第29話 ダンジョン地下第一層でヒャッハーするよ!

 アレスくんの短槍を使った突きの練習は、小一時間ほどで切り上げて、アタシはダンジョン内での取り回しについて講義することにした。


「アレスほどの才能と力があれば、ブンブンと槍を振り回したくなるだろうけど、それは止めてね。戦いになったら敵を真正面に見据えて、ただ貫くことだけに集中して」


 ターラのダンジョンがどのような構造になっているのかは分からないけど、槍を振り回して戦えるような場所はそうそうないと考えておくべきだ。それだけじゃない、


「もし立ち回りを覚えないうちに、アレスが槍をぶん回してたらアタシが巻き込まれるかもしれない。魔物と一緒にアタシの首までとったりしないでよ」


 アタシは冗談っぽく言ったつもりだったけど、アレスくんの目が急に真剣なものになっていた。


「わかったよ。槍は絶対に振り回したりしない」


「アレスにちゃんとした師匠が見つかって、槍の扱いを教わるまではそうして頂戴」


 アレスくんがコクリと頷いた。それにしても超カワイイ。


 その日はこれで切り上げて、翌日はアタシとアレスくんは必要な装備や道具を一通り買い揃えた。


 アレスくんの実力であれば、すぐにダンジョンに潜ることはできるだろう。ということで、その次の日にアタシたちはターラのダンジョンへと赴いた。




~ ダンジョン受付フロア ~


 ターラのダンジョン入り口は大きな木造の建物の中にある。


 アタシとアレスくんは、その一階のエントランスにいた。


 フロアの正面奥にはダンジョン入り口ゲートがあり、これからダンジョンに潜る冒険者やあるいは戻ってきた冒険者たちが行き来している。


 このエントランスには、他にギルド出張所と簡易診療所、そしてダンジョン保険組合「ダン保」の営業所が置かれていた。


 ターラのダンジョンの場合、潜るときはギルドの登録証を見せるだけで良いらしい。ダンジョンによっては入場料とか保証金みたいなものが必要なところもあるので、これはありがたい。


 街道生活のときの採取と販売で、当面やりくりできる程度のお金はあるけれど、決して余裕があるわけじゃないからね。


 ダンジョンのゲートに近づくと、前に話したことのある守衛のおっさんが立っていた。


「えっ!? 嬢ちゃんたちダンジョンに潜るのかい!?


 ギルド登録証を提示するアタシたちに、守衛のおっさんは目を丸くして驚いている。


「まぁね。こう見えてもアタシはそれなりに冒険者をやってきてるし、この娘も武芸に通じてるんだ」


「そうか。だが女二人でしかも一人は子どもかぁ……」


 そう言ってアゴに手をやって考え込む守衛のおっさん。どうやら本気でアタシたちの心配をしてくれているようだった。これからは「おっさん」じゃなく「おじさん」と呼ぶことにしよう。


「大丈夫だって、第一階層しか潜るつもりはないよ。少なくとも当面はね」


 アタシがそう言っても心配そうな顔の守衛のおじさんは、パッと何かを思いついたかのように手を叩き、懐から何かを取り出した。


「これを持ってきな、嬢ちゃん」


 そういっておじさんがアレスくんに手渡したのは小さな警笛。


「イザとなったらソイツを吹くと良い。近くにな冒険者がいれば助けに来てくれるはずだ」


 このおじさん、ほんといい奴だった! 「おじさま」にランクアップしてあげよう!


「ありがとう!」


 アレスくんに可愛くお礼を言われた「おじさま」の鼻の下が10センチくらい伸びた。


 アタシのなかで「おじさま」が「おっさん」にランクダウンした。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る