第6話 表現のご自由展


 自分のデスクトップパソコンをカチカチしていろいろな日本文化に接したアスカが、こんどは直接日本の文化に触れたいと言い出した。


 日本の文化と言っても漫画からアニメ、歌舞伎にお城見学など様々だ。アスカの言う日本の文化はどういったものなのか聞いたところ、単純に美術館に行ってみたいとのことだった。そこで俺たちは都立現代美術館で催されている今話題の『表現のご自由展』展に行くことにした。


 地下鉄に乗ってやってきた美術館。もちろん俺は地下鉄の路線がどうなっているのなんて知らないのでアスカにくっ付いていっただけだ。


 アスカはネットで調べて関東界隈のJR、私鉄、その他の各駅の時刻表を全て頭の中に入れていると自慢気に語っていた。確かに便利ではある。ただ、その場でスマホで調べてもそんなに変わらないと思ったがそこは黙っておいた。


 地下鉄の駅を出て、しばらく歩いて美術館に到着し、大人一人2000円、高校生800円の2800円を払って入館した。


 話題の催し物が開かれているだけあって、館内はかなりの人がいる。見た目すごい美人のアスカが通りかかるとなんとなく相手の人がよけてくれる。



 まずは、特別展示場入り口の正面にある作品。


『悪魔が来りてケツを拭く』


 説明文を読むと、近代画家の巨匠、縦溝正史画伯の最高傑作から、インスピレーションを得て製作されたオブジェだそうだ。


 いちどそのオブジェべんきに座って、それから立ち上がるとオブジェの後ろの方から「悪魔の手」と称する孫の手が出てきてそれが前後するそうだ。


 微妙な作品ではあるが、展示場内に入ってすぐにこの作品を持ってくるところは、実行委員会や芸術監督の意気込みがうかがえる。アスカも「悪魔の手」の微妙な動きにしきりに感心している。



『悪魔が来りてケツを拭く』の隣には同じようなオブジェべんきが置いてあり、その上にキューピーさんが置いてある。そのオブジェの後ろには大きなスクリーンが置いてありそこには青空と真っ白な雲が映し出されていた。


作品名は『便器の子』。実行委員会や芸術監督の意気込みが空回ったようだ。



次は、


『〇ンダム、メニコン』


 こちらは、すっくと立った等身大のガ〇ダムが、上を向いて目にコンタクトを入れている。宇宙空間で紫外線を浴びるとガン〇ムでも目が悪くなるらしい。



 少し進んで、角を曲がると大きな油絵が飾ってあった。


 その絵の中では麦わら帽子をかぶって、白いランニングシャツ、半ズボンを履いたおじさんが虫取り網を持ってつっ立っている。そのおじさんは顔が浅黒いうえに黒ぶち眼鏡を掛けて唇が厚い。黒ぶち眼鏡の奥のぎょろ目と唇の厚さのコントラストがすばらしい。


 芸術とは何だ! そうともこれが芸術だ! 


 作者名を見ると、俺でも知っている現代画にその人ありと言われている吉来三画伯の力作だったようで、作品名は『カッペ』だった。



 つぎの作品は、丸テーブルの上に二人乗りのオープンカーの形をしたお子様ランチのプレートが置いてあった。


『アズキ・クーペ』


 テーブルの上には拡大鏡が置いてあり、覗いてみると、運転席と助手席に小豆アズキが一粒ずつ置いてある。なるほど、看板に偽りはないようだ。



『信じる者は足すくわれる』


 頭の上にある藁束わらたばを掴もうとして上を見ながら両手を上げている人に、柔道着を着た人が足払いを掛けている。



 次の作品。


『石の中にいる』


 大きな丸石が1つ置いてある。



『イチクしてやる!』


 建物をどこかに移すらしい。土台だけ残った家の模型と、半分出来上がった家の模型が置いてあるだけだ。


 この作品以降もなかなか見ごたえのある作品が並んでいた。


……


 最後の作品は、この『表現のご自由展』展を監修した芸術監督が自ら製作した大作。


 赤ら顔のおっさんの頭の上のトウモロコシのヒゲのような黄色い髪の毛に100円ライターを近づける先ほどの『カッペ』おじさん。100円ライターには「責任」と書いてある。


 作品目は『責任点火』


 確かに表現は自由だった。



「マスター。日本の文化は奥が深すぎて何も見えませんでしたね」


 日本文化はたしかに奥が深いが、だからといって深淵をのぞき込みすぎると、ミイラ取りがミイラになるからな。


 そのあと、常設展示を見て回って美術館を後にした。



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