朝の柔らかさに包まれて


 朝の涼やかな風に肌をくすぐられ、鳥のさえずりによって目を覚ます。



 開けたままの窓からは朝早くから街で働く人々である程度の賑わいを見てとれた。



 レイムはまだ無防備に寝ている。



 一体どういうわけか、寝相の悪さから布団を蹴り、彼女は寝た時とは上下逆になり、枕はどこかへ消えている。



 どうすればそこまで寝ながら動けるのかと、おれは何故かレイムに感心すら覚えてし

 まう。



 ともかく、身体を起こし、俺は一足先に服を着替え始める。



 昨夜寝る前に洗い、干して置いた服はしっかりと乾いている。



 もし乾いていなければレイムに魔法を使ってもらうことになったわけだが、手間をかけなくて済んだ。



 各地を歩いて回る旅は、どうしてもまだ身体の幼いレイムには負担がかかる。寝ているときくらい、ゆっくりと休ませてやりたい。



 俺は上下を着替え、革のブーツを履く。



 俺の装備もレイムのものも、いくら手入れをしていていると言っても、流石に傷が目立つようになってきた。



 とはいえ、あれこれ買う資金もなければ持ち運ぶわけにもいかない。なにより、昨日

 のように不意を突いて一撃で異世界からの来訪者を殺せたなら良いが、そうでなかっ

 た場合、戦闘するならやはり着慣れた装備でないと具合が悪い。



 そうこうしているうちにレイムも目を覚ます。



「おはよう」



「……おはよ」



 まだ眠そうなまま彼女も身を起こし、ふらふらと身支度を始めた。



 彼女の身支度は俺に比べてやることが多いくせして早い。



 魔法によって風を起こし、必要な物を持ち上げては自分の元へ動かし、その合間に寝

 癖で乱れた髪さえも整えてしまう。



 それぞれが器用に操られ、とても見ていて楽しい。そして同時に、羨ましいと思う。



 彼女の支度が終わると、魔法の冷気によって冷やしてくれたシードルをグラスに入れ

 て一息付く。



 りんごの風味がさっぱりと甘く、うまい。



 この時代の水は不衛生なため、飲むのは弱い酒をふだんから飲料とする。子供でさえ

 も、喉を潤すためビールやエールなどを飲むような時代だ。



「どれくらい残ってるんだっけ、お金」



 とレイムが俺に問いかける。



「大体4万シリング…心許ないな」



 金を入れた袋は少し痩せていて、心なしか中の銀貨が擦れあう音もしょぼい気がす

 る。



「うーん…」



 彼女は手にしたグラスをそばに置いて、しばらく考えた。

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