9.雨季 2話

≪前回のあらすじ≫


古巣の【Fenrir】へ戻ることを決めたカイル。

晴れない気持ちのまま1人【STRAND】を訪れていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 雨季に入ったモスグルンは、毎日鈍色の空。

 今日もシトシトと雨が降り続く音だけが聞こえる。

 いつも以上に活気のないBLITZの店内。

 雨音が眠気を誘う。


 ジリリリリ………とめったに鳴ることのない電話のベルの音が耳に刺さった。

 背筋を真っすぐ伸ばし、まるで起きているかのような姿勢で椅子に腰掛けたまま睡眠をとっていたリュウガは、静かに立ち上がった。

 普段は面倒だから気づかないふりをしてシレっと電話をサクラ達に任せている節があるのだが、今回は2階にいる彼女達に気づかれないよう、素早く受話器をとった。

 

「はい、こちら何でも屋BLITZ」


「あぁ、リューガ、一回で出てくれてよかったよ!外からかけてるんだけど今あんまり手持ちなくてさ」


「そりゃいつものことだろうが。で、要件はなんだ」


 内容なんてわかっている。


「あぁ、実は久しぶりに急ぎの用事ができちゃってさぁ、例の議員の息子さんの件、今回の人探し依頼からはしばらく外れなきゃいけなくなりそうなんだよね。だからさ、少しの間任せちゃってもいいかな?」


「あぁ、わかった」


「あれ?マジで。なんかすごいあっさりじゃん!?俺もっとガミガミ言われるの覚悟してたんだけどね。まぁそういうわけだからさ、しばらく空けるってサクラたちにも伝えといてほしい」


「どれぐらいだ?」


「え?」


「その案件とやらが終わるのはいつだ?と聞いてる」

 

「ん~、現地見るまでちょっとわかんないかな。でもなるべく早く済ませるから」


「馬鹿野郎が」


「ん?なんて………」


「とっとと帰ってこい。それまで依頼は全て引き受けてやる。その代わり必ず戻ったら俺の5倍働け、いいな!!」


 それだけ受話器に叫んで強引に電話を切った。

 どうせここで何を話したところでアイツの考えは変わらない。

 だから、「帰ってこい」とだけしか言えなかった。


「もう一度お前と殺し合うことになるかもしれねえな。皆を助けたいだかなんだか知らねえが下らねえ」」

 

 リュウガは再び目を閉じ、深く深呼吸をした後グっと拳を握り締めた。


「どうしたんですか、リュウガさん!何があったんですか!?」


 兄がいるとき以外に聞くことのない、リューガのどなり声と乱暴に電話を切った音に驚いて、2階で一緒にパズルを組み立てていたサクラとシェリルがパタパタと慌てた足音とともに、慌ててやってきた。


「スマン、気にするな。カイルからお前らに言伝だ」


「お兄様から?何でしょう?」


「『ちょっと用事ができちゃってさぁ、今回の依頼からしばらく外れることになりそうなんだよね。だから少しの間任せちゃってもいいかな?ヨロシクー。』だそうだ」


 ピリピリとした空気を緩和させようという配慮のつもりなのか、眉一つ動かさず妙に似せた声色でカイルの言伝を話始たリュウガ。

 その話ぶりにヘラヘラとした兄の姿がありありと目に浮かんだのか、サクラの眉が吊り上がる。

 シェリルは・・・これはおそらく、カイルに似ているなと関心して聞いている顔だ。


「え〜、なんですか ソレ。また前みたいに遊びに行ってるんじゃないでしょうねぇ・・・」


「ということは、しばらくリュウガさん一人でお仕事ですか、大変です」


「まぁそういうわけだ、俺はこれから情報を集めに行ってくる。今晩の夕飯、俺の分は作らなくていいから、たまには二人ともゆっくりしてな」


 それだけ言い残すとリュウガは壁に掛けてあった墨色の上着を羽織り、雨の街へ出て行った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ー同時刻ー


 廃棄区画とは離れたセントラルエリアの片隅。

 だが見上げると同じ空、同じ雨。


「いやぁ、待たせちゃってごめんねエリス」


 電話ボックスから出てくるなり、カイルはばつが悪そうに軽く頭をかいた。


「いえいえ。それで無事にお話はついたのですか?」


「うん、さすが俺の相棒。話が早いよ」


「そうなんですか?私には喧嘩をしていたようにしか聞こえませんでした」


 そんなカイルの様子を見て、エリスは少し目を細めクスクスと苦笑した。


「うん、誰かを本気で心配するとき照れくさいのか大体あんな感じなんだよ。超面白いよね。でも毎回毎回からかうたびにぶん殴るのは勘弁して欲しいけど」


 楽しそうに語るカイルはとても自然に笑っている。

 そう、この人はとても嘘をつくのが上手いのだ。

 自分に対しても他人に対しても。

 昔からのカイルを知るエリスはそれをよく分かっている。


「じゃあ早速ご挨拶に参りますかね」


「はい、カイルさん。御供致します」


「ハハッ、大袈裟だぁ、エリスは」


 カイルは歩き出す。 

 エリスの差し出す傘に入りながら。

 不安やもどかしさを洗い流さんと雨は大地を這い続けた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~登場人物紹介~


・カイル・ブルーフォード:【なんでも屋 BLITZ】を営む。

              元【Fenrir】第1小隊隊長。


・リュウガ・ナギリ(百鬼 龍牙):【なんでも屋 BLITZ】のメンバー。

                  過去にはカイルと敵対していた。


・サクラ・ブルーフォード:カイルの妹。

             主に兄の言動に頭を悩ませている。


・シェリル・ミシュラン:ミシュラン家ご令嬢。

            いちよう吸血鬼。


・エリス・フランシスカ:【Fenrir】第2小隊隊長。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る