自殺転生 ~ばったり出会った女の人と心中したら一緒に異世界の王族に転生した!と思ったら城を爆破されました。~
@Saki_Kaoru
序章~心中転生~
#1.出会いと別れと転生
いつからか、僕は生きることに向かない体になってしまった。
四肢は欠けることなく全て揃っている。思考も正常、全くもっての健康体だが、僕には家族が欠けていた。
当然、元はそこに居たのだから何に変えても埋め合わせることは出来ない。
気づいた時には、もう両親は居なかった。
ただ、僕の傍にはずっと手間のかかる妹がいた。
よく泣いて、よく笑って、よく転ぶ、よく喋る。そして、よく甘える。
可愛い妹だった。とても、そう何よりも……僕は妹以外に守るものもないし、彼女の幸せより願うものがなかった。
だけど、妹は死んだ。
最期に笑顔を残し、死んだ。
彼女は病気でも何でもなかった、突然訪れたそいつは意図も容易く人のあたたかみを奪っていったのだ。
「そんなつもりはなかった」「うとうとしていた」「人がいるとは思わなかった」「よく見えなかった」と、繰り返すそいつは無機質な轍の元に彼女を置き去りにしていった。
許すも許さないもなく、怒る怒らないも悲しむ悲しまないもなかった。
ただ、呆然と立ち尽くし少しずつ心が爛れていくのがわかった。
_それは八月のこと
今日は僕が死ぬ日。
簡単な事だ。町外れの廃ビルから飛び降りる、ただそれだけ。
重い扉を開け、錆びれた鉄格子に手をかける。
屋上に吹く、夜明けの風は#宇宙__そら__#への階段となって僕を誘う。
今、行くから
「待とう、ちょっと待とう。よそう、自殺なんて」
手にビニールの袋を提げた女の人から見られてしまった。
「見られてましたか……?」
先客か、それとも輩なのか。肩にかかる髪が内巻きの青のインナカラーに染められ、耳に複数のピアスを付けている。身長は低く、失礼にも大人とは思えない。
「人生楽しいことあるよ」
「例えば?」
「は?聞くなし」
「では…」
「あぁあぁ、ごめんって!話なら聞くから」
「いえ、お構いなく」
「めんどくさい男だなぁ!」
彼女は両手で僕の襟首を掴み、強引に引き上げた。
「ほら、座って」
「イテテ……なにするんですか」
「いいから、話して、なんで自殺しようとしてたの?」
「自分語りは苦手ですので」
「かたいなぁ、アンちゃん。今どき、それが出来なくて自殺する子もいるのに」
「はぁ…」
「あんた、名前は?」
「名前なんて聞いて、どうするんですか」
「いいから聞いてんの」
ネイルの入った小さな手で僕の耳を強く抓る。
「…っ、
「へぇ、サゴリンね。ふむふむ、あんた何歳なの?」
「16」
「はぁ?!高一?あんた高一で自殺なんて、そんな崇高な!」
「いや、中三です。あの、あなたは」
「わたし?わたしはぁ~……ヤギ」
「ヤギ?」
「ヤギさんて呼びな、ほら」
「ヤギさん」
「めぇ~の方じゃないからね」
「は、はい。それでお歳は?」
「歳なんか聞いてどうすんだ」
「年齢的に危なくないかなって」
「これから死のうとしてたやつから言われてもわけわかんないわ。まぁ、一応21ってところ?まだまだ若いから」
「へ、へぇ…」
しばらくの間、沈黙が流れる。まぁ、当たり前だ。
「あんた、これからどうする気?」
「さぁ……?」
「さぁ、って何よ。ったく、ほら」
ヤギさんは手に持っていたビニール袋からチューハイの缶を取り出し、僕に手渡した。
「僕、未成年…」
「あんたが法律なんて今更っしょ」
「……」
「悪いことして生きていこうぜ、案外楽しいんだこれが」
僕の横でタバコを吸い始めた。少し煙たい……咳き込んでしまうのは許して欲しい。
「ん?あんたタバコのけむり苦手?すまんね、配慮できない女なもんで」
