第21話 ミシェパ

~ 灰色狼の想い ~


 アレスヴェル様のゴスロリメイド姿を見て、その超絶なカワイさに思わず私は床でのたうち回る。気づくと、鼻から真っ赤な血が流れ出していた。


 といっても、鼻血も床もこの部屋も、あくまで勇者シズカの印象世界であって、実在の人物・団体組織とは一切関係がない。他人から見ればフィクションである。


 このような状況になったのは、私とシズカが血の誓約を交わしたことが原因だ。血の誓約を交わした片方が死亡した場合、その力の一部が片方に引き継がれる。本来的にはそれ以上でもそれ以下でもない。


 私は、アレスヴェル様を追ってきた岩トロルとゴブリンの部隊の中に飛び込んで、激しい戦いの中でその生を終えた。はずだった。


 ところが気がつけば、私はシズカの中にいた。理由は分からない。シズカが勇者であったことや、勇者としての彼女がことが原因なのかもしれない。


 いずれにせよシズカの精神に取り込まれた私が見たものは、何もかもが壊れた廃墟のような世界だった。シズカがおそらく勇者として授かったであろう加護やスキルは、そのほとんどが壊れていた。


 真っ黒な瓦礫がどこまでも続くような彼女の印象世界で、唯一形を維持していたものが戦乙女の神像だった。


 我ら魔族からすれは憎むべき天上界の存在ではあるが、印象世界の闇の中で微かに輝いて周囲を照らすその神像を手掛かりに、周囲の片づけから始めることにした。


 その直後、シズカとアレスヴェル様が野犬の群れに襲われそうになったときは肝を冷やしたが、幸いなことにシズカは血の誓約によって私の力を引き継いでいた。


 シズカが、スキル【狼之王キングオブウルヴス】を発動させたとき、私は思わず小躍りしてしまった。彼女がこのスキルを使えるのであれば、アレスヴェル様の安全がより確実に守られるようになるからだ。


 私は俄然ヤル気になって、気合を入れてシズカの印象世界の修復を始めた。その結果、【探知】や【索敵レーダー】と言った、いくつかの勇者のスキルを回復させることができた。


 その後はすぐに、シズカの記憶を頼りに、彼女の前世の部屋を印象世界に構築することができるようになった。


 今ではその部屋を介してシズカと対話をすることができる。


 対話の中でシズカはアレスヴェル様を守ると誓ってくれた。

 

 ならば私は勇者シズカ・ヒラノを全力で支援しようと思う。


 この勇者支援精霊システムを駆使して!


――――――

―――


 それはそれとして、シズカの部屋にある本は興味深いものが多い。


 とくに薄い本には、私の精神を昇華させる高尚なものが多い。


 おねショタ本……とくに年上メイドと少年が愛紡ぐ本が最高だ。


――――――

―――


 今日、シズカが私の願いを叶えてくれた!


 メイド服を着たアレスヴェル様のなんと萌えたることか!

 

 恥ずかしそうにしながら、スカートをギュッと握る様子は、正にシズカの部屋にある、あの高尚な本そのままではないか!


 涙目になってシズカを睨んでいるアレスヴェル様の姿に、私はこみあげてくる鼻血を止めることができなかった。




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