後輩ちゃんが愛らしい

梨。

第1話「先輩と後輩の日常」

うちの後輩ちゃんが可愛い…。

それは2日前の事だった。

後輩「先輩ー?どうしたんですか?そんなところで」

ひょこっと顔を出した後輩ちゃんが心配そうに此方を見つめる。

「あ、あ…えぇーっと(笑)片付けかなぁ〜…」

首の後ろを掻きながら誤魔化そうとする私に後輩ちゃんが「あぁ、なるほど…それなら自分がやっておきますから先輩は先に帰ってください」と、冷酷に言われてしまった。

黙っていれば可愛いのにとか思ったんだけどその言葉を喉に押し込む事にした。

呆然と立っている私に後輩ちゃんがまた話しかけてきた。

「何してるんですか」

と、今度は冷たい目で見られた。

うぅ…これには先輩も悲しいよ?…と心の中で呟いて後輩ちゃんの方を見る。

「ええっと、やっぱ手伝おうかなぁ〜って思って…その〜…」

もごもごしている私に後輩ちゃんが「はぁ…」と、深い溜息をついた。

しばらく唖然としていると後輩ちゃんが口を開いた。

「仕方ないですね…先輩が手伝いたいって言うなら幾らでも荷物を持たせてあげますよ」

と少々呆れながらも荷物を私の手に乗せた。

意外と…重い…。

「あの〜…これって結構重い方持たせました?」と何故か敬語で尋ねると後輩ちゃんが「え?何ですか?先輩が荷物を持ちたいって言うから重い方を持って貰いましたけどまだ足りないんですか?」

と嫌味ったらしく後輩ちゃんが少しにやっと笑った。

あれ?…これなんか先輩と後輩が逆になってないかな?

「いやいやいや、全然!ほら、めっちゃ足りてます!ありがとう!」と言ってすかさず私は別室に逃げ出した。

「そうですか…それなら良いんですけど…まだ沢山荷物があるので足りないのでしたら是非、もっと持って貰っても大丈夫ですよ?」

と、遠くから悪気がない様子で後輩ちゃんがスラッと鬼畜な事を言うのが聞こえた。

天然なのか…わざとなのか…。

そして最後まで一緒に荷物の片付けをしたのが1日目の出来事だった。

〜後輩ちゃんは先輩をいじめたい〜

2日目のことだ。

部活終わりに後輩ちゃんを誘ったのは初めてだった。

「教室で待ってるから…来てね?」と、後輩ちゃんの手に紙を渡してササッと教室に戻って行った私の後ろから「はい?」と言う全く持って理解していない後輩ちゃんの声が聞こえた。

紙には教室の組が書いてあり、分かりやすく道案内を書いておいた。

そうして先回りした私は教室までの階段を一気に駆け上がると誰も居ない教室へと足を向けた。

まだ日は沈んでいない…。

そう思うと、口から安堵の声が漏れた。

そして、窓の外を眺めながら後輩ちゃんを待っていると訳が分からないまま階段を上がってくる後輩ちゃんの足音が聞こえてくる。

「あのー、先輩ー?」

と、やっと声をかけられて私は思わず犬のように尻尾を振った。

「あ、藍莉ちゃん!来てくれたんだね!…中に入ってよ」

私は急かすように藍莉ちゃんに話しかけると手招きをしてみせた。

すると藍莉ちゃんが「失礼しまーす…」と小さな声で礼儀正しく挨拶した。

そして、私は藍莉ちゃんを教室の奥へと連れていきまた声をかけた。

「ほら、日が沈んでいくよ」

そういうと自然と笑みが零れる。

それを見た藍莉ちゃんは私の顔を数秒間見つめた後、すぐに窓の外に視線を落とした。

「ほんとですね…」

そう小さく感激した藍莉ちゃんの声が意外と近かい。

少し距離を置いて私はまた話しかけるように話し出した。

「あのね?藍莉ちゃん…私…藍莉ちゃんの事が好きになりそうなの」

そこまで言うと窓の外を見ていた藍莉ちゃんがふと此方を向いたような気がして私は目をグッと瞑った。今は目を合わせるのが怖い。

だから、ただそっと藍莉ちゃんの返答を待つしかなかった。

すると、また近くから藍莉ちゃんの声がした。

「知ってますよ…先輩の事なら…」

意外な返答に私は藍莉ちゃんの方を向く。

そして藍莉ちゃんはもう一度、「知ってますよ」と言った。

目を伏せたままの藍莉ちゃんの表情が読み取れない。

何を思っているんだろう…。

「バレてたか〜…」と苦笑した私に後輩ちゃんが釘を刺すように尋ねた。

「私が先輩の事を嫌いになったら泣きますか?」と。まさにそのとおりの事を言おうとしていたのだけれども…。

「そうだねぇ…藍莉ちゃんは私を泣かせたいの?」と逆に質問してみた。

するとまた、意外な返答が帰ってくる。

「はい」

濁りもないその返事に私はどう反応していいのか迷っていた。

しかし、その間に後輩ちゃんが「でも」と付け足し「嫌いになんかならないですよ…だって私も…先輩の事、見てましたから」と言って後輩ちゃんは私の目を見てにこっと笑った。

