秋乃は立哉を笑わせたい 第15.5笑

如月 仁成

予告編 夏風呂の日


 ~ 七月二十六日(月)

     夏風呂の日 ~

 ※沐浴抒溷もくよくじょこん

  神聖な儀式とかの前に。

  湯あみして身体を清めること。




 うええ!? おにい! 狂った!?


 …………お前の方が狂っとる。風呂を覗くなバカたれ。


 シャワーの音が聞こえねえから、てっきり上がったんだと思ったんよ、凜々花。


 それですっぽんぽんなのか。明かりついてんだろがよ。


 いや、このあちいのに湯船に漬かってるとかあり得ねえ……。


 いいだろ別に。まだ合宿の疲れが抜けねえんだ。


 へ? 湯船に漬かると、疲れが抜けんの?


 そうだぞ? こう、疲れがお湯に溶けだす感じ……。


 なんだそういうメカニズムだったん!? 先に言ってくれよ……!


 床をばんばん叩くな。跳ねた水がいい具合に顔に当たるんだが。


 そうか……。どうりで……。


 道理で、湯船に漬かると体が楽になる気がしてたってか?


 うんにゃ? パパの後にお風呂入ると、なんか疲れるって思ってたんだよね。


 戻らんよ人体には。


 ぐったりして、しばらく休まんと何もできなくなるんよ。


 それは親父が風呂の温度めちゃ高くするせいだろ。


 ああ! 凜々花分かった! それで源泉かけ流しの温泉が人気あるんだ!


 下水に捨てちまってんのかよ、疲れ。迷惑な話だな。


 やがて海に流れて、雨になって戻って来るんよ。


 浴びたくねえぞそんな雨。


 米と小麦と、豚と野菜が疲れを取り込んで……。


 やだやだ。なんも食えなくなるだろやめねえか。


 そして出来た料理がこれ。



 ぴんぽーん



 親父が食事当番の日の定番。

 デリバリー。


 そして、脳に直接信号を送って、無理やり空腹にさせてしまうこの香りは。



 …………食欲、なくなった?


 親父は、何を注文したんだ?


 か『疲れ』-。



 ぐう



 俺は、自分でも驚くほどの勢いでカツカレーを平らげて。


 きっと、誰かの疲れを取り込んだせいだろう。

 そのまま椅子から動けなくなったのだ。



 …………パパの分まで食うとか。



 そんなことをつぶやきながら凜々花に渡された胃腸薬には。


 胃の疲れに効くと書かれていた。



 理に適っとる。

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