Episode 61「黒竜兄妹」

――『竜人』――

――【EFFECT】――

・竜の場合、人になれる

・人の場合、竜になれる

・どちらも、適性のある姿になる

――――――――



 今の私の容姿は、初期のアバターとは全くと言っていいほど違う。

 何故なら、『ポイズンドラゴン』としての人型になったのだから。

 私はそれを、元の姿に翼が生える程度なんだろうと勘違いしていた。

 ここには鏡が無いから、体の全体はわからない。

 だけど、そんなのが無くたって、自分の体の異変くらい気が付く。


 頭が少しだけ、重くなってる。


 まさか頭が大きくなってる!? なんてことは無かった。これは本当に、心の底から安堵したね。

 じゃあなんで? それを確かめるべく頭を振ってみたら、揺れる髪の毛が長くなっていることに私は気付いた。


 色は黒髪。それは初期アバターもといリアルの私と変わりない。

 変わっていたのは長さだけ。その長さが、数センチとか、ましてや10センチ、20センチ程度の変化じゃなかった。

 元は肩くらいまでしか伸ばしていなかったのに、振り返って確認してみれば、その自分でも見惚れてしまう程にサラサラになった黒髪は、なんと膝辺りにまで届いていた。


 なんと膝辺りにまで届いていた。


 なんと――


「なんとっ……! 以前のお姿もお綺麗でしたが、今のお姿も可憐でとても麗しゅうございます」

「可愛いドラ~! 綺麗ドラ~!」

「ガゴッ!」

「……!」


 自分でもそう思う。それくらい綺麗な髪で……手入れが大変そう……。


 肌も白くなってる。クロぐらいに。

 というかこれ、クロとそっくりだね。


 クロの肌はやっぱり白くて、黒髪も男子にしては長い。女子だとしても、腰まで髪を伸ばしている人なんてそうそう見かけない。

 比べて、私の肌もクロと同じくらい白くて、髪に関しては、リアルでこんなに伸ばしている人は見たことがない。寧ろこんなに長かったら邪魔になると思う。ゲーム内だとそういうのは気にならないけど。