そして携帯用の灰皿にそっとタバコを落とした。
「疲れた日はここに来るの。酒と肴とタバコを持ってね。いいもんよ、誰もいない廃ビルに不法侵入して晩酌をするのは」
ニッと笑い、ビール缶を開ける。
「飲めって、私の酒が飲めねえってのか」
僕は言われるがまま、チューハイのプルタブを引いた。
ほのかなレモンの匂いが鼻を刺激する。
「クビッ」
「おっ、一気にいったね。素質あるんじゃね?アル中の」
「…はぁはぁ」
「どう?」
「……美味しいです」
「そりゃ、ジュースに毛の生えたような飲みもんだからね。ビールになるとあんたにはまだ早い」
彼女は大笑いしながら、吹き出した泡を舌で綺麗に舐め取り、ゆっくりと飲んだ。
「あんた、このまま放置してたら、また死ぬ気?」
「…わかんないです」
「死ぬんだろうね、場所変えて」
「……」
「そういう生き方?いや、死に方ってのか……まぁ、いいんじゃね?さっきは止めたけどさ……まぁ、この廃ビルの居心地が悪くなるからだけど」
「…肯定してくれるんですか?」
「うんうん、あたしゃあんたに賛同さ。けどね、まだあんたの目の光が残ってるうちは見過ごせないよ」
「……?」
「これまで誰かに救われたこととかある?」
「……だれか?」
「ないんだろ?ほら、お姉さんはなんでもわかる」
見透かされてる気分だ。
「話しなよ、アルコール回ってると思うし、楽じゃね?」
「…僕に父と母はいません」
「いきなりだな」
「でも、妹がいました。僕には似ず、とても活発で無邪気で……そんな妹が大好きでした」
「ふんふん」
「でも、妹はトラックに引かれて亡くなりました。これでもう、僕はほんとの一人ぼっちになっちゃったんです」
「親戚とかは?」
「邪険にされてました、僕も妹も……叔父夫婦とその子供の家に引き取られていたのですが…毎日、僕たちに対する暴力が続き、ご飯は余ったものを寄越されてました。鍋なら残りカスとか汁とか……でも、それでも……妹となら生きていけたんです。アイツの笑顔だけが…僕に生きる理由を……くれた」
「……」
「それが先月…妹が…妹が」
なんでだ、涙が。枯れてたと思ってたのに
なんでこんなに止まらないんだ。
「誰にも言えなかったんだね。味方がいなくて」
「先生にも……児相にも……生きるためには言えなくて…、叔父夫婦の家からは逃げられなくて……」
「よく頑張ったなぁ、あんた。ほんとに中三?」
「……」
「ほら、泣くな」
抱きしめられた。ほのかな暖かみ…僕が求めていた感触。
今までの我慢を鬱積を晴らすようなオブラート。
出会って初日の知らない人から、弱みを握られ、自殺を止められ、抱きしめられた。
「じゃあ、あんたはまだ叔父夫婦の家の人間なのね?」
「…はい」
「どうせ、そいつらのことなんだから高校にも行かせず、あんたを中卒で働かせるつもりなんでしょ?」
「……予定では」
「今から行くぞ、あたしん家」
「え?」
「どうせあんた、いま不登校でしょ?」
「なぜそれを」
「何となくわかるんだ、雰囲気で…んで、あんたがいなくなってもじじいとばばあとそのガキは探さないわけだ」
「それはわからないです」
「なんで?愛されてないんだろ?」
「世間体を気にする人たちだから」
「んな、しょーもねぇこと気にしてんのな。あっ、あたしもか……」
彼女はカバンから携帯を取り出し、画面を確認した。
「ただいまの時刻は6時54分……」
「あの、家なんて……」
「ガキは遠慮すんなって、ほら行くぞ」
どうせ、今帰っても……叔父たちは僕を殴るだけだ。帰りが遅いと言って。
「す、すいません」
「だから遠慮すんなって。あぁそう、今からあたしとあんたは兄弟だ。もし、行く途中誰かと会っても通報されるようなマネはすんなよ」
コクっとうなずく。
