六章 様々な勢力(日常編)

Episode 62「偶然」

 おぉ~。


 整った顔立ちに白い肌。

 宝石みたいに透きとおった紫色の瞳。

 身長は前とあんまり変わってないけど、ほとんど別人になってた。

 

 髪や肌はクロと似ている。

 だから、私のギルドハウスの私の部屋にある鏡でクロと並んで見ると……。

 案の定、眼以外はめっちゃそっくり! 兄妹って言われても納得しちゃうね。


 よく見てみれば、どっちも目元がキリッとしていて、美しい、という言葉が合っている。

 自分の顔を見て、美しい、なんて言うのはナルシスト発言なんだろうけど……これはほとんど別人の顔であって、感覚的には別人の顔を褒めているだけだから、ナルシストじゃない。


 ないったらない!


 


◇ ◇ ◇




 私はログアウトして、クロとは暫しのお別れ。

 人の姿になったクロは、私がFLOにいない間にも自由に動けるらしいから、ギルドハウスの中は自由に探検しても良いよと言ってある。

 もしかしたら他のギルドメンバーに鉢合う可能性もあるんだけど、その時はその時。

 どのみち、近いうちに紹介する予定だったんだし、まあバッタリ出くわしても問題は無いねという結論に。そんなこと、そもそも起こらないと思うけど。


 

 そう言えば、『ラッキーカード』を使うのを忘れていたなぁ。

 明日ログインしたら使ってみよう。


 あと、ダンジョンも造らないといけないのか。

 明日からは期末テストもあるし。

 テストが終わったら、第二回イベントが開催されるでしょ?


 ……忙しくなりそう。




◇ ◇ ◇




◇『不死竜』ギルドホーム◇




「スキル無効化に装備の破壊……今回のアップデート、今確認されているスキルやアイテムだけでも、ツユちゃん対策のものがいくつかあるわねぇ……」

「ですね……」


 それも、先輩対策の追加要素が優先的に発見されています。

 それは、沢山のプレイヤーが、先輩を倒すためだけにアイテムを探しているということ。

 先輩はやっぱり流石です! プレイヤーの注目を一網打尽にし、それでも今日も本格的なレベル上げやレアスキルを探すわけでもなく、スキルの確認をしにどこかへ行きました。

 完全な舐めプです! ゾクゾクします!


「す、スノウちゃん……大丈夫?」


 いけないいけない。顔に出てしまっていましたか。


「大丈夫です」

「そ、そう?」


 私が雑念を振り払おうとしたその時、私とフレアさんが話をしているこのフレアさんの部屋の隣、先輩の部屋から、扉の開閉する音が聞こえました。

 ということは、先輩が帰ってきたのです!


「ツユちゃんが帰ってきたようね」

「先輩を呼びましょう!」

「そうね。来週のイベントのことも話しておきたいし」


 その言葉を待っていました!

 私はすぐに立ち上がって、部屋を出ます。そんな私にフレアさんは続いて――扉を抜けた次の瞬間、私たちは言葉を失いました。


「む?」

「「…………」」


 先輩の部屋の前で辺りを見回すその人は、大して驚きもせず――いえ、相手の感情なんてこの際どうでも良いです!

 問題は他にあって――


 ――その人、男だったんです!

 

 ――男! だったんです!


「ここの住民か?」

「「…………」」


 髪が長いので一瞬迷いましたが、その顔は男!

 ということは! この人は! 男であると同時に! 先輩の彼氏でもある!


「どうしたんだ……?」

「「…………」」


 男が何やら話していますが、私には聞こえません。聞こえてくれません。

 おそらく、それはフレアさんも同じことでしょう。二人揃って、さっきから無言です。

 それも当然。


 最強やらチートやらと騒がれていますが、普段は大人しいあの先輩が、まさかこんな……こんなふしだらなことを! しかもゲームで!

 なんですか! 新しいプレイですかッ!?


