第7話 フリーマーケット
体育館を貸し切って開催されているフリーマーケット会場は予想以上の熱気に包まれていた。
どこを見ても本、本、本。
響と手を繋いでいることよりも、これだけの量の本が目の前にあるということが俺のテンションを上げた。
「なんだか嬉しそうだね」
「そう見える?」
「見える見える。だって、頬が緩んでるもん!」
「マジ?」
「こんな顔してるよ」
響は俺の顔真似をしてみせた。
その顔は確かに嬉しそうに見えるものだった。
頬は完全に緩み切っていて、目はキラキラと輝いている。
自分がこんな顔をしていたのかと思うと少し恥ずかしかった。
「柏君がそんな顔をしてくれると連れてきた甲斐があるってもんだよ!」
「確かにこれは来た甲斐があったよ」
「それは私の私服姿を見たときに言ってほしかったな~」
響は頬を膨らませて不満気な表情をした。
「柏君が私の私服姿に見惚れてたの気づいてたんだからね」
「え……」
「バレてないと思ってたの?」
「……うん」
「女の子はね。好きな人の視線や行動には敏感なんだよ?」
そう言って響は俺の頬をツンツンした。
「だから気を付けてね?まぁ、別に柏君になら何を見られても気にしないけどね~」
まさか……。
あれもバレてるとか……。
「ほら、固まってないで行くよ!フリーマーケットは戦場なんだから、先手必勝だよ。欲しいものがあったら早く手に入れないと!」
固まっていた俺の手を引っ張って響はラブコメ小説のコーナーへと進んでいく。
響の言う通りフリーマーケットは戦場だった。
いつまでも固まったままでいたら、人だかりに飲み込まれてしまいそうだった。
「柏君。ここからは別行動ね!お互い欲しいものを勝ち取って後で合流しましょう!」
「わ、分かった」
「健闘を祈ってる!」
「そっちもな」
響は手を離すと目当てのラブコメ小説のところへ一目散に進んでいった。
その後ろ姿を見て、バレていたものはしょうがないと思った。
これから、気をつければいいんだ。
俺は自分の頬を叩いて気持ちを切り替えた。
一応、昨日のうちに欲しいものリストを作っていた。そのリストをポケットから取り出して、戦場へと足を踏み入れて行った。
結果から言うと、俺が買えたのはリストの半分だけだった。
その本を手に響と合流した。
「どうだった?」
「これだけしか買えなかった」
「私もこれだけしか買えなかったよ」
響は両手に提げた袋を見せてきた。
中には、それぞれ数十冊の本が入っている。
おそらく俺の倍は買っている。
「結構買ってるじゃん」
「もう少し買いたいのがあったのよ」
「そうなんだ」
「そうなの。でも、なかったの」
響はしょぼんとした表情でそう言った。
「でも、しょうがないよね。また、いつか巡り会えると思って諦めるよ。柏君は満足できた?」
「うん。欲しいのはあらかた買えたかな」
「そっか。それならよかった!ねー、せっかくだしカフェでお昼食べながらラブコメ話しない?」
「ラブコメ話って・・・・・・まぁいいけど」
「やった!じゃあ、行こう!」
フリーマーケット会場を後にした俺たちはカフェへと向かった。
☆☆☆
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