ルージュの黙示録

如月姫蝶

第1話

「皆さん、こんにちは。人間との共存について、引き続き悩ましい日々を過ごしておられることと存じますぅ。

 そんなあなたにお勧めなのが、消極的共存の第一歩、ハイ!こちら、拷問でえぇえぇ〜す♡

 拷問というのは、目的とする情報を引き出す前に、対象が死亡してしまっては、元も子もありませんわね。つまり、高いモチベーションをキープしながら、『人間を殺さない』ことを目指せるというわけですわぁ♡」

 講演会場となっている艦内が、大きくどよめいた。「その発想は無かったぞ!」などと、聴衆たる合成人間たちが色めき立つ。

「しかし、ドクター!」

 合成人間の一人が挙手して、質問を希望した。

「例えばアルドやフィーネに激痛を与えたいとは、私は思わない。どうすれば良いのだろうか?」

 数多の人間たちの中でも、それは、この艦内で特に人気の高い兄妹の名であった。

 ちなみに、「ドクター」と呼ばれた講師の名は、その二つのどちらにも該当しない。

 講師を務める人物は、赤いナースキャップに、やはり赤い模様を散らしたミニスカートの白衣、そして、人間の感性に照らせばやたらとセクシーな、黒のガーターストッキングを着用していた。

「あぁ〜ら、拷問イコール激痛の付与では、決してありませんのよぉ。

 こちら、古代や中世の王侯貴族相手に使用されたと伝わる、由緒ある拷問道具のレプリカですわぁ♡」

 講師は、100%天然素材の羽箒を、聴衆の人数分、配布した。ちなみに、全て講師自身のハンドメイドである。

「ハイ、皆さん!二人一組になって、その羽箒で相手をせっせとくすぐってくださいな。ちゃあ〜んと生体パーツを狙ってくださいよぉう♡」

 合成人間たちは、講師に言われるままに、早速実技へと雪崩れ込んだ。

「まあ……ジワジワと来るのは確かだが……ひゃんっ!そこはダメだ〜〜〜!ぎゃはははは……」

「そうか!ここだな!このジョイントが弱いのか〜〜っっ」

「一つ訊く。私の手作りサンドイッチから、動物性タンパク質の具材だけを盗み食いしたのは貴様だな!?」

「ウヒッ!ウヒャヒャン!違うぞ……ゲボッ!ヒンヒン!わかった、アヒャン!認めるから、もうやめれ〜〜」

 そこには、ある種異様なのかもしれないが、和気藹々とした空気が満ち溢れていた。

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