第十話 爆
つよつよモードの爆が迫る。ドチャクソ速い。目で追うってより、ご先祖スキルで先読みしながら、四ちゃんの指示に従ってる。それしか出来ない。なんだろう。大好きなオヤツを目にした猫が、こっち来たなって思ったらもうオヤツが箱ごと無くなってるみたいな・・・・・・パンチの一発目が来ると思ったらもう十発目が来てる。そんなスピードだ。
このスピードに対応出来るような武器を出したいけど、四次元ポケットは使えない。ポーズの影響だと思う。この状況って、四ちゃんが遊んでいるゲームとしてあたしちゃんの世界が繋がっているから発生している。そのゲーム上のなんかプログラム上のルールみたいなものが邪魔をしているんだ。多分そんな感じ。開きはするけど中から武器は取り出せない。あたしちゃんの武器は何か別のルールで動いてる。だから荒国さんも動かせない。落ちている武器に触れればいいけど、その余裕は無い。両腕両脚を駆使して、飛んで来る爆の爪の猛攻に応戦するだけで精一杯だ。
それに、爆からむわむわ出ている怪しい赤と緑の煙が気になる。
「僕たちも加わります!」
あたしちゃんの身体に転生したビーストテイマー・ユーリが手を前に出して、印を結ぶ。なんかごちゃごちゃと手を動かすと、人間や魔物、悪魔、神ですらその動きを制御出来る。これが、彼が転生した時に手にしたチート能力!
「くすぐった! 待て! ちょ! やめっ!」
「すみません! 貴方の魂が複雑で掴みにくいんです!」
爆は笑いながらも攻撃の手を緩めない。これじゃ絶で吹き飛ばして距離を取る事も出来ない。動きが速すぎる。
無刀式維に隙は無い。維は基本的に連撃の途中で反撃できないように技を組み合わせて行く。反撃されてもいなさなくてもカウンターが打てるようになっている。すぐにいなせるような動きも加えているけどね。その動きに爆はついてくる。全てがクリーンヒットである無刀式維なのに、手応えが薄い。五百年生きてる妖怪と、祖先の力を借りてるだけのあたしちゃんの差がコレなんだ。
待てよ。くすぐられながらでもコレだ。何か不思議な能力を使っているとしか思えない。
「あっ! やっ! やめろ! なんかくすぐってくるポイントがだんだんエロい位置になってるじゃぁないか!」
爆が叫ぶと、その背中から狐面をつけたハムスターが九匹飛び出した。ハムスターはそれぞれ赤い煙を出していて、爆の姿がまるで、九尾の狐のように見えた。
ハムスターは爆と同じ大きさになって、ムキムキの身体に変化した。そして、九匹まとめてユーリに襲いかかる。
「も、もう少しで掴めるのに!」
「ここは俺に任せろ! 最強最速の盗賊、ダッシュ様にな!」
ダッシュ! 『おい勇者、最速の俺を追放していの? もう魔王なら盗んだけど』の主人公、怪盗ダッシュだ! 先週アニメ化した奴じゃん! スゲー!
