7.とある午後 2話
≪前回のあらすじ≫
サクラとシェリルは、ストランドにてスイーツを堪能していた。
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殺(ヤ)られる
薄汚れたカウンター席、両サイドを赤い服の男と黒い服の男に固められた男は自分の背中に嫌な汗が伝うのを感じた。
先ほど見た光景が未だに信じられない。
ものの数秒で仲間が全員倒されてしまった。
「それで、お前は何を知ってるんだ?」
左隣に座った黒い服の男がズシッと肩に置いてきた手からは、さっさと情報を吐けという圧力を感じる。
「ちょっと俺たち忙しくてさー、早めに話してくれると助かるんだけどなぁ。出来ればお友達が昼寝してる間に」
右隣に座った赤い服の男は、黙秘し続けるとお前もすぐにそこに並ぶぞと言いたげな目で、背後の板張りの床の上にバリエーション豊な刃物と共に転がっている20人ほどの男達へ視線を送る。
ごくり....
ついに男は意を決したかのように唾を飲み込み、ようやく重い口を開いた。
「・・・1つだけ条件がある。『絶対に俺が話した』ということを漏らさなさいと約束してくれ」
その言葉に赤い服の男は口元をニマリと歪めて軽い調子で答えた。
「ああ、大丈夫さ。俺たちはすごーく口が堅い。それに安心していいよ。ここで今君の話を聴いているのは俺たち以外に誰もいない」
「・・・わかった。何が聞きたいんだ?」
男はずっとカウンターに肘をつきながら固く組んでいた指を解き、赤い服の男の方を真っすぐ見据えて問うた。
「知りたいことは2つ。まずはこの男、ライルというやつの居場所は知ってるかな?最近君らのお仲間になったみたいなんだけど」
そういって赤い服の男は一枚の写真を差し出した。
「知らねえな。俺たちの仲間がいったい何人いると思ってんだ?そんな末端の末端なんていちいち把握している分けがねえだろうが」
バリンッ!
突如、左隣りに座っている黒い服の男の手の中でビール瓶がキャンディーの様に砕け散った。
1ミリも姿勢を変えずただ目だけをギロリと動かして一言だけ告げる。
「思い出せ」
「す、すまねぇ!本当に知らねぇんだ。」
もう少し言葉を選ぶべきだった。
どうやら今の自分の物言いが癪に障ったらしい。
「次、君らの組織は、ある人物からコレ仕入れているらしいね。なんでも変な仮面をつけた奴だとか」
再び赤い服の男が話始める。
写真を上着の裏の胸ポケットにしまい、今度は透明な小袋をカウンターに置いた。
それは、不気味な色をした赤い錠剤である。
「・・・アンタら、それを知ってどうするんだ?」
「余計なことは考えなくていい。そいつの特徴を教えてくれないかな?男?それとも女?背丈は?体格は?声は?」
「く、詳しくは知らねえ。なんせソイツを見たことがある奴等は皆違うことを言ってやがって。・・・少なくとも俺が聞いた話だけでも、若い男の声だった、老人の様だった、どうも女らしいとてんで情報がバラバラなんだ。ただ一つ間違いないのは変な仮面をつけた気味の悪い奴だってことぐらいだ」
「次にそいつが現れるのは?」
「接触してくるのは不定期だそうだ。つい先日【リブ】で取引があったみたいだからしばらく先なんじゃねえかな。なぁ、頼むよこれぐらいで勘弁してくれ、アンタらもウチの噂ぐらい聞いたことあんだろ?」
「ああ、スカルのオブジェ、だろ?」
黒い服の男が新たに開けたビールを飲みながら答えた。
「そうだ。俺はいつでも死ぬ覚悟は出来てる、だがよ、あれだけは嫌だ。あんな目にだけはあいたくない。ほら、知ってることは全部話したぜ、頼むよもう勘弁してくれ、なぁ頼む」
目の奥から魂を直接覗き込まれる様な錯覚を覚える、黒い服の男の眼光。
再び男は唾を飲み込んだ。
どろっと脂汗が額を流れる。
「・・・行くぞ、これ以上は時間の無駄だ」
男の言葉に偽りが無いと確信した黒い服の男、リュウガはビールを飲み干し静かに席を立った。
「そうだね。じゃ俺らはそろそろ行くよ」
赤い服の男、カイルも続けて席を立つ。
両脇にいた恐ろしい男たちが席を立ったことにより緊張が解け、ようやく男は肺に十分な空気を取り込むことができた。
「あぁ、そうだ。一つ忘れてたぜ。素直に話してくれたお前に特別にアフターフォローしてやるよ」
真っすぐ店の出口に向かっていたリュウガだったが、何かを思い出し再びカウンター席に戻ってきた。
その様子を見て再び男の顔が曇る。
「まだ、・・・何かあるのか?」
「ゲロった事、バレたくねえんだろ?一人だけ無事だと怪しまれるだろうが。安心しろ、ダメージが長引かない用に上手く調整してやるからよ。さっさと立て」
パキリと右側手の親指の関節を鳴らすリュウガ様子に全てを察した男は覚悟を決めゆっくり立ち上がった。
「さっさとやってくれ。ボスにバレるよりずっといい」
「意外と物分かりがいいじゃねえねか。3カウントでいくからな」
「ああ、やってくれ」
「3・・・」
スパァンッッ!
