Episode 47「バクダン鬼」
「こ、これは……!」
村長のターミルさんは、『毒龍のペンダント』を見て驚いている。
「本当に倒して戻って来るとは……! し、しかし、このような貴重品、本当にいただいてもよろしいのでしょうか?」
最初はスキルを渡すつもりだったんだけど、よくよく考えれば、あらゆる状態異常を無効化する『毒龍のペンダント』の方が強いと思ったから、そっちを渡したのだけど。
「大丈夫です。貴重と言っても、あとみっつありますから……」
「な、なんと!? いやしかし、ありがとうございます。――ほら、ミーラや、これを付けてみるのじゃ」
ターミルさんは寝たままのミーラちゃんの首にペンダントを掛ける。
とても、緊張する。
そのペンダントはあらゆる状態異常を無効化する。けど、それすらも越えて体を
ようするに、システムに干渉されないシステムだったら、私たちはもうどうしても、この子を病気から解放してあげることはできない。
ただそれは、どうやら杞憂に終わったらしい。
「……おじいちゃん?」
ミーラちゃんは目を覚まし、自分で自分の変化を話した。
「なんかね、きゅうにね、からだのどこも痛くなくなったの!」
「お、おぉ……!」
ターミルさんは泣き崩れ、その頭を少女は撫でる。
「良かったわね」
「はい」
この光景の為に私は努力したんだと、そう思うと、とっても誇らしい気持ちになる。
ゲームバランスを壊しちゃってるかもしれない、というか絶対に壊してるけど、それでも、私たちと同じ感情と思考を持つのに、痛みと苦しみに苛まれてベッドの上で過ごし続けるのはあまりにも可哀想だから。
NPCを生んだのが人間なら、人間はNPCが不憫にならないよう見てあげる義務があると思うんだ。
その後、無事に治ったミーラちゃんにまたね、と声を掛けて、帰ろうとした。
「お待ちください!」
その時、ターミルさんに呼び止められて、どうしたんだろうと振り返る。
「これを」
そう言って差し出してくる、手に乗ったそれは、銅色の大きめの鍵だった。
「あ! これ、第三層へ行く為のキーアイテムよ。すっかり忘れてたわね」
「え? ……あぁ、そう言えば、そもそもその為に来たんでしたね」
ありがたく受け取ると、今度は衣服のポケットから何かを取り出した。
「お二人とも、こちらもどうぞ。これは、この小さな村に代々伝わる『伝説の種』でございます」
種……って、何に使うんだっけ?
なんか、そういうことを聞いた覚えがあるような、無いような。
「ツユちゃん、私、このイベントでこんな物を貰った覚えはないわ」
「え、そうなんですか?」
「これは多分、システムとしての報酬じゃなく、人としてのお礼なんじゃないかしら? 貰う側が言ってしまうのもなんだけど……」
「なるほど。それじゃあ、ありがたく受け取っておきますか?」
「そうね。……ふふ、これで自分のダンジョンを造れるわね」
「ダンジョンを造る……?」
ああ! そう言えばそんなことを教えてもらった記憶がある!
「え、じゃあこれ、凄い物なんじゃ。良いんですか? いただいてしまって」
「えぇ、この種は受け継がれていく物。心優しいお二方に、是非貰っていただき、そして育てていただきたい」
「は、はい。わかりました。ちゃんと育てます!」
「私もがんばります」
最後に頭を下げて、今度こそ、三層へと続く道に進むのだった。
◇ ◇ ◇
小さな村を出て、山に囲まれた道を暫く通ると、山の入り口まで来た。
そう、ストーリーダンジョンだ。
とは言ってもこのダンジョン、中に入れば最初からボス戦になるらしい。
フレアさんによれば、ストーリーダンジョンに入るまでの工程が長い代わりに、ダンジョンは簡単仕様にされているのでは、とかなんとか。
山のダンジョンの入り口は霧掛かっていて、普通に通ろうとしても不思議な力で拒まれるという設定らしい。
だけど、鍵を所持していればその不思議な力に弾かれることもない。
てっきり、鍵で扉を開けるものだと思ってたけどね。
中は、意外と広かった。
部屋の形状は、キメラと戦った時と全く同じで、違うのは――
――ボスモンスターがいきなり襲い掛かってきたことぐらい。
◇
部屋に入って早々、私の足元が爆発した。
突然のことで、寿命が縮んだかと思った。
だけど、とりあえずフレアさんとクロと並走して前に進みながら、銃を構える。
フレアさんとレイミーが周回したというボスは、フレアさんの話から推測していた通り、爆破系の攻撃を使ってきた。
初手の攻撃以降も、相手は遠くの方にいるのにもかかわらず、私たちの付近で爆発が起こる。
なんにせよ、物理攻撃扱いされている爆破攻撃は、私には効かないんだけどね。
しかも、今は毒龍の装備を着ている。
そのおかげで、どういう原理かは知らないけど、爆発がボス付近にまで届くのだ。
いやほんと、どういう原理なんだろう。
長めで直線の道を走り抜け、ステージっぽい場所で煙に巻かれながら待ち構えるボスを目視でできるところまで近づけた!