ダッシュのチート能力は世界に存在するモノよりほんの少し速くなる能力。その能力を気に入られて勇者レインの仲間になるけれど、その勇者も転生者で、なんでも掴むチート能力を持っていた。そのレインに盗みの証拠を掴まれ、追放されて牢獄に入れられる所から物語が始まるんだよね。
ダッシュは無刀式維をあたしちゃんより速く打ち、ハムスター達を弾き飛ばした。
「次! ノエル! 行けるか!」
「行けるよ、ダッシュ。あの時以来だ。懐かしいね」
次に出てきたのは、『優しい盾の最強戦術』の主人公、ノエルだ。この二つの作品は同じ出版社で、同じ時期にアニメ化が決まりコラボ漫画を短期連載した事がある。だから、別の作品だけど知り合いという事になっているのか。
ノエルの能力は他人が受けた痛みを自分に与えるというもの。そして自分は魔法による自動回復で回復し続ける。あまりの優秀さに、勇者ガラガスが嫉妬して、彼を追放した。そういうストーリー。
「自分達も加勢します!」
「次から次へと! クソ!」
続く転生者あたしちゃんズは各々の能力を駆使してあたしちゃんとユーリを守る。
少しずつだけど、爆の動きが緩くなってきた。
攻撃しながら作戦を考える。爆は荒国さんでなければトドメは刺せない。その荒国さんは宙に浮いて、あたしちゃんの後ろにいる。
この
爆の動きがほんの少し遅くなった今なら向きを変えられる。少しずつ、気付かれないように、あくまで自然に・・・・・・拳と爪の攻防戦を続けながら、移動していく。
これがジョジョならオラオラとか言いながら殴り合いしてるんだろうけど、生憎あたしちゃんにその余裕は無い。ただただ無言の殴り合いいなし合い蹴り合い防ぎ合いが続いている。
何人かのご先祖様が覚醒して精度が高くなっていった能力がある。予知能力だ。これで維を続ける時に、次に何を出せばどの結果になるのかがわかる。
この能力はあたしちゃんズ全員が使える。意思をシェアして、爆を追い詰める事もできる。
でも、この予知能力は爆も持っているはず。占いで嫁見つけるレベルの父親の能力を、絶対に持ってるよね。だから、絶対に気付かれないよう少しずつ移動しなきゃ。
ラッシュの速さは音速を超えているのに、位置の移動はカタツムリより遅い。
「澪っち、気付いてる? ウチがなんかエッチなくすぐられボイスを出していないのを」
爆が確かにそう言った。
そうだ! ユーリの能力を受けているのに、くすぐられていない! 何が起きてるの?
「ユーリくん、どったの!」
能力で前を見ながら後ろの様子を見る。四ちゃんカメラや五十っちゃんの能力であたしちゃんの視覚は全ての方向を感知出来る。
ユーリは印をほどき、手を広げたまま震えていた。
「バイロン! どうして・・・・・・どうして、こんな事を!」
「えっ、そこに誰もいないよ? ダッシュさん、どうなってるの?」
「女神サン、悪い! ここにレインの奴が来やがった! こいつら相手しながらレインに掴まらないようにするのは、今の俺でも無理だ!」
「こちらもです! ガルガス・・・・・・貴方はいつもそうやって私の能力を悪用して! もうやめてください!」
みんな、突然そこにいない何かと戦い始めた。そもそも全員「離れた所で操る」「ひたすら避けて隙を見て何かする」「前線でとにかく攻撃を受ける」系の能力だから戦っているというより能力を邪魔されてうまく動けていない。
あっ、コレあれだ。幻術系の奴だ。
あたしちゃんズ達は、それぞれのライバルと相対している幻術を見せられているんだろう。
あたしちゃんには何も効いていないのに、みんなには幻術が効いている。この赤と緑の煙のせい以外になんにも思いつかない!
「魂魄に見せる幻術だ。コイツらがアニメに出てくる転生者の魂なら、元はただの人間だ。十三段流とは違う。だからコレにかかる!」
「こ、この一人十二鬼月が!」
「ん? なにそれ?」
知らないのも無理は無い。鬼滅はあたしちゃんが四ちゃんと六ちゃんの世界から持って来た漫画だ。パワハラ会議ネタとかも爆には通用しないんだろうな。
爆の攻撃がユーリの制御にかかる前よりも速くなる。ギアを上げて来た!
