第4話 ゲームセンターへ
その日の放課後。
例のゲームセンターに行くことになっていたが、響は習い事があるらしく、悔しそうな顔をしながら、教室を後にしていた。
「それじゃ行くか」
「おう!」
渉と一緒に学校を後にして例のゲームセンターへ向かう。
例のゲームセンターは学校から歩いて20分。繁華街の中にあった。
「ここか・・・・・・」
「だな」
少し古びたゲームセンターの中に入る。
いかにも不良がたまり場として使いそうな感じの雰囲気だった。
しばらく、ゲームセンターの中を歩いて見回った。
その雰囲気のせいか人はあまりいなかった。
「渚~。お前、学校に行かなくて大丈夫なのか~」
「駿がそれを言うの~」
「ちげぇねぇや」
ガハハと他のお客に迷惑が掛かりそうなほど、大きな声で笑う駿と呼ばれた男。
どうやら、情報は確かだったらしい。姿は見えないが、渚が俺たちの近くにいる。
二人の会話を聞いている限り仲よさそうに思えた。
「どうする?宗一」
「とりあえず、渚が一人になるまで近くで見張る」
「了解」
ゲームセンターのお客を装いながら、渚が一人になるのを待つこと数十分。
駿が「俺ちょっとトイレに行ってくるわ」と言ってトイレに行ったタイミングを見計らい俺たちは渚の前に姿を現した。
まずは渉が声をかけた。スマホをいじっていた渚が顔を上げた。
「よぉ!こんなところで会うなんて奇遇だな!」
「なっ!?なんであんたたちがここに……」
渚は俺の顔を見ると、ぎょっと目を見開いた。
「久しぶりだな」
「ひ、久しぶりね……」
「こんなところで何やってんだ?」
「あ、あんたには関係ないでしょ!私がどこで何をやってたっていいじゃない!」
「そうだな。俺を振ったやつがどこで何をやってても俺には関係ない」
「うっ……じゃ、じゃあなんでここにいるのよ……」
多少は振ったことを申し訳ないと思ているのか、渚の声は徐々に小さくなっていった。
(まぁ、今更申し訳ないと思われてもって感じだけどな……)
俺は一歩前に出て渚の目をしっかりと見た。しかし、渚は俺から目を逸らす。
「目を逸らすな」
「無理……」
「もしかして、何か隠してるか?」
「そ、そんなことない……」
「なら、俺の目を見て答えろよ。中学生の時もそうだったよな。何か隠し事をしているときは目を逸らす。その癖だけは今も変わってないんだな」
目を逸らす。
それは渚の癖だった。
付き合っていた時も隠し事をしているときは渚は俺から目を逸らしていた。
その癖を割と早い段階で気が付いていた俺は土足で彼女の心の中に入り込んでしまった。
そして、嫌われた。
「あんたも変わってないのね。そうやってすぐに人の隠していることに関与しようとしてくる癖」
「そうだな」
「もしかしてさ、あんたたちがここにいるのって偶然じゃなかったりする?」
「それは言えない」
「はぁ~。誰かに見られてたのか。じゃなきゃ、宗ちゃんが私のことを探すわけないもんね。というか、宗ちゃん、こんなところに絶対に来ないもんね」
「ゲームセンターにはたまに行くことはあるけどな」
渚は苦笑いを浮かべ「もういいよ」と首を横に振った。
「悪いことは言わない。二人とも早く帰った方がいい。私のことはもうほっといてほしい」
そう言った渚の目は俺には助けを求めているように見えた。
そんな目をされて俺が見捨てることはないと渚は知っているだろうに、どうしてそんな目をするのか。
やはり、渚は何かを隠している……
「おい!俺の渚に何話しかけてんだ!」
「はっ……駿、おかえり」
「こいつら誰だよ。渚の友達か?」
「お前こそ誰?」
俺が挑発するようにそう言うと、渚があわあわと慌てふためていた。
「初対面に対してお前呼ばわりか」
「お前こそ、こいつら呼ばわりしただろ」
「生意気なガキだな」
駿が俺に顔を近づけてきた。
