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将星 出流

光の中で

もう十年前の話。

 中学生三年の冬を迎えた頃、俺は将来のなりたい職業の話を夜の公園のブランコに乗りながら、親友と言える四人と話した

 それぞれが自分の夢やなりたい理由を笑顔で語りながら、自分もなりたい職業の話す。


「俺はリハビリの先生になりたい」


 きっかけ自体は他愛もなかった。

 兄が薬学部に入り、たまたま兄と戯れ、転んでいる兄を起こすと、


『リハビリの先生でもなってみたらどうだ』


 たったこの一言が人生を変えるきっかけだった。

 本当にたまたまだったが、自分に何故かしっくりくる。

 そう思えた。

 中学生の他愛もない話は終わり、時間はあっという間に経っていた。

 小学生の頃から仲の良かった俺たちは、高校を機に離れ離れになる。

 中学三年が一番印象に残る時間だった。

 授業をサボり、親友の家でゲームをし、遅刻し、先生に怒られながらも笑顔が絶えなかった時間。

 家族仲が悪かった俺の家の話を親身になって聞いてくれた親友、K・S。

 みんなで行ったカラオケで、けいおんの曲を歌ったり、みんなでカードゲームなんかして濃い時間を過ごしてた。

 卒業式の日、みんなで何時ものように親友宅で遊び、昔の話をし、各々は自分の新しい高校生活をスタートさせる。

 高校入学と共に俺の人生は大きな転機を迎えた。

 両親の離婚。

 入学二日前、両親が離婚をすることを告げられた。

 多感な時期の俺は衝撃であったと共に理解した。

 あぁ、俺の役割は終わったんだ。

 父親のお守り、それが俺の家庭内の役割だった。

 父親が不機嫌にならないよう幼稚園から機嫌取りをし、お年玉は父親を楽しませるために父親が一緒にできるようなゲームを買ったり。母や兄が暴力を振るわれないよう、兎に角機嫌を取っていた。

 そんな役割も出来事としたら、一瞬にして消え去った。

 そこからの俺は抜け殻のようになっていた。

 授業を真面目に聞き、家でも勉強をするようになり、何を目的に頑張ればいいのか、理解できない時間が経過していった。

 家の近所を散歩していた時、たまたまK・Sと出会った。


「最近、調子どう?」


「親が離婚した」


「大変だね、そういえば来月俺の誕生日なんだ」


「そうなんだ。誕生日おめでとう、早く死ねるな」


 冗談めかして言った言葉にK・Sは笑っていた。その時の俺も笑っていた。

 その後に見た夢は最悪だった。

 K・Sがベッドの上でもがき苦しむ夢。

 息絶え絶えに苦しんでいる姿を第三者視点で見ている夢。

 助けてやれないもどかしさだけが残った。

 これは今でも忘れられない。

 その一ヶ月後の夜、母親から伝えられた。


『K・S君……死んじゃったって』


「……………………嘘でしょ」


 その言葉への返答は返ってこない。

 俺はテレビを呆然と見つめていただけだった。

 それから数日後に行われた葬儀に参加する。


「本当に死んだんだ…………」


 虚無感や消失感が一気に心を染めた気がした。

 父親に続き、親友。

 大切な人がいなくなっていく。

 大きなストレスが俺を覆っていくのがわかったが、認めないように勉強をがむしゃらにする。

 教室の掲示板にある、理学療法士・作業療法士の仕事を伝える張り紙。それを見つめれば、自然と勉強をしていた。

 ただ、一向に心の消失感等は消えなかった。

 もともと父親が寝ていた場所には自分が寝る様になっていた。

 枕は父親のものを使う。

 懐かしい匂いがそこからはした。

 そして、眠りにつき一つの夢を見た。

 夕暮れ時の様な光が中学校の教室を照らし出す。

 そこにいる四人の親友たち。

 一つの机を囲む様に談笑する姿を俺は一歩引いて見ていた。

 時間が経つにつれ、一人一人と教室から出て行き姿が消える。

 そして、最後に残るK・S。

 後光に差されながら、俺の方へと歩いてくる。


「楽しかったな」


「うん、凄く楽しかった」


「でも、もう行かなくちゃ」


 光差す方へと振り向き、歩いていくK・S。


「行くなっ!! まだ、ここで楽しもうよ……」


 あれが夢だった。


 今が現実なんだ。


 そう思いたかった。

 辛かったことが全部夢だったらいい。

 涙を浮かべながら懇願する様に俺は頼み込んでいた。

 ただ、そんな俺に微笑むK・Sは、


「もう、終わりなんだよ。ただ、ずっとしんどそうにしてるから伝えたかっただけなんだ。俺の分も生きてくれよな……それと、リハビリの先生になって困ってる人を助けてよ。俺の分まで生きてもらえる様に」


 そう口にして光の方へと浮かび上がり、満足げに笑顔を浮かべる。無邪気に普段と同じ様に。


 そんな彼の姿に俺は泣きながら笑顔を浮かべた。


「絶対にリハビリの先生になって、お前の分も患者さんに良くなってもらうからっ!!」


 その言葉を聞いたK・Sは


「じゃあね」


 と言って消えた。

 その瞬間に起きた俺の目からは涙が流れてた。そして、それは止められず、嗚咽も漏れていた。

 ただ、胸に空いていた虚無感等が消えて、心が温かくなっていたことを今でも覚えてる。

 あれからというもの、多くの出来事があった。

 親族には脳卒中になった人が出た。

 大切にしたいと思った彼女は障害によって、生活しづらさがあった。

 多くの出来事を経験した。

 年に一度、できるだけK・Sの元へと訪ねる。

 そして、線香をあげながら口にする。


「約束通り、リハビリの先生になったぞ」


 お前との約束の一歩を踏み出せた。


「これからも頑張るから、応援してな」


 夏の昼間、晴天の中で俺は約束を果たせた……そう思いたい。

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