こちらも追いついて行くけれど、これはヤバい。ヤバヤバのギュドンだ。四ちゃんのサポートが無ければ、絶対に勝てない。負ける気がしない☆とか言ったけど、勝てる気もしない☆
「楽しいね、澪っち」
爆がふと呟いた。その顔は笑顔だ。
「お互い予知能力を持ってて、それを活かせる身体能力も持っている。お互い自分の悪い結果に抗っている。めちゃくちゃ楽しくない?」
「楽しくねーよ。忘れてないからね。あんたがあたしちゃんの家族を殺した事をね」
爆はにっこりと笑って、連撃の速度を上げる。
「宇宙最強の存在、コマセールの力を全て使える澪っちと、ウチはこれだけ渡り合えている。それでも、ウチはあんたには勝てない。ウチの占いで、そう出たからね」
何を言ってるんだ。
爆は『出口』を知らない。だからあたしちゃんがコマセールの力を全て使えると思っているんだ。
でもそうじゃない。『出口』を呼んでしまうから、全ての能力は使えない。だから、あたしちゃんは必死でこの連撃に耐えている。
制限があるのは言い訳にはならない。どっちかって言うとこの連撃に追いつくのが精一杯だ。認めなくちゃ。コレは元々の力の差なんだろう。あたしちゃんは修行をサボってた時期があった。ブランクって奴だね。あたしちゃん自身は、爆よりもずっと弱いんだ。
それなのに、爆は自分が負けると言い切った。
「父上譲りの占いで、同田貫荒国がウチを貫く所を見たんだ。この場所で自分が死ぬ所を見たんだ。でも、それがいつかはわからなかったし、どういう状況かも読めなかった。しかも、何をやっても結果が変わらないと来たもんだ」
バレてる!
しかも、えっ? この作戦成功すんの? マジで?
こちらはそこまでの予知能力が無い。
でも、もう少しすると四ちゃんから何らかのサインが来るのが見えた。
四ちゃん、さっきから何の言葉も出してない。このラッシュに合わせるのに集中していると思ってたけど、裏で何かをやっているのが予知で見えた。
ひょっとしたら勝てる?
でもどうやって勝つの?
いつもみたいに何か能力が発動して勝つ?
そしたら『出口』を呼ぶ事になってしまう。それだけは避けなきゃ。あたしちゃんが向こう側に行ってしまったら、誰もこの世界を守れない!
「ウチは絶対に澪っちには勝てねー。だから、少しでも長く時間を稼ぐ作戦だった。でも、この時が止まった世界で、この瞬間が来るのは予知が出来なかった。これじゃ時間稼ぎもクソも無ーよ。澪っちがこの能力を発動した時点でウチは負けていたんだ」
「爆、それは違うよ」
「えっ?」
爆の言葉に重大な勘違いを見つけたあたしちゃんは、爆の言葉を否定する。
そうだ。爆は重大な勘違いをしている。
その勘違いへの怒りが、あたしちゃんの維を加速させる。
「あんたはもう負けてたんだ! 十三段流に! あたしちゃんの家族に! 手を出した時点でね!」
加速したあたしちゃんの維に押されて、爆が後ずさる。ジリジリジリジリと、少しずつ後ろに下がっていく。
「そうかもね。でも、今更加速しても遅いよ」
「は? パイセン、強がりっすか?」
「あははは」
爆はその狐顔を邪悪に歪ませて笑った。
「その変身って、ずっと続く奴なの? そんなに頑張っちゃって、大丈夫?」
あっ!
ヤッベ! 全然気付かなかった! これがゲームならそういうのありそう!
四ちゃんカメラを意識してゲージを確認する。あたしちゃんの体力はまだ満タンだ。って、あたしちゃん、体力ゲージしか確認してない。ゲージ投げる時、変身のエネルギーゲージみたいなのもあった気がするけど、どれだ?
体力の下に、一瞬減ってすぐ回復するゲージがある。これは多分スタミナなのかな。で、その下に、ピンク色に輝くなんかイナズマエフェクトとかでド派手なゲージがあった。それはもう残り三分の一しか残っていない。
これだ! 絶対これだろ! ってしかもめちゃめちゃ減ってんじゃん!
これが無くなったら変身解けちゃうじゃん! ヤバヤバのヤバヤバのバーンじゃん!
「で、どう? どれだけ続けられそうか、わかった?」
爆はニヤニヤしながら聞いて来た。イラッとするなコイツ!
