お母さまと仲良く異世界転移したのに・・・なんでこうなるのっ?!

雪月風

探険のはじまり~マンティコア討伐編~

1章.異世界転移

001.スカートと水溜まり

 僕の名前は明野あけの 明星あきら

 普通とはちょっとだけ違うけれど、小学校を卒業したばかりの12歳。

 どこが違うのかというと、肌の色が女の子よりも白くて、髪の毛はお年寄りよりも白いんだ。

 そして目は血の色……


 なんでも遺伝子がどうたらでメラニン?が出来ない、アルビノと言うらしい。

 中身は普通なんだけどね。


 そのせいで直ぐに日焼けしちゃうから、今も大人物のパーカーを着て、手と頭をスッポリと隠している。

 それだけならまだいいのだけれど、今日みたいに天気がいい日は、眩しすぎて目が良く見えなくなるの。

 だから、サングラスも掛けないといけない。


 そんなアルビノも悪い事ばかりじゃない。

 男子にはドラキュラーって呼ばれて揶揄からかわれるけれど、女の子からは意外と人気がある。

 ”顔が小さくてお人形さんみた~い”とか、”王子様みた~い~”とか言って、いつも一緒に遊んでくれるし、ラブレターだってくれる。


 卒業式の日には赤い花束とか、プレゼントを沢山もらった。

 何故か一つだけ紙袋にブラジャーが入っていたけれど、あれは何だったのだろう?

 お母さまが付けるには小さすぎるし、男子の僕が付けるわけが無し…………うん、分からない。


 僕も男子だから女の子に囲まれるのは嬉しいのだけれど、ちょっと違う気もしている。


 そして僕が大好きなのは、いつも普通の人間として接してくれ、いつも傍に居てくれる人。


 「ア~君。明日から、いよいよ中学生ね」


 この優しい声で話しかけてくれている人が、僕のお母さまで、そしてとっても大好きな人。


 同級生の女の子がうらやむほど、若くて綺麗なんだ。

 でも、お母さまは子供の僕にも年齢を教えてくれないんだよね。

 だから若く見えるだけなのか、本当に若いのかは知らない。


 みんなは20歳ぐらいだって言うけれど、どうなんだろう?

 だって”20-12=8”だよね?


 「うん!あっ、帰ったら制服を着てみてもいいですか~?母さま」

 「そうね。お母さんも早くア~君の制服姿を見て…………あ~~~、たいへん!まだお店に取りに行ってなかったかも……」


 そんなお母さまは、子供の僕から見ても少し天然なところがある。

 でも慌てている姿も可愛いんだよね。


 買い物袋を持ったまま、笑顔で洋服屋さんに行き先を変更だ。


 僕が少し落ち込んでいるお母さまの手を握ろうとした時、後ろから来た春の温かい風が、二人の間を勢いよく通り過ぎて行った。

 お母さまの長い黒髪が風に揺れている。

 きっとフードを被っていなければ、気持ちが良いんだろうな~。


 「きゃ~~~……」


 女の人の高い声に気が付いて見上げてみると、歩道橋を上っている女子高生の紺色の短いスカートが、ヒラリと大きくめくれ上がっていた。


 「あっ……」


 ふんわりとした柔らかそうな太ももと、丸いお尻を覆っている白いパンツが、ぼんやりと見えてる気がして、少しドキっとする。

 見てはいけないと思うと、どうしても目が行ってしまうものだよね。


 「あっ、ア~君、見てはダメよ」


 ムギューーーー


 「あわわわ~、か、母さま……オッパ……」


 僕の目を覆い隠そうと、お母さまが抱き着いてきた。

 当然、大きなオッパイに顔が埋もれるわけで……


 (あ~~柔らかいな~~でも、恥ずかしいかも……)


 ついこの前まではお母さまと手を繋いで歩いていたけれど、最近ではそれも恥ずかしくなってきた年頃です。

 だって僕は中学生に成るのだから。


 だから母の呼び方も、”お母さま”から、”母さま”に変えている。


 それにしても不思議なことに、僕には1日に2回か3回はこういう事が起こる。

 多い日には5回ぐらいかな……


 そう言えばよく友達に、お前はラッキースケベだと言われる。


 初めて言われたのは、確か幼馴染の女の子と屋内プールに遊びに行ったときだった。

 初めてのプールでどうしていいか分からないでいる僕の横に、その子が思いっきり飛び込んできたの。

 バシャーーーーっんて。

 そうしたらペロンって水色の水着が捲れてしまったんだよね。


 『も~アキ君ったら、ラッキースケベなんだから~~』


 って、顔を赤くしながら言われたことを今でもよく覚えている。

 僕と変わらないペッタンコの胸を見ても、何とも思わなかったけれどね。


 他にも真夏の暑い日に、僕はグランドには出られないから教室で寝ていた時の事。

 物音に気が付いて目を覚ましたら、周りで女の子が着替えていたこともあった。

 せめて体操服を脱ぐ前に起こしてくれれば……、とも思うんだよね。


 「母さま。今日の夜ご飯はなんですか?」

 「今日はね~。ア~君が大好きな若鳥の唐揚げとハンバーグよ!」


 「やった~!!じゃ~僕も一緒にハンバーグを作るね。あっ水溜まりだ!!」


 僕は小さな頃から、キラキラと輝く水溜まりが大好きだった。

 今日見つけた水溜まりには虹が映っていて、とっても綺麗に輝いている。


 「あっ、ア~君。汚れるわよ~」


 お母さまの言う事も聞かずに、僕は思いっきりジャンプして両足で水溜まりを踏んづける。


 バッシャン!!って、あれ?いわなかった……


 「えっ~~…………」


 (どうなってるの~~)