 よし、早くギルドハウスに帰って、鏡で確認してみよう。


 私は逸る気持ちを抑えて、クロ以外の従魔たちには『絆の指輪』の中に入ってもらった。




◇ ◇ ◇




【FLO掲示板】



111:名無しの冒険者さん

『やべえ!』


112:名無しの冒険者さん

『どした』


113:名無しの冒険者さん

『新情報か?』


114:超究極魔導士の冒険者さん

『新スキルの情報なら大歓迎だぜ』


115:名無しの冒険者さん

『二層の山岳地帯に、山の一部が平らになってる場所ってあるじゃん?』


116:名無しの冒険者さん

『ゴーレムがいる場所か?』


117:超究極魔導士の冒険者さん

『そういやそんなのがあったな』


118:名無しの冒険者さん

『それがどうした?』


119:名無しの冒険者さん

『ゴーレム。俺あいつ嫌い。まじで硬いんだもん』


120:名無しの冒険者さん

『その場所に、巨大生物が四体いた』


121:名無しの冒険者さん

『は?』


122:名無しの冒険者さん

『巨大生物?』


123:超究極魔導士の冒険者さん

『ほら吹きか?』


124:名無しの冒険者さん

『ガチだって。見たことない竜が三匹と、ゴーレム一匹が並んでたんだよ』


125:名無しの冒険者さん

『なんだそれw』


126:名無しの冒険者さん

『並んでたってw』


127:超究極魔導士の冒険者さん

『もうちょっとマシな嘘をだなw』


128:名無しの冒険者さん

『本当なんだって』


129:名無しの冒険者さん

『俺も見たぞ!』


130:名無しの冒険者さん

『マジで?』


131:名無しの冒険者さん

『仲間か?』


132:名無しの冒険者さん

『ガチで見た。しかも、その内の二匹が人になった』


133:名無しの冒険者さん

『わけわからん』


134:名無しの冒険者さん

『人? スキルの類か? もしくは何らかのイベントとか?』


135:究極魔導士の冒険者さん

『証拠とか無いのか?』


136:名無しの冒険者さん

『竜……そういやこのあいだ、竜を従魔にプレイヤーがいるって騒がれてたけど……』


137:名無しの冒険者さん

『ツユのことか。確かに、あのツユならやりかねんが……』


138:名無しの冒険者さん

『それは流石に無いだろう』


139:名無しの冒険者さん

『ああ。人型になった二人も、顔はハッキリとは見てないけど、髪の長さで違うってわかった』


140:究極魔導士の冒険者さん

『髪の長さ? 変態か?』


141:名無しの冒険者さん

『もう一人の証言者は見てないのか? 人型を』


142:名無しの冒険者さん

『嘘は許さぬ』


143:名無しの冒険者さん

『巨大生物を見た瞬間逃げ帰って来たから、俺は見てないぞ』


144:名無しの冒険者さん

『腰抜けめ』


145:名無しの冒険者さん

『結局、その巨大生物がいたっていう証拠は無いのか?』


146:名無しの冒険者さん

『このゲーム、写真機能とか無いからなぁ。証拠は無いんじゃねえの?』


147:究極魔導士の冒険者さん

『そもそも、プレイヤーなのか? イベントなのか?』


148:名無しの冒険者さん

『証拠は無いな。ただ、二人の大雑把な外見くらいは言えるぞ』


149:名無しの冒険者さん

『大雑把じゃあまり意味ない気がするが……』


150:名無しの冒険者さん

『竜しか見てないから、俺は知りたい』


151:名無しの冒険者さん

『竜になれるプレイヤーが本当にいるなら、見てみたい気はするけど』


152:名無しの冒険者さん

『二人とも、めっちゃ髪が長かった。一人は腰くらいまであって、もう一人は膝くらいまで』


153:名無しの冒険者さん

『流石に長すぎるだろ』


154:究極魔導士の冒険者さん

『そんなのを見かけたら、一目瞭然でわかるな』


155:名無しの冒険者さん

『それな』


156:名無しの冒険者さん

『絶対目立つ』


157:名無しの冒険者さん

『それと、髪が長い方の人が残りの二匹に手を向けたかと思えば、その二匹が消えた』


158:名無しの冒険者さん

『わお。新情報だ』


159:名無しの冒険者さん

『いくらなんでも盛り過ぎでは?』


160:名無しの冒険者さん

『同意』


161:名無しの冒険者さん

『いやでも、可能性はあるんじゃね? 聞く限りだと、ツユも似たようなことしてんじゃん。竜になったなんて話は聞いたことないが、少なくとも従魔を収納(?)することは可能』