「この場所でウチが刺されるのは変わらない。でも、それがこの時の止まった状態なのか、澪っちの変身が解けて時間が動き出した後なのかは、占いでもまだ決まっていない!」
怒りだけではこの妖怪は倒せない。爆は死を覚悟してあたしちゃんと殴り合っている。少しでも自分が有利になるように、死ぬとわかって殴りかかってるんだ。予知は爆と殴り合う光景しかまだ見えないからわかる。爆はそれだけ強い相手なんだ。
もっと何か。何かが必要なんだ。げききゅあがんばえーみたいな、ちょっとした奇跡が。
『それ、僕らの世界だと、プリキュアって言うんだ』
四ちゃん! 四ちゃんの声が聞こえる。何かをやりきったような、清々しい声だ。
『やっと爆の倒し方がわかったよ。それの準備をしていたんだ。気付かれないように、それを続けてね。あと、もうそろそろ澪ちゃんにも聞こえると思うよ。ちょっとした奇跡がね』
ごめん。何言ってるか全然わかんな・・・・・・ん?
確かに何か小さな声が聞こえて来た。それはいろんな国の言葉で、あたしちゃんの心に響いてくる。みんなが、あたしちゃんを応援してくれている声が。
これは一体?
『澪ちゃんが増えてから今まで、僕はこのゲームをプレイしていない。それでも、四代目からの指示は来ていたよね』
そうだ。あたしちゃんはずっとその指示に従っていた。
えっ? ど、どういう事?
『四代目の魂はバラバラに散った・・・・・・。だったら、僕以外にもこのゲームのプレイヤーがいると思ってね。集めたんだ。みんなここでクソゲー判定してプレイを止めてたんだ。そのみんなで、これから一斉にログインして・・・・・・同じ場面をプレイする!』
四ちゃんがそう言うと、一斉に指示の光が現れた。ど、どれを選べばいいの?
『澪ちゃんがんばえ〜!』
『何でも良いから好きに選んで!』
四ちゃんが増えた! 四ちゃんズの指示をひたすら選んでいく。予知も無限に増えていく。
爆がさらに後退りして、こちらの攻撃が深く当たる様になった。
でも、それを押しのけて反撃をしてくる爆の攻撃も、あたしちゃんに当たる。
「また何かしたな、澪っち。予知が追いつかない! 澪っちの選択肢が増えすぎて、定め切れない!」
爆の右の爪があたしちゃんの顔面に迫る。あたしちゃんの右手刀も爆の喉元を捉える。
その瞬間、爆の動きが止まった。
同時にあたしちゃんの手も止まる。動かせなかった。それは爆も同じだと思う。
四ちゃんズが一斉に参加したせいだ。予知が多すぎる。もう殴り合う必要も無い。
無尽蔵の未来が殴りかかってくる。爆も同じものを見ている。だから、止まるしかない。
左脚で蹴りを繰り出す爆の姿、それを右肘と右膝で捉えながら左手で爆の右手を掴むあたしちゃんの姿・・・・・・同時にあたしちゃんの右手刀を左手で払い、あたしちゃんの右飛び膝蹴りを避ける爆の姿・・・・・・あらゆる未来が脳裏を駆け巡る。
未来の読み合いだけすれば、殴り合わなくても結果が見えてくる。
「やっぱり、楽しかったね。澪っち」
「今は少し楽しいね。ここから続く未来見放題だし・・・・・・」
無数の未来は、一つの点に辿り着いていた。
それはあたしちゃんが想定した未来であり、爆が占い・・・・・・予知能力で見た未来だった。
まだ荒国さんはあたしちゃんの後ろにある。でも、未来では、今、爆がいる場所の真後ろにあった。
『プログラムを解析して、荒国さんだけ、こちらで位置を変えられる可能性が出てきたんだ。そのプログラム改変コードを、今から打ち込む。暗号は多いし、本当に可能かどうかもわからない。でもやってみる価値はある』
四ちゃんズの声の一部が遠のいていく。みんな、プログラム打ち込み作業に入ったのかな?
