Episode 49「お詫び」

 三層の入り口は森だった。


 森と言っても、一層の森とは雰囲気が大分違って、ジメジメしてなかった。


 それと、急に気温が温かくなったよ。


 木漏れ日が肌に当たって、ポカポカした。


 こういう温度も再現できるって、やっぱり最近のゲームは凄すぎる。

 


 名残惜しさもあったけど先は明日から進むとして、私はここでログアウトした。




◇ ◇ ◇




 現実に意識が戻る。そして気がついた。


 私の部屋のドアが開いていることに。


 だけど、私がそれを言う前に、犯人の方から姿を現した。怒声を発しながら。



「あ、お姉ちゃん起きた! ちょっと! 私との約束忘れてたでしょ! どういうこと!」


「だから陽音、勝手に部屋に入らないでって――え、約束?」



 そこで思い出した。


 そうだ、今日は陽音と一緒にFLOをプレイする約束をしていたんだった!



「ご、ごめん、忘れてた……」



 戦争のせいで朝から忙しくて、と言おうとしたけれど、それは言い訳だし、だいいちお昼以降は時間があったわけだし。



「あっそ。ま、別に良いけど」



 あら、意外とあっさりと……。



「その代わり、明日は一緒にやろ! 絶対だよ!」



 明日は日曜日。うん、それなら大丈夫――じゃなかった。



「ごめん、明日は外せない用事があって……」


「えぇー。……外せない用事って?」


「それは言えない。言わないでって言われてる」


「ふーん……。時間はいつなの?」


「えっと、お昼過ぎには家を出るかな」


「帰って来るのは?」


「それはまだわからない。けど、今ぐらいの時間になるかも」



 今は18時21分。多分、もうすぐ晩ご飯ができると思う。



「じゃあ、朝は?」


「うーん……。時間的には2、3時間くらいならできるかもだけど……ボスと戦うのはやめておきたいかな……」



 本当に。


 妹にまで冷たい目を向けられるのが目に見えてるし。


 あ、でも、普通のモンスターを倒しても、私って三分の一くらいの確率で宝箱をドロップしちゃうんだよね……。


 ま、まあ、そこはなるべく、陽音に任せるとして。



「むー。明日、急な大型アップデートで、色々解放されるらしいのに。――もう、しょうがないなー」


「ごめんごめん」



 その大型アップデート、私のせいですよね……運営のみなさん、ごめんなさい。



「んじゃ、明日は五層の――そう言えばお姉ちゃん、どこまで進んでるの?」


「ん? えっと、さっき三層に到達したばかりかな」


「へー。最近始めたんだよね? 意外とペース早いじゃん。じゃあその森の入り口で待ち合わせね」


「あ、うん。わかった」


「ぬっふっふ。この私が手取り足取り教えてあげるよ」



 そう言ってにやける陽音。


 手取り足取り……。そう言えば、美玲もそんなことを言ってたな―。



「お手柔らかに」


「ぬへへ~」




◇ ◇ ◇




◇【FLO深夜配信! もうしわけありませんでしたぁっ!】◇




◇カジノ◇




 深夜0時1分。



――【コメント欄】――

「当然の如く、マスター権はツユの手に……」

「アリスちゃんおつかれ」

「お疲れ様~」

「今まで100ゴールド以上注ぎ込んでたのに……」

「今までで一番愛していた肩書きだったのに……」

「残念」

「《50,000》これで元気出して」

「次があるよ。……多分」

――――――――



「ふぇぇ……みんな、ありがとおおお! そしてごめなさあああい!」



――――――――

「アリアリは悪くないよ」

「悪いのは視聴者(俺含む)」

「まさか戦争に発展するとは思わなかった。そして集結するとも思わなかった」

「戦争をまさかツユが終わらすとは……」

――――――――



「ぐす……ちゃんと解決策も用意してたのに……んもぅ、ほんと、感謝だよぉ……あとでSSR送っとこう……」



――――――――

「アリアリ、ツユのコード知ってるの?」

「俺も送っとこう……」

「コード打ち込むか、直接出会わないとアイテム送れないよ」

「アイテムを送る義務がリスナ―にはある」

――――――――



「……ん、あぁ、それはね。なんか最近、ツユさんってめっちゃ成り上がってるじゃない」



――――――――

「うん」

「だね」

「マジヤバイ」

「天使だった」

――――――――



「それでね、ファンクラブもできてたじゃない」



――――――――

「そう言えばそんなものが」

「あれ、ツユファンの独断なんだろ? そういうの大丈夫なのか?」

「ツユ、恐ろしい」

「あと、事務所っぽいのもできてた気が……」

――――――――



「そうそう。ファンクラブと同時に事務所も創られてね。多分メッセージ対策だと思うけど」



――――――――

「初見です」

「ゲーム史上初だな、こんな事態は」

「ツユってマジで何者なんだろ……」

「メッセージ対策……大変そう」

――――――――



「で、その事務所にアイテムとか送られるらしいよ? だから私もそこに送ろうかなって。でも、大分ヤバめの事態になったわけだし、ちゃんとした物の方が絶対に良いよねぇ?」



――――――――

「まあ確かに」

「アリスちゃんの渡すアイテムなら誰でも何でも喜ぶよ」

「戦争が終わって、お詫びの品を送るとは」

「なんかもう、頭の中がこんがらがり過ぎてる」

――――――――



「それで、何を渡せば良いかなぁって悩んでるんだけど。――レアアイテムは一通り持っていそうだし」



――――――――

「種とかは?」

「確かに。装備も見たことないやつだった」

「天使装備って、未だにどこで見つけるかもわかってないんだよな」

「聖珠はどや」

――――――――



「種……聖珠も良いね! えっと、今持ってたっけ? あ、あった! けど、ふたつだけかぁ。聖珠はみっつだけ。――ひとつずつ送っとく?」



――――――――

「種と聖珠、一個も持ってない……」

「超レアアイテムだよ。やめとこう」

「使ってない武器とかは?」

「ツユが宝箱を当然のように開けてるのを見たことがある」

――――――――



「まぁ、種と聖珠はレアだけどね……やっぱこれくらいじゃないと誠意って伝わらないと思うもん。寧ろ少ないかも?」



――――――――

「戦争を引き起こした原因とは思えない言動だ。実際に起こしたのはリスナーだけど」

「アリスちゃん優しす」

「俺なら許すでござる」

「誠意大事」

――――――――



「あぁ~、武器も良いね。確か、いくつか余ってたよね。ちょっとホームに戻るね」




◇『アリスのおうち』◇




――――――――

「アリスちゃんのホーム、初めて見た」

「めちゃ殺風景……」

「家具何も無い……」

「女の子の部屋とは思えない……」

――――――――



「うっさい! 最近金欠だから家具にお金使えないの!」



――――――――

「ツンデレだ」

「金欠……」

「あぁ、カジノのせいか……」

「自業自得」

――――――――



「あったあった、ほら、この『灼熱剣』とか。あとは『暗黒大剣』とか」



――――――――

「レア度的には高いけど、どっちも、弱めって言われてるからなぁ」

「アリアリ、所持品は殆ど売ってるから……」

「あ、アリアリが珍しく売っていない、高価なアイテムが見えた」

「金貨系が多いね……」

――――――――



「金貨系かぁ。まぁ、イベントアイテムは基本売らないようにしてるから。でも何に使うかわかんないしなぁ。うん、これも渡しておこう」

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