162:名無しの冒険者さん

『言われてみれば』


163:究極魔導士の冒険者さん

『それって、ゴーレムと竜の二匹が、その髪の長い方の人の従魔ってことになるよな?』


164:名無しの冒険者さん

『それだと、ツユでさえイレギュラーな存在だったのに、その髪の長い方の人は、ツユさえも越える実力を持っている可能性があるってことだよな?』


165:名無しの冒険者さん

『もしもその竜やら人やらの話が本当だったとして、そんなことよりも俺は、言わせてもらいたいことがある』


166:名無しの冒険者さん

『そんなことだと?』


167:名無しの冒険者さん

『上等じゃねえか。言ってみやがれ』


168:名無しの冒険者さん

『急に怖えよ』


169:名無しの冒険者さん

『いや、たださあ、『髪の長い方の人』って呼び方、べつのものにしないか?』


170:名無しの冒険者さん

『普通に同意だわ』


171:名無しの冒険者さん

『確かに、いちいちわかわりづらいしな』


172:名無しの冒険者さん

『www』


173:名無しの冒険者さん

『なんでも良いだろ。ただでさえ、存在が確定してるわけじゃないのに』


174:名無しの冒険者さん

『存在が確定していなくとも、都市伝説や架空の存在には名前があるだろ?』


175:究極魔導士の冒険者さん

『確かに』


176:名無しの冒険者さん

『確かに』


177:名無しの冒険者さん

『めっちゃ納得したわ』


178:名無しの冒険者さん

『どうでも良いから早く決めろよw』


179:名無しの冒険者さん

『で、何にすんの?』


180:名無しの冒険者さん

『実在するかもしれない人を相手に変な名前を付けるのはやめろよ?』


181:名無しの冒険者

『当然だな』


182:究極魔導士の冒険者さん

『竜人間』


183:名無しの冒険者さん

『安直過ぎるだろおいw』


184:名無しの冒険者さん

『透明人間みたいで、逆にアリなんじゃね?』


185:名無しの冒険者さん

『無しだろwww』


186:名無しの冒険者さん

『竜人はどうだ?』


187:名無しの冒険者さん

『竜人間よりかはマシだな』


188:究極魔導士の冒険者さん

『誰だよ。竜人間なんてダセエ名前考えたやつは』


189:名無しの冒険者さん

『お前だよ。ってツッコんだ方が良いのか?』


190:名無しの冒険者さん

『知らん』


191:名無しの冒険者さん

『それなら、竜人で決定か?』


192:名無し冒険者さん

『竜人間よりかはマシだけど、まだ安直過ぎないか? もうちょっと捻ろうぜ』


193:名無しの冒険者さん

『だな。ストーリーモードの世界にも、竜人って種族があった気がするし』


194:名無しの冒険者さん

『どうすんの?』


195:究極魔導士の冒険者さん

『なら、二つ名を付けるのはどうだ? 斧槌のヘッド、みたいに』


196:名無しの冒険者さん

『www』


197:名無しの冒険者さん

『斧槌のヘッド。あれは傑作だったw』


198:名無しの冒険者さん

『あの二つ名付けたやつ誰だよ。安直かつダサ過ぎて最高』


199:名無しの冒険者さん

『もはやイジメで草』


200:名無しの冒険者さん

『ツユに飼いならされてるとかいう噂まであったよなw』


201:名無しの冒険者さん

『今となってはFLO屈指のいじられプレイヤー』


202:名無しの冒険者さん

『草』


203:名無しの冒険者さん

『話を戻すが。二つ名はアリなんじゃね? 斧槌みたいにダサくなければ』


204:究極魔導士の冒険者さん

『だろ』


205:名無しの冒険者さん

『なんかあるか?』


206:名無しの冒険者さん

『黒髪なんだろ? それなら、『黒髪の竜人』なんてどうだ?』


207:名無しの冒険者さん

『さっきまでのよりはマシだな』


208:名無しの冒険者さん

『それだと、もう一人の、髪が短い方の人と被るだろ』


209:名無しの冒険者

『そうか、そっちの竜人(仮)も黒髪だったな』


210:名無しの冒険者さん

『てことは、短い方の竜人の名前を考えなきゃならんのか』


211:名無しの冒険者さん

『わかりづらいな。二人の異なる点とかは無いのか?』


212:名無しの冒険者さん

『髪の長い方の竜人が二匹を従えてたっていう違いならあるが』


213:名無しの冒険者さん

『ああ、でも、短い方は身長が高かったぞ』


214:名無しの冒険者さん

『それだけじゃなんとも』


215:究極魔導士の冒険者さん

『せめて性別とかはわかってるのか? どっちも女?』


216:名無しの冒険者

『ああ、そう言えば、短い方は男っぽかったな』


217:名無しの冒険者さん

『それを先に言えよ』


218:名無しの冒険者さん

『新情報』


219:名無しの冒険者さん

『男で腰まで伸びた髪って、すげえな。ゲーム内でキャラリメイクしてんのか?』


220:名無しの冒険者さん

『キャラリメイクつっても、髪の長さなんて変えられるか?』


221:名無しの冒険者さん

『考えられる可能性は二つ。そいつはNPCか。もしくは、リアルでもそのくらい髪が長いのか』


222:名無しの冒険者さん

『どっちもありえなさそうだが……強いて言えば、前者の方が可能性は高いな』


223:名無しの冒険者さん

『男か女かってだけで名付けるのは難しくね?』


224:究極魔導士の冒険者さん

『女の方を、『支配者』とかにするのはどうだ?』


225:名無しの冒険者さん

『何故に支配者?』


226:名無しの冒険者さん

『従魔を支配してるから、支配者か?』


227:究極魔導士の冒険者さん

『そうそう』


228:名無しの冒険者さん

『おー、急にまともな意見が出たぞ』


229:名無しの冒険者さん

『支配者の竜人? 黒髪の支配者? 支配者黒?』


230:名無しの冒険者さん

『支配者じゃなくても、従魔使いの竜人とかはどうだ?』


231:名無しの冒険者さん

『お、それ良いな』


232:名無しの冒険者さん

『支配者も良いが、それを名付けられた側が可哀想だしな』


233:名無しの冒険者さん

『確かにな』


234:名無しの冒険者さん

『FLO外でも通用するように、従魔使いじゃなくて、魔獣使いにするのはどうだ? そっちの方がしっくりくるだろ』


235:究極魔導士の冒険者さん

『天才か!』


236:名無しの冒険者さん

『魔獣使いの竜人』


237:名無しの冒険者さん

『それ良いな』


238:名無しの冒険者さん

『賛成』


239:名無しの冒険者さん

『異議なし』


240:名無しの冒険者さん

『長い方はそれで決定として、短い方はどうするよ?』


241:名無しの冒険者さん

『それこそ、黒髪の竜人で良いんじゃね?』


242:名無しの冒険者さん

『もうちょっと男っぽさを強調して、黒の竜人』


243:究極魔導士の冒険者さん

『それ良いな』


244:名無しの冒険者さん

『魔獣使いの竜人と黒の竜人』


245:名無しの冒険者さん

『二人合わせて、黒竜兄妹』


246:名無しの冒険者さん

『それも良いな』


247:名無し冒険者さん

『え、そうか?』


248:名無しの冒険者さん

『採用!』


249:名無しの冒険者さん

『マジか』


250:名無しの冒険者さん

『そもそも兄妹なのか?』


251:名無しの冒険者さん

『姉弟の可能性も』


252:名無しの冒険者さん

『あ、そっち?』


253:名無しの冒険者さん

『まあなんでも良いんじゃね?』


254:究極魔導士の冒険者さん

『そもそも、まだいると決まったわけですらないし』


255:名無しの冒険者さん

『そういやそうだった……』


256:名無しの冒険者さん

『なんか夢壊れたわ』


257:名無しの冒険者さん

『いないと決まったわけでもないだろ』


258:名無しの冒険者さん

『そうだそうだ』


259:名無しの冒険者さん

『そこは情報を待つしかないな』


260:名無しの冒険者さん

『存在が確定するまでは、FLOの都市伝説ってことだな』


261:名無しの冒険者さん

『続報を待て』


262:名無しの冒険者さん

『なんかあったら、各自報告ヨロ!』


263:名無しの冒険者さん

『ヨロ』

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