何をどうやってやってるのかこっちからはわかんないけど、多分ケン坊がなんかパソコンカチャカチャしてるアレみたいな感じでキーボード叩いてんだろうな。
あれ? それって、ケン坊にあげたアニメ映画で似たシーンあったな。確か・・・・・・
「サマーウォーズ!」
予知が少なくなって四ちゃんズの指示が半減した。その瞬間、予知攻撃ラッシュが再開した。
右手刀はのけぞりで避けられた。同時に左脚の肉球キックが飛んでくる。肘と膝で受け止めてこちらも左脚で蹴り上げ、回転して右足で腹を狙う。それも素早く両腕で受け止められる。
下がってはいけない。蹴りは両腕を塞ぐ為の一手だ。左脚で爆の頭を狙い、爆の両腕を蹴り上げてガードを開けて、再び頭に右の踵をぶつける。
着地して、爆が振り下ろしてくる右腕を掴んで、左腕の肘を狙って手刀で突く。手応えはある。でも、今度はこちらの両腕が塞がれた。
この状態でも入る攻撃があるんですか? あるんです! 頭突きで顎を砕く。さらに攻撃が深く入るようになっている。
殴り合いといなし合いが続く。爆は後ろに下がっていく。
四ちゃんの声が聞こえてきた。
『よし! ここでエンターキーをみんなで押せば、荒国さんが爆の真後ろに現れる! 準備はいい?』
まだ爆を倒せる未来が遠い。もっと追い詰めないとダメだ。四ちゃんも、それを理解してくれてるはず。もうちょっと待ってもらおう。
とにかく攻撃を続けて、良い感じのタイミングで強く爆を押す絶を繰り出そう。
あっ。四ちゃんズ、そのタイミングって、もしかして・・・・・・あの台詞を言う場面じゃね?
『・・・・・・っ! 確かに! 一緒に言おう! 絶好のタイミングが来るまでに、例の画面も用意しておくよ!』
爆の右脇腹が空いている。すかさず左鉤突き、右肘打ち、頭と腹を狙う両手突き、右手刀、左抜き手を打ち込む。四ちゃんズの何人かが『煉獄!』と叫んだ。
えっ、技? なんかそっちの世界にそういう技があんの?
ひょっとして、六ちゃんの世界にもある?
二十四ちゃんの能力を使って、この技を探す・・・・・・あった。これは十三段流で応用が出来る。
六ちゃん世界からパクってきた技、煉獄を繰り出す。いくつかのパターンの連撃を組み合わせ、反撃の隙を与えない連続攻撃。十三段流と理念は同じだけど、なんていうのかな。エグい。
繰り出す攻撃は全て深く当たる。反撃しようとすれば、さらに深いダメージを受ける。
爆はそれを予知して、反撃をしてこない。人間相手なら大ダメージだけど、妖怪ならこの程度なら防御無しでも耐えられるのかな。
「あははは! まだ、まだだ! まだ荒国は澪っちの後ろにある! ウチが下がれば下がるほど、そこから遠のいていく! 荒国が動けるようになって、ウチの後ろに来るのはわかってる。でもそれは、時間切れの合図だよね。時間切れになれば、時間が動き出して、時間稼ぎができる!」
「時間時間うっせーよ!」
爆は余裕の表情で、あたしちゃんの連撃でボコボコにされてるけど、攻撃を繰り出す度、爆が後ろに下がる速度が上がる。行ける! この煉獄って奴、めっちゃつよつよだ! 十三段流に組み込もう!
「あっ!」
爆が大きくよろめいた。ここから先の予知は、爆が荒国さんに貫かれる未来、たった一つだけだ。隙の糸見えまくりじゃん。ここだ!
「いくよ、四ちゃんズ!」
『ああ!』
『エンターキー押す準備は出来てるよ!』
『誰だよ、いつの間にか例のウィンドウとボタン用意したヤツ!』
『これもう鼻血出した方がいいかな?』
みんなノリノリだ。
ノリノリだからこそ、この攻撃は絶対に成功すると確信出来る。
「せーのっ!」
『『『『『『『『『『『『『『『『『『「よろしくお願いしまああああああああああぁぁす!!!!!!!!!」』』』』』』』』』』』』』』』』』』
爆の胸を狙った押し出すような蹴りは、今までの攻防がウソだったかのように綺麗に入った。
その瞬間、荒国さんが爆の真後ろに現れて、爆の背中に突き刺さり、その切先があたしちゃんが蹴りを入れた胸から飛び出した。
胸からキラキラ光る粒子が飛び出す。血液じゃない。妖怪を倒した時に出る魂関連のなんかそういう奴!
