第15話 悩みはイラスト
「ええ。そうなんです。漫画なんて読まなくてもいいものだというのが両親の、特に父がそういうタイプの考え方の人なんです。でも私、小さいころから大好きだったし、漫画は無理だけどイラストを描くのは大好きで、ずっと続けてきたんです。今まではツイッターに上げるだけで満足していたんですけど、いいねを押してくれる人が増えるにつれて、自分って本当に絵が上手いのか不安になって。このまま続けていくべきかどうか悩んで、それで自分の実力を確かめたくなったんです。そして、自信が出るくらいの評価が得られたら両親を説得しようって思ったんですけど、いざとなると、ちょっと尻込みしちゃって。それに、もし大賞を取ると保護者の同意書を出さないといけないって解って、いよいよ困っちゃったなって思うと、体調が悪くなってしまって」
「ふうむ。何だかややこしそうですねえ」
法明には解らない世界であるようだ。さすがの仏様顔もちょっと困った顔へと変化していた。確かに門外漢には解り難い色々な問題を含んでいる。
桂花だってたまたま知り合いがいるから、そういう世界の一端を知っているだけで、一体イラストという分野がどうなっているかに詳しいわけではない。まして両親が反対するなんて、想像もできないことだった。綺麗な絵が描けて何が悪いのだろう。そう思ってしまう。
「難しいですよね」
しかし、世の中には本人にしか解らない理由で反対する人もいるし、桂花のように単純に考える人ばかりではない。ましてや漫画やイラストに理解のない人を相手に説得するとなると大変だろう。あの人はどうやって乗り越えたのか。いつの間にか問題が収束し、イラストは有名になったものの本人の問題が詳しく語られたことはない。
「ううん。解らないままにアドバイスするわけにもいかない問題でしょうね。どうにかその問題を解決する指針を示せるといいんですけど」
そこでちらっと唯花を見ると、とても不安そうな顔をしていた。ここまで打ち明けて何も解決しないというのは、本人の気持ちの負担をもっと増やしてしまいそうだ。そう思うと、桂花は躊躇っている場合じゃないと自分を奮い立たせた。
「薬師寺さん、今村さん。連絡が付くかどうか解らないですけど、イラストレーターをしている人を知っています。その人にアドバイスを求めてみましょうか」
さっと唯花の顔が明るくなるのが解った。法明も、その道のプロがいるのならばと、ほっとした顔で頷く。このまま悶々としていても、その最終選考の発表はやって来てしまうのだ。やれるだけのことをやってから結論を出すべきだろう。
「ああ、でもちょっと待ってね。十年前に聞き出したアドレスがまだ使えるかどうか確認してみる。それに、うん。たぶんその人もツイッターにイラストを上げていたから、何とかなるかも」
期待している唯花に言い訳するように口を動かしつつ、桂花は白衣に入れていたスマホを取り出し、ともかくその人へとメッセージを送ったのだった。
結果発表まで一週間を切ったある日、同級生やツイッターを駆使した結果、ようやく連絡の取れたイラストレーターの同級生が薬局へとやって来た。
しかし、髪をシルバーに染めていて、一瞬誰か解らなかった、でも、目元の大きなほくろは変わっていないから、桂花は来てくれたんだとほっとした。間違いなく同級生の
「やあ。緒方がいきなり連絡してくるなんてびっくりしたよ。しかも今や薬剤師になっていたなんてね。世の中、何がどうなるか解らないものだねえ」
しかも潤平は現れるなりそんな失礼なことを言ってくれる。桂花はむすっとしてしまったが、横にいた弓弦はくくっと笑っていた。本当にこいつは失礼だ。先輩でなかったら殴っているのに。しかし、今はいつものように突っかかっている場合ではない。
「忙しいのにわざわざ京都まで来てもらってごめんね。他にイラストレーターをしている人なんて知らなくて」
「いやいや。同じ境遇で困っている同志がいるというのならば助けるのは当然のことさ。それに丁度良く京都に来たかったしね。京都は色々なインスピレーションをくれるから大好きなんだ。それで、困っているっていう子はどこに」
「もうすぐ来るわ。学校が終わってからここに来ることになってるの」
「ああ、そうか。高校を卒業したのなんてもう十年前だからな。すっかり忘れていた」
そう言って潤平は薬局にあった壁掛け時計を見る。時間は三時ちょっとすぎ。まだ最後の授業が終わっていない時間だろう。
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