 靴底から道路の硬い感触が来ないまま、足がス~~と水溜まりに吸い込まれて行く。


 「ア~~君!!!」

 「あっ、おかあさまーーー!!!」


 お母さまの声に気が付いて、僕は慌てて振り返り、思いっきり手を伸ばした。

 駆け付けてくれた、お母様の手も伸びる、


 パシン


 柔らかい手が、僕の手を掴んでくれた。


 (よかった……)


 僕はほっとしたまま、暗い世界に呑み込まれてしまった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 「いててて……」


 気が付くと、お尻がとても痛かった。

 空から落ちてくる夢を見たけれど、まさかね……


 手でお尻を触って見ると、パーカーとズボンが土で汚れていた。


 (お気に入りのパーカーなのに……)


 僕の家はあまりお金がない。


 というのも母子家庭だからだ。

 僕が学校に行っている間だけ、お母さまが働いてくれている。

 働く時間が短いのだから、お給料が少ないのは仕方がないよね。


 でもそのおかげで、僕はお母さまと居られる時間が増えるわけだから、まったく不満は無い。

 むしろ嬉しいぐらいだ。


 そしてお母さまは年齢だけでなく、父親の事も教えてくれなかった。

 何度か不思議に思って聞いてみたけれど、遠くの国で旅をしているとか、お星さまになったとか言って笑って誤魔化されるばかりなんだ。


 (困ったな……)


 どうやら僕はサングラスを落としてしまったようで、眩しすぎて辺りが良く見えない。

 それに顔がヒリヒリといい出したので、急いでパーカーのフードを被る。


 眩しさが和らいで、ボンヤリとだけれど茶色い地面と沢山の杉?のような真っ直ぐに伸びている木が見えて来た。

 どうやらここは、森の中にある道のようだ…………って、


 「えええーーーーーーーー!!」


 思いっきり大きな声を出しちゃったけれど、僕はお母さまと公園の横にある歩道を歩いていたはずだ。

 もちろん、アスファルトで舗装されている黒い道だよ。


 (なのに、なのになんで森の中!?)


 そして虹色をした水溜まりに……


 「あっ…………」


 僕はようやく水溜まりのような穴に落ちたことを思い出した。

 思わず空を見上げてしまったけれど、太陽が眩しすぎて何も見えない。


 (あっ、そうだお母さまを探さないと)


 と言ってもサングラスが無いと歩くのも危険だから、まずは這うようにしてサングラスを探す。

 よく石とか段差につまづいて転ぶんだよ。


 キラン!と輝く黒い物体を発見!


 「あった!」


 急いで駆け出した僕の頭上から、聞き覚えるある声が降ってくる。


 「キャーーーー…………」


 (え!?お母さま??)


 「えっ、ちょっと待って、よく見えないから~~」


 悲鳴が聞こえる方へと急いで走ると、ぼんやりとだけれど、白いブラウスに水色のロングスカートを着ているお母さまが見えてきた。

 今も空から落ちて来ている。


 スカートが強風に煽られて、逆さまになった傘のように大変な事になっているけれど、今はそれどころではない。

 僕は両手を前に出して、必死にお母さまの下へと急いだ。

 僕が潰れて死のうが構わない。


 (お母さまが助かればそれでいい!!)


 「キャッ~~~」

 「うわ~~」


 両手にずっしりとした柔らかい感触が一瞬だけしたけれど、力の無い僕に支える事なんか出来るわけが無い訳で。


 ドスン、ムギューーー

 バキッ!!


 僕はお母さまの柔らかい身体の下敷きになってしまった。

 そしてサングラスが、僕の下敷きになったみたい……


 「ア~君。ア~君!!大丈夫?!生きてる?!」


 お母さまが僕の上に乗ったまま、柔らかい手で僕の顔を挟んで心配そうにのぞき込んでいる。

 しかも僕でも綺麗な顔が見えるくらいに近いものだから、大きなオッパイが胸に当たっているよ……


 「うっ……うん。何とかね……でも、おも、くないよ……」


 (やっぱり、ちょっと重いけれど、お母さまと一緒で良かった……)


 こうして仲の良い母子おやこは、異世界ユグドラシルへとやって来た。


 ユグドラシルとは世界樹や宇宙樹うちゅうじゅと呼ばれる複数の世界を内包する世界である。

 そして今、二人が居るのはその内の一つ、ミズガルズと呼ばれる人間界だった。


 人間界といってもミズガルズには、亜人種や妖精、もちろん魔物だって沢山いるとっ~~~ても危険な大陸だ。

 それなのに、現実世界から来たばかりの二人は、まだ魔法どころか剣も使えない。


 ドスン


 ドスン


 ミシミシミシ~~~


 キィーキィー

 パタパタパタ~……


 私が呑気に解説しているそばから、地響きを立て、大木をなぎ倒し、コウモリの翼を生やした一体の大型魔獣が、無事を喜び合っている母子に迫るのだった。

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