Episode 8「フィールドボス」

 『Fantasia』で、今のところ確認されているアイテムのレア度は、


Nノーマル(表記無し)』


Rレア


SRスーパーレア


SSRスーパースペシャルレア


URウルトラレア


LRレジェンドレア


 この6種類。


 サービスが開始してもうすぐひと月が経つ、まだ始まったばかりのこのゲームには、まだプレイヤーには知られていないアイテムも沢山あるらしい。


 だから、この6種類以外に、もっと上位のレア度がある可能性は高い、とフレアさんから教えてもらった。


 そして、現在確認されているレアアイテムだけでも、


『SSR=7種類』


『UR=3種類』


『LR=1種類』


 このように、数が少ないらしい。


 この数字は、私が入手したアイテムを含めていないから実際はもうちょっと多いのだけど、その原因である私は、「もっと価値基準を知りなさい」と、フレアさんとレイミ―に怒られた。


 謝罪のつもりで、さっき入手した『(SSR)病原のお香』と『(UR)経験のお守り』をあげたら、もっと怒られた……。


 私はただ楽しくゲームがしたいのに、こんなのってないよ……。


 まあ、経験のお守りを渡した瞬間、二人の目の奥が明らかに輝いてたのは見逃さなかったけど。



――『病原のお香』――

・病を呼び寄せるお香

――【EFFECT】――

・自分を中心に、自分またはパーティーメンバー以外の半径10メートル以内に居る相手は『ステータス20%ダウン』。追加で、『麻痺』『毒』の状態異常を付与させる場合が稀にある

――――――――


――『経験のお守り』――

・持っているだけで経験が溜まり、才を覚醒させるとか

――【EFFECT】――

・EXP取得量が50%上昇する

――――――――







 ゲーム内時間で日をまたぐ程の間説教をされた後、レイミ―は大分調子に乗っていた。


 フレアさんも、「このアイテムがあればフィールドボスなんてらくちんよ!」なんて言い出したせいで、私は連れられて西平原のもっと進んだところにある、少し高い丘で静かに立っている大きなモンスターの前まで来ていた。


 説教はなんだったんだろう……。



「あの……本当にこのフィールドボス? とやらを倒すんですか?」



 そこに居るのは、馬に乗った騎士。


 馬も騎士も黒い鎧を着ており、とある部分がちゃんとがあれば、普通の騎士と呼んでも間違いない容姿だ。


 そのとある部分、それは――頭。


 頭の代わりにあったのは、人魂ひとだまで、肝心の頭は騎士が腕に抱えていた。


 鉄の兜のせいで顔は見えない。



「そうよ、こいつがフィールドボスよ!」



 え、えぇぇ…………無理。絶対に無理! めっちゃ強そうなんですが!


 さっき渡したアイテムが強いからって、こんな敵に敵うはずない。



「ツユ、大丈夫! 私たちなら勝てるよ!」


「そうよ、自身持って!」



 レイミ―まで……。


 はぁぁ……、やるしかないかぁ……。


 なんて呑気に心の準備を整えていたら、二人はとっくに攻撃していた。



「ちょっとおぉッッ!? 待ってよぉ!」



 もうしょうがない、やってやる!


 意気込んだ次の瞬間、抱えられた鉄兜から、赤い点が浮かぶ上がる。


 目を覚ましたのか、騎士はどこからか取り出した大きな剣を構え、横一線に薙ぎ払った。



「ぇ…………?」



 そして、私は死んだ。


 

「――だはっ!?」



 そして、生き返った。



「ツユ! 大丈夫!?」

「どうやら、本当に死なないみたいねぇ」



 そう言えば、そんな能力もあったね。


 ということは、すっかり天使っぽくなったこのローブのおかげで、ステータスが10%プラス、ナイフの効果も相まって合計30上昇したってことだよね。


 加えて、さっき手に入れたお香の効果で、『ステータス20%ダウン』がみっつ分と、これまたナイフ効果でプラス20%されて、80%のステータスダウンが発生する。


 ナイフ様様だ。


 しかも――――


 

「あれ……? なんかこいつ、様子おかしくない?」


「確かに時々、動きが鈍くなるわね……」



「「もしかして!?」」



――【デュラハン】――

HP「3720/4000」

MP「4000/4000」

SP「4000/4000」

『麻痺』

――――――――



「「麻痺ってる!」」



 状態異常付与――説明欄には『稀に』とあった。だけどそれがみっつもあって、しかも状態異常が付与される確率にまでナイフの効果が上乗せされるとしたら?


