第28話 あれ? アタシが教えることなくない!?
アタシを動作を手本にして短槍を繰り出したアレスくん。
軽く風が起こったよ!?
しかも重心の移動にも一切ブレないが安定した体幹。まるで達人のようなような動作だった。
アタシが呆然としていると、アレスくんが目をキラキラさせて表情で「どうだった? どうだった?」と聞いてくる。
「す、凄くいいんじゃない? もしかしてアレスは誰かに槍を習ってたりした?」
アレスくんは首を横に振る。
「槍を持つのは初めてだよ!」
「それにしてはなんか慣れてる感じがするけど……」
ゴスロリメイドのアレスくんは、可愛い小首を傾げて少し考え込む。そしてハッと何かを思いついて手を叩いた。
「よく川に遊びにいって銛で魚を突いてたよ! きっとそれだよ!」
アレスくんは短槍を逆手に持ち直すと、銛で魚を突く動作を繰り返して見せた。
うーん。銛?
銛かぁ……。それが今の無駄のない短槍の突きにつながるかなぁ……。
いや、まぁ、突くってとこだけは確かに槍も銛も変わらないけど。
うーむ。
アタシが考え込んでいるうちに、アレスくんは再び短槍の突きを繰り返し始めた。
ビュンッ!! シュバッ! ビュンッ!! シュバッ!
その様子を横目でみていたアタシは内心で愕然としていた。いや、あれはどうみても達人か歴戦の戦士の動きだって!
(フフフ。シズカよ、恐ろしいか? アレスヴェル様の才能が!)
ずっと黙っていたミシェパが突然、アタシの思考に割り込んできた。
そりゃビックリするよ! あんなのゴスロリメイドの動きじゃない!
(それは確かにその通りだ。そうじゃなくてアレスヴェル様の才能が凄いと思うかと聞いている)
そりゃ驚いてるよ。だってステータスを見る限り魔法使い向き……
そう言ってアタシは目の前に映し出されたアレスくんのステータスを見る。あれ? 魔力が高いのは確かだけど、器用も結構……というかこの年齢とレベルにしてはかなり高いぞこれ!?
いや、そういえば腕力も人間の普通の大人より全然凄い。
(アレスヴェル様は、華奢な体格で同族の子どもたちと比較すると身体が弱いことは確かだ。だがそれはあくまで鬼人族の間での話なのだぞ)
あっ、そっか。アレスくん、鬼人族だもんね。
鬼人族の膂力は人間を遙かに上回ってる。赤ん坊でも注意しないとヤバイ。鬼人族の赤ちゃんが可愛いからって指でも握らせた日には、軽くポキンとやられちゃうこともあるらしい。
あの突きの勢いについては鬼人族ってことで納得したけど、身体捌きはどうなの? アレスくん、武術は習ったことがないって言ってたけど……。
(確かに習ったことはないぞ。武器を扱わせるのは10歳になってからというのが魔王様の教育方針だった。ただ体力を付けさせるために、魔王様はアレスヴェル様には、毎日、思い切り遊んでくるよう言われておられたな)
毎日、遊んでたのね。
(あぁ。7歳を越えられてからは、毎日のようにご学友と共に山奥や大河に出掛けては大陸熊やラーナリアンクロコダイルを狩って遊ばれていた。今となっては懐かしいな)
はっ!? 大陸熊? ラーナリアンクロコダイル?
中級の冒険者なら逃げ出すような相手なんだけど?
というかアタシじゃ、そのどちらの討伐クエストも受けられないですけど?
(そうなのか。アレスヴェル様凄い! 超可愛い!)
アレスくん……アタシが教えるようなことなくない!?
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