Me as photographer
「私を、撮ってほしいの」
突然のことで、思わず茶化してしまう。
「え、じゃあカメラ貸して?」
「そうじゃなくて。
わたし、モデルやってるの。」
「え?」
聞いたところによるとあーちゃんはSNSの繋がりで私服ポートレートの撮影会を開いているコミュニティーにいて、被写体として撮影会に参加しているみたいだった。
「もともとは上村部長の繋がりだったんだけどね。」
「へぇー、そうなんだ。」
「これ、今まで撮ってもらった写真。」
「ええっ!これ全部あーちゃんなの?」
「そう。」
「・・・・なんか、全然違う!別人みたい!あ、もちろんいい意味で」
「でしょ〜。なんか、自分の可能性を感じるんだよね。こうもあれるかもしれない、みたいな。」
「いいなー。そういえばなんで私に?」
「今までカメラマン男性ばっかだったし、なんか新しい視点が欲しいなあって。」
「そんな、期待に応えられるかわかんないよ。フィルムカメラ始めたばっかだし。」
「ライカ持ってる人がそれ言う?私を撮って元を取った方がいいんじゃない?」
「それいわれるとぐうの音しか出ない〜」
撮影の機会はすぐにやってきた。あーちゃんからもらったこれまでの撮影会での写真を見て、自分なりにどう撮るかをイメージトレーニングした。
カチャッ
栄にある植物園に私たちは集合した。園内にもモデルとカメラマンらしき組み合わせをよく見かける。
「おまたせー」
なんか知らない美少女がそこにはいた。ストレートに下ろした長髪で白いワンピースを着ていた。
「すいません、どなたですか?」
「それ、褒めてる?」
この毒舌具合でわかった。親友であり今日の被写体である、あーちゃんだ。
「え、あーちゃん凄い可愛い。写真でも見たけど実物はその100倍ぐらいすごいね?」
「実物はいつも学校で会ってるでしょうが。」
からかうようにあーちゃんが言う。
「あはは、そうだった。じゃあ、始めましょう。」
「はい。」
M3を構えた。
私はそれからというもの、無心でシャッターを切った。木陰、滝、温室、薔薇の門、さまざまな場所で撮った。
「ちょっと右かな。そうそこ。行きまーす。」
カチャッ
「で、どうだった?正直に言っていいから。」
近場のカフェで現像した写真をあーちゃんに見てもらっている。
「うーん、普通にいい写真だと思うけど。」
「けど?」
「なんていうかなあ、あんまりこれまでの写真と変わらないっていうか。」
「うーん、なんでだろう?」
「いや、でも普通にいい写真だし、りこちは悪くないよ。今日は撮ってくれてありがとう。」
その日はそれで終わってしまった。
撮影のために買い貯めたフィルムが余っていたので、私は1人でスナップ撮影に出かけた。場所は前にあーちゃんと来た西尾城だった。
「何がダメだったんだろ。」
前は二人で来た場所を、特に意識はしていないがなぞるように撮影していく。
カシャッ、カシャッ、カシャッ。
ふと思い出す。
「ここであーちゃんが自分を撮ってきたんだっけ。急だったなあ。もう慣れたけど。」
「それだ!」
(友達同士の間柄だからできる、無意識でのポートレート。これがあーちゃんが求めていたものなんじゃないのか?あーちゃんのこれまで経験した撮影会は撮影会とはいえ、被写体の了承がなければ盗撮になりかねない。またみんな一眼レフカメラを使ってるからそもそも気付かれずに撮ることなどできない。撮れたとしても被写体を警戒させてしまう。その点友達同士なら盗撮にならないし、ライカ、そうシャッターの静かなライカなら自然な一瞬、リアルな一瞬を撮れるんじゃないか、そういうことだったんだな!)
私はすぐさまあーちゃんに撮影会のリベンジを申し込んだ。
当日、来たあーちゃんに私はこう言った。
「とりあえず、植物園一緒に見て回ろう?」
「で、今回のはどう?」
前回と同様、カフェで写真を見せる。
「いつ撮影すんのかなあと思ってたら、終わっててびっくりしたよ。」
「まあ、いつもの仕返しってことで。」
「なんか、カメラを意識してない自分って不思議な感じ。なんか凄い新鮮だね。」
あーちゃんが言った。
「それと、りこちこういうとこいつも見てるんだ、って言うのがわかったかな。」
「バレた?」
「友達じゃなかったら許してないかも。」
あーちゃんが茶化して言う。
「あはは。」
ふとあーちゃんが言葉を漏らす。
「なんか、わたしが取りうる姿ってこういうのもあるんだなあ、って感じたなあ」
その言葉がなんとなく心に残った。
フィルムが余ってしまった私は、解散後、1人で大須の街をスナップ撮影した。大須観音の鳩、出店。道ゆく人々。電気街。
カシャッ
ふとファインダーから目を離したときに思った。
(あれ、私普通に人にシャッター切れるようになった?
ポートレート、やってよかったのかもしれない。)
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