「いい?ここはあたしらだけの場所、他の奴に教えたりしたら殺すからな」
「わかりました…」
大胆不敵ににっと笑うと、そのままドアを慣れた動作で蹴りあけ、ズケズケと下に降りていった。
僕もその後を追った。
これは、道中での出来事である。
「家は近いんですか?」
「普通くらい、けど仕事場と近いからフラって寄ってんの」
「なんのお仕事を?」
「夜のお仕事」
「それはその、わかるんですが……どういうのか」
「ちゃんと教えてやるよ」
「ありがとうございます…」
「なに?変なこと考えてんの?(笑)」
「いえ、そんなことは…」
「あっそ~」
こんな何気ない会話に、第三者の影が忍び寄っていた。
「凛…?」
登校中だったのだろう。クラスメイト、
「網代…今日は早いね」
「朝練だから」
「そっか」
「それで、なに?サゴリンお友達?」
「いや、クラスメイトです」
「凛、その人は?」
「あっ、姉です」
「いつも凛都がお世話になっております~」
「いえ、私は……それより、なんで最近学校来ないの?」
「いや、その」
「聞いたよ、妹さんの話……たしかに不幸だったね。けど、来なきゃ…」
「うん…」
「なに、凛都?行くの?」
「その…行かなきゃいけなのは…確か…」
「なら、早くっ」
網代の言葉を遮ってヤギさんは僕の手を強引に掴み、引き寄せた。
「おほほほほほほ、ごめんなさいねぇ~同級生ちゃん。凛都は今日…あたくしと予定を組んでいたの~」
「姉であるあなたが凛の正しい道を阻むんですか?!」
「なにいってるの~これが凛の道なのよ~」
先からヤギさんのキャラはなんなんだ。
「家庭環境が劣悪って……聞いたの。そんなところにいたらダメ!凛、学校に逃げよ?」
「……僕は」
「どうしたい」
僕の耳にボソッと小声で…
「あたしはこの子にあんたを預けることもできる。あんたは無理してうちに来る必要は無い」
「……」
「耳打ちなんてやめてください!それ以上、凛を…」
「ごめん網代……僕は…みんなといるのにも疲れたんだ」
「凛!!」
「そういうことですの~いくわよ~凛都~」
「ま、待って!」
「あ~アミシロちゃん?」
「…なっ、なによ」
「凛都への熱は伝わったわ、あとは冷まさない事ね。おほほほほほほほほ」
「…は?」
「じゃあ、ごきげんよ~」
そしてされるがまま、ずっと手を繋いだまま……小綺麗なマンションについた。
「防犯カメラに映ったら犯罪になるかしら」
「たぶん」
「なら、裏口から行くかぁ」
エントランスを通らず、裏口から鍵を使って中に入る。
ヤギさんの家のはずだが妙な背徳感を感じるのは、この手口のせいだろう。
「階段きっちー」
「そ、そうですね」
「あんたはろくに運動してないからだろ」
「まぁ…」
「あたしも人の事言えないか!」
彼女は声高らかに笑いあげる。
「はい、つきました。かぎかぎ」
マンション、二階の端っこ。そこがヤギさんの住まい。
「あったあった」
強引に鍵穴に押し込み、ガチャガチャと鍵を開けた。
「あいたっ、ほら入んな!」
背中を押され、されるがままに室内へ。
「リビングで待ってて、ちょっくらシャワー浴びてくるわ」
「はい」
案内されたリビングは、妙に綺麗に整頓されていた。
彼女の初対面からわかるガサツな性格とは裏腹に驚きの光景だった。
リビングには廊下に直通する扉とあと一つ、重くずっしりとした鍵付きの扉があった。
僕はどうしても、その扉が気になっていた。
人が来ることは想定していなかったのか、鍵は空いている。
本来なら、鍵が閉ざされていたのなら、ここまで僕の興味をくすぐることは無かったのだろう。
フローリングに正座していた僕の足は、扉の磁気に惹きつけられるように…ゆっくりと進んでいった。
そして、ゆっくりと扉を開ける。
ビッー!ビッー!ビッー!ビッー!
