#6.スパンキング発覚

【サラファン】


「サラファンについたぞーーー!!」


活気に溢れる町の入口でヤギさんが叫ぶ。


「とりあえずギルドに行こう、皮を換金してもらわなきゃ」


「まてまて~そう急ぐなよ」


ジャラジャラとお金を揺らすヤギさん。


「おいご飯だコノヤロウ!!いくぞぅ!!」


もはや彼女を止めることは出来ない。その、野生の鼻が美味しそうな匂いを嗅ぎ分け、吟味する暇もなく近くの料理屋に入った。


「おっちゃん!!アレくれ!アレ」


「嬢ちゃん、アレじゃわかんねぇな」


「なんだっけ?サゴリン」


「マヤバラ」


「そう!マヤバラ!!」


「おう、そこの坊ちゃんは?」


「僕はっ」


「このワイルドステーキひとつな!!」


メニューをじっくり見た上で衝動的に、僕の分の料理を勝手に決められてしまった。


「おう、適当な席に座ってな。すぐ作るぜ」


「よっし!いくぞ、サゴリン」


「うん」


カウンターではないテーブルに腰を下ろした。


「勝手に決めちゃってごめんよ、でもな!分け合うのって大事だと思うんだ」


「え?」


「そのワイルドステーキ?とマヤバラは一緒に食べようよ、ね。お得でしょ?」


「そうだね」


ご飯のことになると子供みたいになってる。


「はい、お待ち~ワイルドステーキとマヤバラな」


「はっや」


「うちは魔法で直下焼きだからな!」


「サンキュムッシュ!いただきます!」


「いただきます」


ワイルドステーキたるものはたしかにワイルドにマヤバの肉が調味料をつけて直焼きされているだけだ。

だが、マヤバラは


「まるで塔だなぁ……大きすぎる」


重ねられた肉が、向いに座るヤギさんの顔を完全に隠していた。


「ごめんな、サゴリン。こりゃステーキ食う余裕なんてないよ」


「そりゃそうだ」


ヤギさん対マヤバラの大格闘大会が始まった。


そして30分後。


「ふぅ~ああ!もう飯は見たくない!!」


無事、ヤギさんの勝利で幕を閉じた。


「酒飲みたいよ~勝利の酒~」


「ダメだよ」


「ちぇ」


ヤギさんは勝利の余韻に浸っている。

そんな時、僕らの後ろの席座る若い男性二人の世間話が聞こえてきた。


「おい聞いたか」


「なになに」


「イアストラ王国が一夜にして滅んだらしいぞ」


「は?城じゃなくて?」


「違ぇんだよ、26区やられた。奇跡的に1区だけ残ってるらしいがな」


「はぁ?!そんなこと出来るやつが一体どこに」


「俺もわかんねぇ、イアストラは別にどこかの国と戦争をしていた訳でもないし、世界の重要都市として潰される理由もねえんだよ」


「まぁ、王不在が1番でかいんじゃないの?女王だったろ?あそこ、取り入る隙くらいいくらでもあったんじゃね?」


「たしかに、見るからに抜けてそうな女王だったもんな。頭の中、お花畑みたいな感じはヒシヒシと伝わってきてたよ」


「おれでも王位取れたんじゃね?w」


まずい。


「大丈夫、ヤギさん。ここはこらえっ」


「だーれが腰抜けの女王だって?!」


「ん?だれだ嬢ちゃん」


「腰抜けとはいってねぇよ、抜けてそうって言ったんだ」


「アタシはイアストラ最強の女……名をヤギ。覚えときな」


「は?」


「お仕置スパンキングの刑じゃ!!尻ださんかい!!」


「ちょっやめろ!」


ヤギさんはありあまる腕力で抜けた女王と発言した男をねじ伏せ、机に押し付けた。

そして、ズボンを脱がしケツを丸裸にして叩き始めた。


「おま、やめろっ、おい!」


もう一人の男は必死に止めようとするが、彼女の体幹は微動だにしない。


「いたい!いたい!ギブギブギブ!!」


店内にパァァン!!という音が響き渡る。


「30回の5セットな!!」


「やめろぉ!!あ゛あ」


ただ、傍観してるだけだが凄い光景だ。

止めようにももはや何が何かわからない。


「あと5回!」


「いやあああ!!!」


「なにしてんだおまえら!!」


騒ぎを聞き付けた店主が飛んできた。


ヤギさんは何事も無かったかのように、男一人を解放し泣き真似を始めた。


「うえーーーーん!うぐっ、ひっく」


「どうしたんだ?!嬢ちゃん」


「このおじさん達が……虐めてくるっひぐっ」


「は?!親父さん違うんだ!見てくれこいつのシリ!!真っ赤だろ!!」


「お前らいい歳しておしりペンペンごっこか?みっともない」


「ちげぇよ!そこの女にやられたんだよ!」


「??」


店主は困惑している。


「うっうっ…ひどいよぉ」


「お前ら……こんな小さい子がお前ら相手にケツ叩いたってか?ふざけんのも大概にしとけ!ほら、さっさと金払って出てけ!」


そうして男ふたりは店からつまみ出された。


「大丈夫だったか、坊ちゃんと嬢ちゃん」


「ひぐっひぐっ」


「ほぉら、泣くな。坊ちゃんはよく泣かなかったな。偉いぞ~」


「あ、いえ」


「ほら、今日は特別に食ったぶんはサービスしてやる。落ち着いたら勝手に店から出な」


「ふぇぇ、おっちゃん、ありがとぉ。ぐすん」