初めはこの子の笑った顔が見たかったのに、今はただ直視出来ないくらいにその笑顔が違う意味で感じた。

「だから、お互い様ですよ…」と言って何事も無かったかのように話を終わらすと後輩ちゃんは此方に向き直った。

まだ脳内に藍莉ちゃんの笑顔が残っていた私は湯気が出そうで顔を覆う。

その様子を見て、前まで近づきたいと思っていた後輩ちゃんが悪魔のようにクスッと笑って私の様子を馬鹿にしている。

「もう!笑わないでよ…。」

少しプクッと怒った私を見て後輩ちゃんはイタズラ好きな悪魔の様に笑っていた。さっきのセリフを思い出して私は「冗談も程々にしないと…」と口ごもりながら説教すると藍莉ちゃんが「冗談…なんかじゃないですよ」と真面目な声で言い放った。

そして、藍莉ちゃんは私がわざと距離を置いていた所に1歩近づいてきた。

すかさず私も1歩下がる。

するとむきになった藍莉ちゃんがまた1歩、2歩と近づいてきた。

反射して私も1歩、2歩と下がる。

そうしている内に藍莉ちゃんが「なんで逃げるんですか」と怒っている口調で尋ねてきた。私も「だって…藍莉ちゃんが近づいてくるから…。」と言い訳じみた言い方で反論する。それからだんだんと追い詰められて私は遂に机に当たって手を着いてしまった。

後輩ちゃんが私の手を取る。

黙って目を瞑っていると藍莉ちゃんが「本当かどうか…試してみます?」と尋ねてきたのでこれ以上耐えられなかった私は「やみぇてくだひゃい」と、弱々しい声を放っていた。本当は「やめてください」とはっきり言った筈なのに口からはそんな弱々しい声しか出なかった。

それから、私と藍莉ちゃんはそれ以上口を開かなくなった。それが2日目の出来事だった。

〜先輩は後輩ちゃんに構って欲しい〜

それから3日目の今日だ。

最近藍莉ちゃんが気まづそうに私に距離を置くので私も距離を置いていたのだがさすがに藍莉ちゃんに構って欲しくなってちょっと藍莉ちゃんを妬かせて見たくなった。

「ねぇねぇ…風花ちゃん…今日一緒に帰ろう?」いつもの親友にそう呼びかけると案外二言返事でOKが返ってきた。

「うん」「いつもの所ね」

「りょーかいっ!」

そう元気良く答えて教室を出ようとした時、藍莉ちゃんの声が聞こえた。

「先輩ー?」

ちょっと不機嫌そうな藍莉ちゃんの声が聞こえて、頭上から頬を引き攣らせた藍莉ちゃんを見つけた。

「ひゃい!」と返事をすると背中から悪寒を感じる。

「今日は、部活が遅くなるので美優先輩はいつもの所には来ませんよ?」と、いつもの愛想笑いで親友に尋ねると、親友は「それはどうかしら…?ね?美優?」と藍莉ちゃんの気持ちを煽るように返答した。

流石…私の親友でもある。

口をすかさず塞がれた私は返答出来ずもごもごと喋る。

「待ってても良いですが、美優先輩は来ないと思うので先に帰った方が良いと忠告しに来ただけです」と言って藍莉ちゃんはぷいっと後ろを向いた。

「あら?意外と律儀なのね(笑)」と小馬鹿にした親友を置いて「では!失礼します」と苛立った様子で私を引っ張りながら藍莉ちゃんは去っていった。

やっと私の口から手を離すと、開放された口が開いた。

同時に声が重なる。

「どうして先輩は無関心なんですか!」

と苛立っているようだ。

「別に…藍莉ちゃんが気にするようなことではないよ?」

と更に藍莉ちゃんの気持ちを煽るように返答した。

「もう、先輩の自由にしたらいいんじゃないですか」と怒った後輩ちゃんに「ごめん…あれは私から誘ったの」と白状した。

ーそろそろ言わないと本当に藍莉ちゃんは話を聞いてくれなさそうだったからー

「はい?」と反応に困った時の返答をして私の顔を見る。

なんでそんなことをしたんですかと言いたい顔だ。

そんな藍莉ちゃんも可愛いかった。

だから藍莉ちゃんの頭を撫でて「藍莉ちゃんが妬けるところが見たかったから?」と答えた。

すると藍莉ちゃんは私の意図を見抜いていた様に「先輩は嘘つきなんですね」と拗ねた様子で問いかけた。

「本当は私のことを気遣ってくれたんですよね」と図星を指摘され何も言えなくなっている私に後輩ちゃんはただ一言。

「ありがとうございます」

とはにかんで笑っただけだった。

そんなずるい後輩ちゃんでも私は藍莉ちゃんが1番可愛いと思ってしまうのだった。


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