――『バクダン鬼』――
・HP:11620/12000
・MP:0/0
・SP:2280/24000
――――――――
バクダン鬼……そのまんまの見た目をしている。
爆弾を思わせるような、まるっこいボディに、それよりも小さいけど同じような形の球体がいくつも繋がって、それが手足のように生えている。
そして、額(?)には大きな角がある。
愛着すら湧きそうな容姿。だけど、攻撃は激しい。
「ぐっ……」
ダメージは無いんだけど、爆風がリアル過ぎて、強風を顔で真正面から受けたような(というか、それそのもの)不快感を覚えた。
だけどっ、それは私たちだけじゃなくて、相手も同じはず。
私が攻撃をくらうたびに、毒龍装備の効果でそれがはね返るんだから。
「さて、次はこっちの番よ! 『ボムットアロー』!」
「いきましょう! クロ、『ポイズンブレス』! ――『エクスプロージョン』!」
「グオォォォオッ!」
フレアさんは、爆破属性というのを付与させた『ボムットアロー』を。
クロには、毒鱗龍の宝箱で手に入れたスキルを覚えさせておいたから、『ポイズンブレス』を。
そして私は、『エクスプロージョン』を放つ。
フレアさんから事前に教えてもらったことなんだけど、このボス、実は爆破攻撃に弱いらしい。
何故かと言うと、誘爆してしまうから。スキルのことじゃないよ?
ほら、爆弾に火をつけたら、爆発するでしょ?
その要領で、『バクダン鬼』に火属性や爆破属性を当てると、自分も爆破してしまう。
ようするに、相手が私に爆破攻撃を仕掛けるでしょ? それがはね返って相手に当たるでしょ? その爆発で、自身が誘爆して、またダメージを受ける。
ということは、私と『バクダン鬼』の相性は、私からすれば良すぎて、相手からすれば悪すぎる。
もう、苦笑しか出てこないや。
近づいて、『エクスプロージョン』を連発。
すると、一発だけで二度爆破するおかげで、辺りは煙と砂埃だらけ。
それでもやめずに連発。
相手も負けじと、爆破攻撃で反撃するけど、それは逆効果。
そして、あっと言う間に終わってしまった。
ボス戦で過去一番、呆気無かったと思う。
《プレイヤー『ツユ』がレベル23からレベル26になりました》
《従魔『クロ』がレベル18から21になりました》
《ステータスポイント15を獲得しました》
《『2ゴールド』を獲得しました》
《『爆弾鬼の角』を獲得しました》
《宝箱『火薬岩の宝箱☆3』が出現しました》
《宝箱『火薬岩の宝箱☆3』が出現しました》
《宝箱『火薬岩の宝箱☆3』が出現しました》
――【WEAPON】――
▷両手「白龍鱗のショットガン」
▷右手「道化師のナイフ」(納刀中)
▷左手「道化師のナイフ」(納刀中)
――【ARMOR】――
▷頭「毒龍のヘルム」
▶手
▷右「毒龍のガントレット」
▷左「毒龍のガントレット」
▷胸「毒龍のアーマー」
▷腰「毒龍のスカート」
▷足「毒龍のブーツ」
▷その他
「毒龍のマント」
「毒龍の心臓」
――――――――
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