俺よりも少し背の高い駿が睨みつけていた。
その見た目はいかにも不良といった感じだった。髪は整髪料でテカテカに固められ、眉毛は薄く、唇の端にピアスがついていた。
「こいつら、殴ってもいいか?」
「それは……」
「まぁ、渚の許可なんかもらわなくても殴るけどな」
駿は手をポキポキと鳴らし、俺達を殴る態勢をとった。
それを見た渉が俺に耳打ちをしてきた。
「て言ってるけど、どうする?宗一?」
「どうもこうも、向こうが先に殴ってくれるなら正当防衛でボコれるな」
「でも、一発もらうの嫌じゃね?」
「それもそうだな」
「まぁ、あいつが殴りかかってきたところを躱してカウンターを食らわせてやればいいか。宗一ならできるだろ」
渉が俺の肩をポンっと叩いた。
「まぁ、できなくはないけど……」
「おい!何ごちゃごちゃと話してんだ!」
しびれを切らした駿が右手を振り上げ俺めがけて殴りかかってきた。
俺はそれを軽々躱し、駿の右頬にカウンターを入れた。
駿は後ろに吹き飛び床に頭を打ち付けた。
「ってぇな……」
「まだやるか?」
「くっ……おい!渚、行くぞ!」
そう言って駿は渚の腕を強引に掴んで歩き出そうとした。しかし、渚はその場から動こうとはしなかった。
「渚!!!行くぞ!」
「……いや」
怒鳴る駿に向けて、渚は勇気を振り絞って蚊の鳴くような声を出した。
駿の顔が徐々に赤くなっていき、体をぷるぷると震わせる。
「なんつった!?おい!もう一回言ってみろよ!」
「行かないって言ったの!」
「てめぇ~!殴られてぇのか!」
駿は渚の腕を掴んでいない手で、渚に平手打ちをしようとした。
俺はその手を止めて冷たい声で言った。
「もうその辺でやめとけよ。みっともないぞ」
「くそっ!絶対に後悔させてやるからな!」
渚の手を振り払た駿は捨て台詞を残しゲームセンターから出て行った。
「これで、一件落着か」
「どうだろうな。あいつがまた何かしてこないとも限らないが……まぁ、今は一件落着ってことでいいんじゃないか」
「そこは俺に任せとけ!あいつが手出しできないようにしといてやるよ!」
「そんなことできんのか?」
「友達千人越えをなめんなよ!」
渉に何か考えがあるらしく、俺はその考えに乗ることにした。
(というか、いつの間に友達が千人になったんだよ……学校外にも友達がいることは知っていたが、まさかそこまでとは……)
渉が一体どれだけの人脈を持っているの気になったが、今は渚だ……
「大丈夫か?」
「ほんとにお人好し。でも……ありがとう」
「どういたしまして」
「それと、ごめん。二人を巻き込んじゃって」
「それは大丈夫。俺たちが勝手に巻き込まれただけだから。それに、渉が後は何とかしてくれるって言ってるしな。な、渉」
「おう!任せとけ!大野に手出しできないようにしといてやるよ」
「何でそこまで私なんかのために……」
「人を助けるのにわけなんているのか?」
「まったく、あの頃から何一つ変わってないのね」
「渚は随分と変わってしまったな」
俺たちは互いに顔を見合わせて笑いあった。
その瞬間だけはなんだか付き合っていた頃の懐かしさを感じた。
渚によってボロボロにされた自信を少しだけ取り戻せたような気がした。
「さて、帰るか」
「そうだなー。帰りにチョコレートでも買って帰るかな」
「奢ってやるよ」
「マジで!ラッキー!」
俺たちは出口に向かって歩き始めたが、渚はその場に立ち止まったままだった。
俺は振り返って渚に声をかけた。
「どうした?帰るぞ」
「ねぇ……」
「ん?」
「いや、何でもない」
渚は首をぶんぶんと振ると歩き始め、俺達の間に割って入ってきた。
そのまま横並びでゲームセンターを後にした。
☆☆☆
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