構えも無しにノーモーションで放たれたリュウガの拳が鋭く男の顔面に突き刺さった。
男は声すら上げずに意識を失い、床に転がる仲間たちの間に自由落下を始めた。
リュウガは、すかさず崩れ落ちる男の左袖を掴み、床で頭を強打しないように最低限落下の勢いを殺した上で男の体を雑に床に転がした。
「きゃー、リュウガさん、怖ーい、サイテー」
端から見物していた野次馬(カイル)がすかさず勘に触る裏声で茶々を入れた。
「うるせえ!下手に身構えられると余計にダメージ与えちまうだろ」
「なんにせよ手荒いよねー。しかし埒が明かないや。ここからはエリアで手分けしようと思うけど、どう?各々、適当に帰還するプランってことで」
「ああ、構わねえ。・・・・・サボんじゃねえぞ?」
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リュウガと二手に別れたその足で、セントラルの外れにひっそりと隠れる様に存在しているとある店を訪れていた。
「よお、アンタか。終わってるぜ」
カイルが店に入るとすぐに、カウンターで何やら作業をしているモヒカン頭で痩身の初老の男が声をかけてきた。
何かの油で汚れたエプロンをつけ技師といった感じの外見をしている
「早い!流石、アドルフが紹介するだけはあるね。いったいどこで知り合ったのかな?」
「旦那とは長い付き合いでね。アンタの噂は昔から嫌というほど聞かされてるぜ。慈悲なき魔剣士さんよ。そら、これがレポートだ」
「なるほど、その頃からか。まいったなー」
アドルフの使用している特殊な銃火器、その弾丸や銃身に施された特殊な金属や薬剤などの数々の素材、おそらくは彼がそれらの入手ルートの一つであろう。
モヒカンの男から差し出された紙切れにカイルは手を伸ばしたが、その手は空を掴んだ。
「・・・先に1つ聞かせてくれ。アンタ、一体何に首を突っ込もうとしてるんだ?」
警戒と不安、そして心配の入り混じった目である。
「それは言えないなー。元部下の知人を危険な目に合わせたくはないし」
カイルは少し深く息を吸い込んで真っすぐモヒカンの男の目を見てそう告げた。
「ふぅ、・・・そうかい。なら仕方ない。いくつも見たこともねぇ成分が入ってやがってな。なんにせよロクなもんじゃねえのは確かさ」
手渡された紙切れに書きなぐられた成分一覧を見てカイルの不安が確信に変わる。
似ている。
あの時のアレの成分構成に。
「ありがと。コレ解析したこと秘密にしといてね。それと、出来ればしばらくココを離れた方がいいかな」
「ああ、アンタみたいなのがわざわざ持ち込んでくる案件って時点でよく弁えてるよ」
「ありがとう。あなたが話の分かる人で安心したよ。俺もまた仕事頼みに来ようかなー」
「そりゃどうも。あんまりヤバすぎねえ話なら歓迎ですぜ」
カイルは追加のチップ男に手渡し、紙切れをポケットにねじ込んで店を後にした。
外はもうじき夕暮。
カイルは思考の整理を兼ねて、そのまま散歩がてらセントラルの大通りをぶらついていた。
楽観ケースは、フェンリル内部もしくは他派閥による策略。
最悪ケースは、あの人自身の発案。
しかし、どうして今更あんなものを?もしそうなら、目的は・・・。
過去と今、ぐるぐると情報の断片が脳内を巡り、取り留めの無い思考が浮かんでは消えてゆく。
そんな彼の前方、まばらな人通りの中によく見知った1つの人影が見えた。
「こんにちは、カイルさん。先日ぶりですね」
それは、【Fenrir(フェンリル)】2番小隊隊長、エリス・フランシスカであった。
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~登場人物紹介~
・エリス・フランシスカ:【フェンリル】第2小隊隊長。
カイルを慕っているらしい。
・カイル・ブルーフォード:【なんでも屋 BLITZ】を営む。
・リュウガ・ナギリ(百鬼 龍牙):【なんでも屋 BLITZ】のメンバー。
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