「いいってことよ。んじゃあな」


行ってしまった。


「ヤギさん、やりすぎだよ…」


「ん、アタシは本当にムカついてたけどね」


「衝動的だね」


「子供なんだからいいじゃん、そんなことより早くギルド行くぞ」


「うん」


【サラファン_冒険者ギルド サラファン支部】


うわぁ、この活気に満ちた木造の建物に数多くの冒険者たち。ギルド感バチバチだな。


「みろ、サゴリン」


彼女の指さす方向にはバーカウンター。


「酒が飲める酒が飲める酒が飲めるぞ~」


「飲んじゃダメだよ」


「いや知ってるけどっ!でもさ、1杯……いや1滴くらいは!」


「ダメだよ」


「生き殺しだァ~」


正直、ヤギさんの好きにさせてあげたいけど……発育に悪いし。


「サケガノメルサケガノメルサケガノメルゾ~サケガノメルサケガノメルサケガノメルゾ~」


呪文のように呟かれても……そんなに飲みたいんだね。

とりあえず今はレナイターの皮を売らなきゃ


「あの、すみません」


「はい!コチラ冒険者ギルドサラファン支部になります!」


エルフのお姉さんだ。


「どうしました?迷子ですか?今空いてる冒険者は…」


「いや、違います。あの物売りたくて」


「はい?!コチラおもちゃなどの商品は扱っていませんよ!」


「いや、レナイターの皮です」


「え?!レナイター?!お父さんかお母さんがいるのでしょうか?なら、そちらをお呼びしていただいて」


「いや、いないです」


「どういった経緯で入手されたものなのですか…?」


「僕らで狩りました」


「えぇ?!」


エルフのお姉さんはじっくりとレナイターの皮を観察する。


「皮剥にしても1級品のものじゃないですか?サイズも申し分ない…」


「いくらくらいですかね?」


「ざっと見積もって……12000ラナくらいですか…ね」


ラナは冒険者ギルドが発行している異世界の共通通貨だ。価値的に日本円と同等と考えていい。1円=1ラナ


「ちょっと上のものに掛け合ってみます!」


あっ、エルフのお姉さんがどこかに行ってしまった。


待たされること10分……。


「お待たせしました、コチラ25000ラナですね~」


倍以上に跳ね上がってる…。


「いやぁ、私の目利きも当たりませんねぇ。上のおじいちゃん方にいくらか相談したら職人級プラスすごく上等な皮だぁ!って絶賛してましたよ」


「そうですか」


「んで……あの、聞くのが遅かったのですが、あなたがたは何歳ですか?」


「あっ、二人とも9歳です」


「…え?」


「え」


「なら、もちろん冒険者ギルドの加入もまだですよね~。年齢制限的に」


「え?年齢制限とかあるんですか?」


「実は……15歳からなんですよね~」


「あ」


「これ…売れないですよ?」


「ほんとですか?」


まずい、冒険者ギルドは旅に不可欠な存在なのに……


「……」


「どうしたのかな」


ご老人の声。


「マスター?!」


「ここはワシに任せなさい。うぬはさがりたまえ」


「わ、わかりました!」


エルフのお姉さんはほかの担当に回ってしまった。


「うぬか、あんな上物のレナイターの皮を持ってきてくれたのは」


「はい」


「ワシはこのサラファン支部のギルドマスター ロ・ハンスよろしく」


「どうもです」


「んでなんだ。登録が出来なくて困っているのかね?」


「はい、年齢がダメみたいで」


「何歳だ?」


「9です」


「そら、いかんやろ」


「……ですよね~」


「だがな、ここまでの上玉を引き取れないのはワシとしても虚しい虚しい。だから、ここはお互いズルをしようじゃないか」


「ズル?」


「いいか、お前さんは15さいだ。そしてそこの酒呑み歌を歌ってるお嬢ちゃんも15歳だ」


「15歳って酒呑める?」


「うぬで決めろ」


「え?呑んでいいの?」


「ヤギさん」


「静かにしてます…」


「それでどうだろうか?若いの」


「ぜひ、入れるのであれば!」


「よしならば、うぬら若い希望の星にはここ、サラファンギルドマスターお墨付きの特別なギルドカードをやろう。登録をするぞ。チクッとするから耐えてな」


ハンスさんは裁縫に使う針のようなものと、図書券ほどの大きさをしたカードを二枚とりだした。


「ほら、手を出せ」


「いてっ」

「……っ」


僕とヤギさんは指先を針で刺され、垂れた血液をカードの上にポタっと落とした。


するとびっくり、カードには僕の名前と顔が浮かび上がっ


「スレイ・シャンクトワールとビア・シャンクトワール……これ、うぬらの名前か?」


言い逃れができないレベルで名前がバレてしまった。


「シャンクトワール家……イアストラの王族か、ついてきなさい。ここで話すのは良くないだろう」


「ちょ、サゴリン。どうする?」


「騒ぎはよくない。大人しく従おう」


「うぉっけー」


流石に予想してなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る