けたたましくブザーが鳴り響く。
どうやら、人を感知すると作動するシステムのようだ。
意外にも、彼女の到着は遅かった。諦めていたのか、それとも逃げないと思っていたのか……一分くらいたった時に、ホカホカと湯気を立て浴室から肌着のまま出てきたのだ。
「見た?」
背筋も凍るほどの冷たさを感じた。
「中を見たの?」
ゆっくりと頷いた。
「そっか」
彼女はゆっくりと脱力し、ソファに腰をおろす。
「サゴリンはなんで逃げなかったの?」
「ちょうどいいかなって」
「はは、そっか…」
寂しげに消える語尾。
「その部屋に入りな、後で行く」
「はい」
そう、そのまま、何も臆することはなく…ブザーのなった部屋に入る。
中の空気は冷たい。とても冷ややか。
五分くらい経った時、ヤギさんは部屋に入ってきた。
「最期に話そっか」
「はい」
「サゴリンはほかとなんか違うと思ってたけど、やっぱ男の子だなぁ」
「なんでですか?」
「気になったら見ちゃうんだもんな!あたしもそうだけどさ」
「鍵が空いてたのが余計、気になったって言うか」
「アンタを連れてくんのをいちいち想定してるわけないでしょ?しかもアンタ見て最初に思ったのは抜け殻みたい、だもん」
「なるほど」
「部屋のこととか興味無いかな~って」
「ひときわ異彩でしたから」
「だよな~」
「はい」
「ねぇさ」
「はい」
「これがあたしの仕事っていったら?」
「漫画みたいだなって」
「そっか、かっこいいだろ?!」
「う~ん、わかんないっす」
「……ねぇさ」
「はい」
「あたしも一緒に連れてってっていったら嫌?」
「いえ、別に」
「最初はあんな偉そうなこと言ってたけどさ……許してね」
「はい」
彼女はニコッと笑うと、立ち上がり、部屋を出ていった。
そして、七輪を五台抱えて持ってきた。
「いくか~!!サウナだ、サウナ!」
「あはは」
「おっ!初めて笑ったな~てめぇ!」
「なんででしょう、おかしくって」
「ん、なんでぇ?」
「いえ、何も」
「変なやつだな」
「ヤギさんもですよ」
「まぁね」
部屋が徐々に温もり始めた。
「ほら、ちこうよれ」
僕の襟首を掴んで密集する。
「あたし達がやってる事って、とんだ迷惑行為よね」
「まぁ、たしかに」
「ここは事故物件になるわけだし…」
「はは」
「でもまぁ、ここの管理者もたいがいズブズブだからねぇ~。何も無いって処理されるのかなぁ」
「…そうなんですか」
「おっ、眠くなってきた?」
「なんか気持ち悪くて…」
「そっかぁ、もう静かにいてようか」
「はい……」
あつくて、くるしくて、つらくて、ぼーっとして、でもここちよくて……
生まれ変わりって言葉があるのなら、僕もヤギさんも、妹も……きっとまたどこかで、巡り会うのだろう。
__またいつか。
「産まれましたよ!!男の子と女の子の双子ですよ!女王様!」
「あらぁ~!お姫様は元気なのに、王子様は泣かないわねぇ~、よちよち」
「どうにも静かな子が産まれてくれたのね…」
「あら!やっと泣きましたねぇ!女王様、この子達のお名前は?」
「静かで元気な子達だものね、そう…名前はスレイとビア…男の子はスレイ、女の子はビアよ」
「あら、いい名前ですこと…スレイ様がいつかイアストラを統べる王様になるのですね!」
「長らく男の子に恵まれなかったのだもの、今はその通りね」
「ビア様にもより賢くなってもらわねばね!至急、双子のお誕生を王国中に知らせるのよ!」
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