契約 2

 ヴォルターに従い腰を降ろしたソファーは、一体なんの素材で出来ているのか、まるでスライムにでも座ったのかと勘違いするほど柔らかく、まるで呑み込まれるようでどうにも落ち着かない。



 隣のレイムに至っては「わわっ」という素っ頓狂な声を出している。



「さて、早速にはなりますが…」



 とヴォルターは俺たちそれぞれへと一枚ずつの紙を提示してきた。



「紙…」



 ぽつりとレイムがそれを見て声を漏らす。



 紙は高級品である。



 羊皮紙でさえ滅多に使うことのない高級品だと言えるが、今俺の目の前に置かれたような、こういった白い紙というのは、それを凌ぐほど遥かな高級品だ。



 そんな物を容易い理由で使う。それほどまでにこのシュペーテ家というのは金を有り余らせているのだろう。



「此度のオークションに並ぶのは、ただ高価、貴重だというものだけではありません。神物として崇められていたものや、かつての英雄の遺物など…コレクターにとって所有したいが、不特定の者に落札を知られて無駄な『リスク』を抱えたくないような…そんな代物も多くあります」



 ヴォルターは俺たちの前に置かれた紙に視線を落とし話を続ける。



「つまり、この紙はそれらを抑止するため、…無論お二人を信頼していないわけではありませんが…オークションの一切についてを口外することの無いように誓約していただくための書類となります」



 紙に書かれた内容に俺は目を通していく。



 そこにあるのはどれも当たり障りのないものだ。



 だが、どうにも気になることがあった。



「別に、気にするところではないのかもしれないけど、なんだか似たようなことが書かれている項目が多くないかしら」



 と俺が思っていたことをレイムが指摘した。



「あぁ…それは失礼致しました。紙面を作成したのは私なのですが…どうもこう言ったことには向いていないようで…」



 と、ヴォルターは気不味い笑みを浮かべ小さく頭を下げた。



 彼の意図を読み取れないままであったが、だからといって、とやかくいうことではないのもまた事実で、おれとレイムは配られた紙面にサインを施す。



「ふむ、それでは契約完了ということで…。オークション終了まで、何卒よろしくお願い致します」



 ヴォルターは深々と頭を下げる


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