六ちゃん、これなんか名前考えといて。
「なんで⁉︎ なんで荒国がここに⁉︎」
爆は驚きながら、前向きに倒れた。
勝った。あのつよつよな爆を、ついに倒すことが出来たんだ。
「これが十三段流の・・・・・・魂の絆だよ。四ちゃんは、バラバラになっても、異世界に散っても、ずっと荒国さんの所有者だ。だから、異世界から荒国さんをコントロール出来て当たり前なんだよ」
多分、この奇跡はそう言うことだと思う。
あたしちゃんの変身ゲージを見ると、もうあとほんの少ししかゲージは残っていなかった。
危なかった。
「これは?」
「チッ・・・・・・幻覚だったのかよ」
「そんな。僕たち、全然お役に立てなかったのでは?」
幻覚が解けたユーリ達が駆け寄って来る。
みんな無事だ。って言っても、身体はあたしちゃんの身体だから、再生能力ですぐ回復するんだけど。
「みんなが居なかったら、きっと途中で変身が解けてた。そうなったら、爆を倒すまでもっと時間がかかったと思うよ。ありがと」
あたしちゃんがそう言うと、あたしちゃの変身が解けて、あたしちゃんズ達はなんかカードになった。それぞれのキャラクターのイラストが描かれたカードだ。キラキラしてんな。これで今後も呼び出せるってわけだね。
時が動き出した。
大きな壁が光と共に崩れ去る。これを守っていた爆を倒したから、崩壊が始まったんだ。
荒国さんが爆から抜けて飛んできた。
「えっ・・・・・・澪、一体これはどう言う状況だ? なんか、四代目が俺を握った感覚はあるんだが、知らん間に移動してるし、爆は倒れてるし・・・・・・何が起きたんだ?」
「後で説明するよ」
そう。それより今は爆だ。
まだ生きている。でも魂のなんかそういう光る奴は血飛沫のように溢れ出て止まらない。
うつ伏せだった爆は、力を振り絞って立とうとするけど、立てずに仰向けになって転がった。
「ウチの完敗だ。やっぱりコマセールには勝てなかった。でも、後悔は無い」
「あたしちゃんの家族殺して、友達を利用して、そんでもって街もめちゃくちゃにしといて勝手な事言うなよ」
「そうだな。いくら目的の為でも、やり過ぎだったかもしれない。でも、こうしないと、コマセールと戦えなかった」
「目的? あたしちゃん達を倒すのが目的だったの?」
爆は清々しい笑顔を浮かべた。
「そうだ。ウチは父上の願いを叶えたかった。この世界で最強の生物、コマセールに、ウチらの仙術が通用するか知りたかった。結果は最初からどちらでも構わなかったのさ。だから満足だ」
は?
コイツ、その為だけにヒナピの封印解いたり、みうみうを妖怪に戻したり、街めちゃくちゃにしたの?
バカなんじゃないの?
でも、そういうものなのかな。ご先祖様の記憶を辿ると、ご先祖様達と戦った妖怪や化物達は、みんなどこか楽しそうだったのが見えた。
みんな今の爆みたいな顔をしてた。
鞘に戻った荒国さんがふわふわと浮いている。
「爆。お前、そんな事の為に、こんな事を」
「そうさ、同田貫荒国。父上から受け継いだ仙術と、母上から与えられたカオティックの片鱗。この二つでこの状況を作れば、お前達十三段流と、そこのコマセールが動くと確信していた」
爆はニヤリと笑って、空に浮かんでいるトビーを見つめた。
トビーはこちらに降りてこない。何かを警戒してるのかな?
「それと、あの赤い光の事だけどな」
「ヒナピ?」
「人の母親にひでぇあだ名つけるなよ」
爆はケタケタと笑った。
そして、一瞬、寂しそうな顔をした。何か、認めたくない事を認めなきゃいけないような、そういう、覚悟した顔だ。
そして、呟くように言った。
「あれな、母上じゃねーのよ」
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