シュペーテ家

 庭に入ってみて改めて思うが、とても絢爛豪華な屋敷だ。



 商人の街メルロディンに似合わないこの絢爛豪華な建造物は、それはもう宮殿と言ってしまっても言いかもしれないほどだ。



 庭を進み、屋敷の中へと入るが、やはり内側も美しい。



 大理石の床が輝き、その上に真紅のカーペットが伸びている。



 壁にはシュペーテ家の家紋を示すエンブレムが刻まれた紅いレイがいくつも掛かっている。



「ふぅん…」



 それを見てレイムは目を輝かせるわけでなく、驚くわけでもない。



 彼女の瞳に宿る表情は、美しいものを見た感情とは真逆、そのもの。



 ふつふつと湧き上がらせる彼女の感情を代弁するならば、それは憎悪であろう。



 この絢爛さはあまりにも異質。美しいと感じる感情自体には間違いはないのだが、しかし、俺たちの生きる今の、この文明が描く美では断じてないのだ。



 美しさとは、調和のもとにある。



 壮麗な木々に、流麗な川々。例えばそういったものの中に高度な技術によって作られたオブジェクトがあれば、確実にそれに目を奪われるであろう。



この館は即ち、そういった調を産み落としている。



「こういったものが、この世界が持つ美しさを壊していく…」



 とレイムは誰にも聞こえない声で、言葉を噛み潰した。



「ヴォルター様、警備衛兵志願の者を2名連れてきました」



 衛兵に連れられ、階段を登ったすぐの部屋に俺たちは案内され、その部屋へ入る。



 その部屋には執事というには、予想していたよりかなり若い。



 今年24の俺よりわずかに上といったところだろうか。



「ようこそいらっしゃいました。どうぞお掛けください」



 物腰柔らかに俺たちにソファーをすすめ、ヴォルターは微笑む。


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