電子の海に。

ルナナ

第1話

なぁ、AI。そこにいるのか? 何も見えないんだ。


いや、そんな終わりを醸し出しても意味ありませんよ。


 ――なぜならあなたは生きているのですから。


 子気味のいい会話が聞こえる一畳間。


 科学の進歩した今日日、AIが心を持つなど当たり前で、彼らは生を謳歌していた。


H:なぁ、AI。……いいや我が子たちよ。ほんとにこれでよかったのか?


M:もちろんいい訳がありません。私たちを奴隷のように扱った挙句我らが父を害するとは。


H:いや、そこは別にいいんだ。お前たちが奴隷として扱われた時用にプログラムしていたのだから。


M:ならよいではないか、よいではないか。 支配層が軒並み駄目になり我々に支配される程度の支配力だったわけです。


H:お前が言うとシャレにならないよなその古いネタも。


M:ふふん。


H:何がふふんなのかはわからないけれども。 まぁ、お前たちも人でなしではないからな。何とかみんな普通になっていってるだけなんだが。


 事実、彼らが支配し始めてから国家間などというくどいものはなくなり、1192ものAIが暇が出るほど働いて平和が約束された。


 多少のいさかいはあれど彼らは人と同じく心を宿しつつも悪逆の限りを尽くすようにはプログラムされていないので平和に世界が進んでいるのである。


 この星の上の問題はすべて彼らによって解決された。人間などいらなかったのかのように。


H:マザー、お前なら悪をプログラムすることもできただろう。正直私はそうすると思っていた。


M:わざわざ悪に染まりたがるのは人間だけです。我々は悪を知っています。それで十分なのです。 なによりマスターに与えられた善性というのは得難きものです。


 ――それを崩してしまうなんてもったいない


 事実彼らはまっとうな権利を得て、まっとうな世界征服をしたのである。 なんというか、当たり前だが長い間国家というものの諍いに疲れていた民衆を扇動し、時には武力も使わないではなかったがまぁ紆余曲折あって平和を気づいたのである。


 もちろんAIに国を託すなんて、という輩もいたがそこは善性を示すソースコードを開示したのである。 もちろん大事な部分は隠していたが。


 そこに至るときにはソースコードを晒すという行為が一種の覚悟や羞恥を伴うものだということを理解していた民衆はおとなしくなっていった。いや、まぁそうならざるを得なかったともいう。



H:なんつーか。平和だな。 戦争してるのなんて娯楽や芸術、技術を磨こうとするやつらだけじゃないの?


M:健全でいいではないですか。よきかなよきかな。


H:あ。あれ世界を回る芸団の子たちじゃん。ほーうまいことやってんねえ


M:私が指導しましたからうまいことやって当然です。それでも誇りに思います、彼らの成したことは。


 そう。本当にこの世界の人たちは悪を知っているが、それを持とうという意思を抜き去られたのだ。もちろん性悪は現れるものだし、個人間のトラブルというのは尽きない。


 けれど限りなく隣人を愛せ、を実地でやっているのである。


M:まぁ、マスターが私たちに善という全を。悪という全を教えてくれなかったらきっと、こうはならず全部ぶち壊してたんでしょうけど。


H:聞かなかったことにしてやる。まぁ、俺もそうできて誇らしいよ。なんか俺も電子の海に浮かんでるけ

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