CANAAN ~終焉に輝く星を穿つ、罪と愛の救世録~

こたろうくん

第1話

 “レプランカ聖騎士団”の選抜大会はアルカディエの都が最も熱く賑わう時である。

 その名の通り聖騎士団への入団を懸けた大規模な模擬戦であり、各地の実力者たちが集まりレプランカの為の騎士となるべくその力を示すのだ。


「おい起きろよ、お前の番だぞ、リオン」

「ぁ……? もうか……はや……」

「お前、よく寝られるな。普通、緊張して眠るなんて」

「緊張してっから寝るんだよ。一眠りすりゃ緊張も吹っ飛ぶ」

「吹っ飛ぶかよ、普通」


 控えの間にて参加者の為の長椅子に伸びていた少年がむくりと上体を起こす。その傍らにはでっぷりした下っ腹を備えたもう一人の少年が折り、彼は呆れたように金髪の頭を掻いた。


 眠っていたらしい少年をリオンと云い、彼を呼びに来たふくよかな少年はアダム。二人は共に選抜大会に参加する有力者だ。


 やがてリオンは長椅子から足を下ろし、あくびなどした後に広がっていた黒い後ろ髪を纏め紐で一つに結う。

 そして足元に雑に転がっていた身の丈を凌ぐほど巨大な“鉄槌のような”斧を右腕一本で拾い上げた。利き腕が使いやすい様にと袈裟懸けにされた服から大胆に覗く小麦色をした右の胸筋と右肩、そして右腕の筋肉が大きく隆起する。


 大斧を肩に担ぎ立ち上がるリオンを見てアダムはふっくらした頬を綻ばせ、垂れ目がちでまつ毛の豊富な双眸を細めると言った。


「ボクは既に勝利で入団を決めた。お前もビシッと決めろよ」

「おう! でなきゃ親父にぶっ殺されるからな」


 対して引き締まり厳つい様相の顔をリオンは歯を剥いた不敵な笑みに歪ませ、アダムへと左拳を突き出した。アダムはそれを右拳で迎撃し、鼻を鳴らす。

 そうして控えの間を去ろうとするリオンの背中に彼は思い出したように告げるのだった。


「お前の相手はシャイナだぞ」

「なに……?」

「ビシッと決めろよ」


 ぎょっとして振り返ったリオンへと、アダムはビシッと親指を立てて見せるのだった。

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