俺のことが大好きな学年一の美少女と元カノたちの戦い

夜空 星龍

甘酸っぱい青春の始まり

第1話 柏宗一

 その日、柏宗一かしわぎそういちは告白を断った。

 

 俺に告白をしてくれた彼女に不満があったわけではない。

 むしろ、彼女は俺なんかにもったいないくらいの人だった。

 どうして、俺なんかに告白してくれたのか、今でも不思議に思っている。


☆☆☆


「なぁ、なんで彼女の告白を断ったんだよ。もったいない」


 頭の後ろで手を組んでそう言ったのは星渉ほしわたる

 俺とは中学時代からの学友で渉とはよくテストで上位を争っていた。

 そのチャラい見た目(明るい茶髪・両耳にシルバーのピアス・制服を着崩して着ている)でバカだと思われがちだが、渉は頭が良い。

 俺達は『東聖とうせい高校』に進学した。

 地元に高校はあまりなく、俺と同じ中学に通っていた人たちのほとんどはこの高校に進学することになる。

 昼休憩、弁当を食べ終わった俺は窓の外を眺めながら呟いた。


「いいんだよこれで、彼女には俺なんかよりふさわしい人がいるだろうから」

「相変わらず宗一は自分に自信がないのな」

「うっせぇ。ほっとけよ」

「中学時代はファンクラブができるくらいモテてたのにな」

「モテてはねぇよ」


 ファンクラブが勝手に作られていたのは知っていた。 

 それなりに俺のことを好きだと言ってくれている人がいるのも知っていた。しかし、俺が好きになった人達は最終的には俺のことを嫌いになっていった。

 原因は自分で分かっている。だから、俺はもう自分から異性を好きにならないと決めていた。

 

「まぁ、宗一はちょっとあれだからな……やべっ!そういえば、次って数学だったよな。課題してくるの忘れた……」

「ほらよ」


 俺は机の上に準備していた数学のノートを渉に差し出した。


「サンキュー!助かるわ!」

「渉にしては珍しいな」

「昨日、新作のゲームをするのに夢中になってな」

「あぁ、そういえば、昨日だったか……あのゲームの発売日」

「そうそう!めっちゃ面白くてな!つい、夜中までやっちまったよ!」


 人生楽しんでんなぁ、という笑顔を浮かべた渉は俺からノートを受け取った。

 俺からノートを受け取った渉は前を向いて数学の課題を移し始めた。

 そして、俺はさっきから感じている視線をどうしようかとため息をついた。


「さて……どうしたものか」

 

 その視線を送ってくるのは俺が告白を断った彼女だった。

 彼女の名前は九条響くじょうひびき。彼女も俺たちと同じ中学の出身。

 (まぁ、ほとんど接点はなかったんだけどな)

 響と同じクラスになったのは今年が初めてだった。 

 中学の三年間と高校の一年の時は違うクラスだった。ただ、響の噂はよく聞いていた。なにしろ、響は中・高とファンクラブができるほどの美人だからな。

 誰にでも愛想がいいし、スタイルもルックスも抜群にいい。先生たちからの信頼も厚く頼れる学級委員長だ。まさに非の打ち所がない完璧な人だった。

 そんな響はどういうわけか、クラス替えが行われた日に俺に告白をしてきた。

 そして、知っての通り俺はその告白を断った。

 クラス替えから数日が経ち、なぜか俺は響から視線を浴びるようになっていた。

 

「終わった~!」


 数学の課題を写していた渉が両手をバンザイして言った。

 そして、俺の方を振り向いてノートを渡してきた。


「マジ助かったわ~」

「お疲れさん」

 

 渉からノートを受け取って響の方をチラッと見ると、もうこっちは向いていなかった。響は友達と楽しそうに話をしていた。

 

「どうした?」

「いや、ちょっとな……」

「もしかして、九条さんのことか?」

「相変わらず、鋭いな。そうだよ」

「宗一が最近頭を悩ます種といったらそれくらいしか思い浮かばないからな」


 渉には隠し事ができないな、と思いながら俺は苦笑いを浮かべた。

 響とは違って俺と渉は五年間同じクラスだった。

 本人曰く、五年も友達やってるとある程度のことが分かるそうだ。

 

「てか、そんなに気になるなら断らなければよかっただろ」

「しょうがないだろ」

「俺からしたら恋なんて当たって砕けろなんだがな。昔のことをいつまでもひきづってねぇで今を見ろよ。九条さんは今までとは違うだろ。むこうがお前のことを好きになってくれてるんだろ。それなのに嫌われるかもなんて思ってたら、この先一生恋人なんかできねぇぞ」


 珍しく渉は熱く語った。

 それだけ、渉は俺のことを思ってくれているという証拠なのだろう。

 確かに、渉の言う通り今までとは違う。俺が相手を好きになる、ではなくて、相手が俺のことを好きになってくれている。

 もしかしたら、今までとは違った結果になるのかもしれない。だが、それでもやはり過去というものは付きまとってくるものだ。

 ボロボロになった俺の自信はそうそうに治るものではなかった。

 

「まぁ、決めるのは宗一だけどな」


 渉がそう言ったところで昼休憩の終わりを知らせるチャイムが鳴った。 

 しばらくして、数学の先生が教室に入ってきて授業が始まった。

 俺は数学の時間中ずっと上の空だった。


☆☆☆


 

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