 もう稀じゃなくなっているのは、誰がどう考えても瞭然りょうぜんとしている。



「このうちにっ」


「たたみかけるわよっ!」


「はいッ!」



 麻痺と言っても効果はさほど高くないようで、少しの間動きが遅くなったりするだけ。


 それでも、死なない私たちからすると、あんまり――というか全く関係ないことだった。


 倒す時間が早くなるか遅くなるかの違いしかない。



 それから、私は何度も死んだ。『ライフリバース』の効果だってあるし、防御力がマイナス4000以上なんだもん。当然と言えば当然だ。


 でもやっぱり死ななくて、騎士――デュラハンのHPは着々と削られ、もとのHPの半分を切った頃、デュラハンは別の行動に移り始めた。



「これは……!」

「まさか……!」



 デュラハンは剣を自分の胸に刺した。


 鎧を貫通する程の自傷行為によって、相手のHPはみるみるうちに減り――――0になる。


 ――その時、一瞬失われた、鉄兜から覗く赤い目が、今度は青く燃える。


 同時に、剣先から、頭の代わりの人魂から、馬から、空から、大地から、どこからか、目がくらむ数の人魂が、抱えた頭へと集まっていき、デュラハンはそれをかぶった。


 付けた、という方が正しいかもしれないけど、今はそんなことどうでもいい。


 今度こそちゃんとした騎士なったのは一瞬、そいつには青いオーラが漂い始める。



――【デュラハン】――

HP「2000/4000」

MP「4000/4000」

SP「3200/4000」

『麻痺』

――――――――



「うふふ、面白くなってきたじゃないの」


「ですね!」



 そんなことを言っても、私たちは死んでも死なない。


 相手に勝ち目は無いのだけど……うん、盛り上がっているし、言わないでおこう。



「ウ゛ラ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ッッ!」



 レイミ―やフレアさんの驚き声なんて比にならないくらいの咆哮ほうこうが、周囲の空気を震えさせた。


 思わず耳を塞ぎ、二人の方を見る。



「ここッ!」


「くらえーッ!」



 怯まず立ち向かうその姿、私にはそれが、輝いて見えた。その輝きだけで、人魂を消してしまうのでは、と思う程に。


 同時に、別の想像もしてしまう。


 ――自分たちが死なないのを良いことに、デュラハン本体を馬から引きずり降ろそうとしている…………あ、いや、ごめんなさい、忘れてください。




 それからは――いや、それからも、私たちのゾンビアタックは続き、敵のHPは、残り三割、二割、と確実に削っていき、とうとう一割を切ったところで、デュラハンは両手に握り直した剣を高々と天にかかげる。



「新しいモーション!?」

「二人とも、気を付けるのよ!」



 すっごく、〝良い戦い〟の雰囲気を出してるけど…………うん、デュラハンさんにも申し訳ないし、言うのをやめておこう。


 掲げられた剣先には、さっきと同じように人魂が集結する。


 量こそ、さっきと比べると少なくなってはいるものの、オーラが青から赤黒く変色し、剣と騎士と馬、全てを包み込んだ。


 掲げた態勢から、剣を大きく振りかぶるデュラハン。


 私たちを睨みつけるような赤い炎は、その一撃で確実に仕留めると言わんばかりに鋭く、そして振り下ろした――――




「セイヤァッ!」




 剣が私たちに触れる直前、何者かが短い叫びと金属音で、デュラハンにトドメを刺した。



「は?」

「あら?」

「え?」



《プレイヤー『ツユ』がレベル8からレベル12になりました》

《ステータスポイント20を獲得しました》

《『70シルバー』を獲得しました》

《『(SR)呪われた剣』を獲得しました》

《宝箱『豪華な木箱☆1』が出現しました》

《宝箱『豪華な木箱☆3』が出現しました》

《宝箱『素朴な木箱☆3』が出現しました》



 レベルが一気に4も増えた。


 名前は物騒だけど、武器も手に入れた。


 宝箱も、いつもより豪華な物が出た。しかもみっつある。


 だけど、状況に理解できずに、喜べない私がいる。



「あなた、どちらさま?」



 フレアさんが優しそうな声で訊くが、どこかに怒りのような感情を感じるのは気のせいじゃない。


 状況を整理しよう。


 この場にいるのは、私、フレアさん、レイミ―、見知らぬ男。


 どうやら、この見知らぬ男がボスにトドメを刺したらしい。


 見方によっては、手柄を横取りしに来たとも見て取れるけど、



「あぁ、突然で失礼。俺はライナー、上位プレイヤーだよ。宜しくね」


「ライナー……聞いたことがあるわね。うん、確かに上位プレイヤーよね。――で?」


「はい?」


「なんの用かって訊いてるのよ」


「え? あはは、君面白いねぇ。見てわかるだろ? 助けてあげたんだよ」



 誰がどう見ても、そう思う。


 だけど、誰がどう見ても、下心が丸出しだ。


 『上位プレイヤーだよ』『助けてあげた』そんなことを自分で言わない上位プレイヤーを私は知っている。


 だから、下心丸出しで近付いて来たこの人が、私は嫌いだ。


 そしてその下心とはおそらく――



「ねえ、俺はこの☆3の豪華な方を貰うよ。別に文句は無いよね? 僕が倒したんだからさ」



 やっぱりね。


 横取りとか、どれが良くてどれが悪いとか、そういうのはあんまりわからない。


 この人は、ゲーム、現実、関係なく、性格が悪いんだ。


 だから私は――



「何勝手に決めてるの? ボスのHPは100近くだったし、第一、私たちは死なな――」


「ライナーさん、でしたっけ? どうぞ、その木箱はあなたにあげます。さあ、さっさと開けてどこかに行ってください」



 フレアさんやレイミ―に散々教わったから、



「あぁ、そうさせてもらうよ」




 私は知っている、




「おっ、成功だ」




 普通の人がちょっと豪華な宝箱を開けたところで、




「うわっ、ラッキー! SR!」




 ――レア度が低い物しか出ないということを。




「良かったの? ツユちゃんが開ければ、もしかしたらLRだって――」


「フレアさん、レイミ―、私も開けてみますね」



《スキル『ラッキーダイス』を使用――『5』》



「君たち、後で交換とかは無しだからな? これは俺が当てたんだから、失敗しても文句言わないでくれよ?」




「――え? 失敗なんてあるんですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る