「お、おい、大丈夫か? どうした、何故倒れる?」


 あ、ああ、ぁぁあ……

 先輩が……私の先輩が……汚れて…………







 勘違いだったみたいです。

 てへ☆



 やらかしました、やらかしました、やらかしました、やらかしました、やらかしました、やらかしました…………――――


 やらかしました!!


 わ、私、心の中でだったとは言え、せ、先輩が、あんなことやこんなことをしていると……うわあぁぁぁぁああ!?

 だ、ダメです! これ以上考えてはいけません!

 フレアさんも同じく似たような状況になっていたらしく、物理的に頭を抱えています!

 

「し、しっかりしてください、フレアさん! バレてなければセーフです!」

「それはあなたにバレてるということになるのだけれど!?」


 た、確かに……!

 いやでも、この状況であんなあからさまに頭抱えて唸ってたら誰だって勘づきますよ。





 


 10分ほど時間を掛けて、私たちはようやく落ち着きました。


 それから、ゆっくりお話を聞いたのですが……今度は別の理由で頭が痛くなったわ、とフレアさんが言っています。

 私にとっては寧ろ、流石です先輩! と言わざるを得ない貴重なお話でしたけど。


 彼から受けた説明は、要約するとこんな感じでした。



1、先輩がスキルの確認をする。

2、『ライフギフト』というスキルで、ドラコ人形は従魔化するのでは? と考えた先輩は、見事に成功させる。

3、別のスキル、『吸収進化』を自分に使い、半石像になり今度は失敗。

4、3の状況を見た元ドラコ人形が、自分に『吸収進化』をしてほしいと頼む。

5、4が成功し、更にそれを見たクロさんが、自分にも、と頼む。

6、5も成功し、クロさんはおそらく上位種と思われる『聖竜人』に進化。

7、新たに取得したスキル『竜人』で人になる。



 やっぱり流石です、先輩!

 私、『ライフギフト』や『吸収進化』というスキルの存在すら知りませんでした。

 それも、ドラコ人形に『ライフギフト』を使って従魔化、更にそれを進化させるという天才的発想! 流石としか言いようがありませんね!


 しかもこの話、続きがあるようで。


「その後、主は『竜体化』というスキルで自らを聖竜人の劣等種である『竜人』に進化させ、我と同じく入手してあられる『竜人』で、『ポイズンドラゴン』の人型であるお姿に変身なされました」

「んー……? ようするに、本来のアバターと別の姿になった、ということ?」

「はい、その通りです」


 フレアさんの予想が当たったみたいです。

 なるほど。じゃあ先輩は竜になったんですね?


 ……す、スケールが違い過ぎます。

 で、でも……


「それなら、別の先輩を見られるということですよね!?」


「えぇ。そういうことになるかと」

「す、スノウちゃん……? なんだか変なオーラを感じるわよ?」


 嫌だなぁ、変態のオーラなんて……。

 私はただ、先輩のありとあらゆる姿をこの目に焼き付かせたいだけですよぉ……。

 そうと決まれば!


「フレアさん! 私、明日先輩がログインするまでここで待っています!」

「えぇー……」


 あ、ちょっと! あからさまに引かないでくださいよ!

 慕う先輩の色んな姿を見てみたいと思うのは当然の感情ですよ!


「ま、まあ……ツユちゃんの、ポイズンドラゴンの人型? は見てみたいとは思うけど……スノウちゃん、まだ高校生なんでしょう?」

「大丈夫です! 明日からテストですから!」

「何が大丈夫なのかよくわからないけれど。……テストなら早く帰って来れるんでしょう?」

「まあ、はい」

「それなら、いつもより早めにログインしてツユちゃんを待てば良いじゃない」

「ハッ。確かに!」

「ツユちゃん、いつも課題をあるていど終わらせてからログインするらしいし……」

「そ、そうなんですか!? 先輩って頭良いのかなぁ……」


 眼鏡の先輩……勉強を教えてくれる先輩……成績優秀な先輩…………おぉ、どれも萌えます!


「ともかく、ちゃんと寝て、学校に行きなさい。学校は大事なんだからね?」

「は、はい……」


 ふ、フレアさん。お母さんみたいです……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る