暁戦線』ギルドホーム◇




「良かったのかい?」

「ん? 何が?」

「本当は今すぐにでもあっちに行きたいんじゃないのか? それでも第二回イベントが終わるまでは残るって――」


「――だって、今度のイベントはギルド対抗戦でしょ? なら、大規模ギルドのこっちの方が報酬多くなりそうじゃん!」


「……君ってやつは」

「ま、最後に宜しくたのむよ、リーダーっ」

「ああ、せいぜい頑張るとするよ」



「結局、二人はギスギスしたまま?」

「……と言うよりも、あれからマリンが顔を出していないな」

「あれでしょ? あの後二人が決闘して、マリンちゃん負けちゃったんでしょ?」

「おいジニ、そんな言い方は――」

「ごめんごめん、そんな怒らないでよー」



「で、ツユに相談したりは?」

「していないよ」

「だよねぇー」

「はあ、できるわけないだろそんなの」

「ま、二人の問題は二人が解決すべきだし、フロードが手を出したって良い方向には転ばないだろうなぁとは思ってたけどね」

「おい、それじゃあなんであんな提案をしたんだよ」


「んー……なんとなく、とか?」


「なっ! はぁぁ~……そういうやつだったよ、君は」

「まあそんなどうでも良いことは置いといて――」

「置いとかないでくれよ……」


「さっきの決闘で思い出したんだ」

「決闘ってことは……ツユのことか?」

「あったり~! 初決闘で相手はカジキ、そして舐めプしながら勝利したんだとか! ありゃ、私たちが敵う相手じゃないね」

「だな」

「しかも、最近は他勢力も伸びてきてるとか」

「そうなのか?」

「そうなの。――ここ、『暁戦線』、そしてツユの『不死竜』に加えて、ギルド規模が半端じゃない『TFP』。それと、ランキング上位者が集まった『終焉帝』。まあTFPに限っては、規模は凄いけど戦闘集団じゃないしね」

「ああ、それなら聞いたことがあるな。なんでも、ツユの信者の集まりだとかっていう話だったか」

「そうそう。TFPにツユが命令とかしちゃえばきっと簡単に動いちゃうよ」

「はは、結局はツユが一番怖いじゃないか」

「間違いないね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る